情報
NYから追跡部隊にしつこく追い立てられて、助かったと思ったら何処か異質な船に連れてこられてビビりまくるマルティネスとは裏腹に、最愛の娘を奪還する為に死力を尽くすと腹を括ったエリクソンは怯むことなく堂々としていた。
それが何時もの如く緩く構えるジョシュにはどことなく触れられざる者的な畏怖を感じさせた
ゲオルグの執務室兼自室に通されたジョシュ達は増設されたサーバーとモニター、充電中のタブレットに囲まれて黙々と作業をする眼鏡で白衣姿のゲオルグを見つける
「所長、データ持ってきた2人連れてきましたぜ?」
部屋に入るなりマーカスが敬礼をしつつざっくばらんに報告する
それと聞いたゲオルグは眼鏡を取り、疲れ切った目を押さえながら立ち上がるとエリクソンに向かい歩き出し握手をする
「うむ、久しぶりだね、ブース
「こちらこそ御無沙汰しております。教授、こちらでも教授の悪行はジョークのネタですよ」
かつての敵同士、お互いニヤニヤしながら
すると全員声をそろえて
「「冷えたビール!」」
と答えた
ゲオルグは呆れたように苦笑すると受話器取り、巡洋艦でほぼ強制的に助手になったレイこと、レイ・ジョージアに人数分の自慢のインペリアルレッドエールを人数分のジョッキと樽ごと持って来させる。
ノックの後におずおずと入って来るレイにゲオルグは一喝する
「コルァァ! レィ! 自分の職場でビビりながら仕事する奴いるかぁ! どーんと構えろぉ!」
「はい、ですが所長、僕のような昨日加入の新兵がデカい態度取ってたら顰蹙ものだと思うんですが……」
「やーかーまーしぃ! しばらくは僕の直属パシリで各方面に顔覚えて貰え!」
あのゲオルグに言い返す度胸にジョシュは将来有望なのかそれとも怖いもの知らずか分からなかった。
そこにノックの後、百地が冷えたジョッキをクーラーボックスに入れて持って来る
「レイ君、忘れ物だよ……おや、ジョシュさん、マーカスさん達もいらっしゃいませ」
「よぅ、モモチン、研究所では大活躍だって?」
ジョシュが冷やかすと百地は急に渋い顔をして
「あれからベケットさんに
その答えにマーカスも頷きながら
「うん、お前らはよほどのことがない限り戦場に出ない方がいい。 ルール違反ではないが、あれは戦場に或る最低限のマナーを超える……但し、糞悪党と自衛の為なら許される戦法だと思うよ」
「はい、分かりました」
しょぼんとする百地にゲオルグがダークアンバーの液体が満たされたジョッキを持たして
「まぁ、甲斐よ。今日は付き合え、だが万が一の時は期待してるぞ」
自分もジョッキを持ちながら慰め、ジョッキが全員に行き渡ったのを確認し
「それじゃ、お疲れ」
そういうと全員一気に空ける
『プハァァァァ』
飲み干した後の吐息さえ痺れるような苦みのような旨味と喉ごしに数十秒間支配される
そして御替わりが配られるとレイや百地も一緒にエリクソンのデータを見ることになった
「まずパソコンを1台お貸し願いたい」
横に予備で置いてあるノートパソコンを差し出すとブリーフケースの中のチタン合金製のケースに入れられたUBSメモリー3本取り出し、差し込んで起動させる……
「3本連動させる事でファイルの自動解除キーと専用アンチウィルスプログラムを効かせてファイルを開けらせる。どれか一つでも欠けたら自動的にウイルスが展開されすべてのデータが消えます」
暫くしてバートリー社のマークと共に無数のデータや書類が展開される
「さて、どれから参りましょうか? 政敵に美人局や収賄仕掛けたネタや機密漏洩とか……」
ニコニコと報復とソフィアを取り戻す為の材料としてモニターに表示するが、ゲオルグはニコリともせず頼んできた
「遺伝子工学とその産物関連のネタ全部くれ。どんな些細なものでもいい」
「やはりそこに来ますか……畏まりました……結構な総量が……」
「構わない全部くれ」
言葉を遮るように真顔のゲオルグは頼むと机のモニターに向かいキーボードを叩き出した
……そのただならぬ状況に百地は飲んだエールのほろ酔い気分が吹っ飛び、即座に動き出す
「所長、何かお手伝いは……」
「甲斐、フレディが
「了解です」
ジョシュ達に手を上げ挨拶すると小走りに部屋を出て行った
「教授?」
流石のジョシュもいつになく真剣なゲオルグに対して圧迫感を覚え始めた
「僕の推論が正しければ奴、若しくは奴らの計画の一部が分かるはずだ」
「推論とは?」
普段、任務外の事に関心を持たないマーカスでさえ疑問に思い尋ねてみた
すると、作業をやめジョッキを片手に机に腰かけ、ゲオルグはため息交じりに話しだした
「切っ掛けは例のスレイヤーの精密検査でVウィルスの亜種に感染してると報告を受けた時だ」
その際、研究所内の人間やジョシュ達には感染報告はなかったがスレイヤーにはある……
そもそも教会にはVウィルスについての
では何故こいつら感染しているのか? 後天的に感染したのなら感染源は?
「そう考えた時、外にうろつくZの呻き声が耳に入り、僕の中で何かがざわめいたんだ」
ジュリア達に頼みサンプルを入手し、スレイヤーのデータと奪われたデータを照らし合わせた
「Zとスレイヤーは100%マッチした……つまりスレイヤーはここに来るまでにどこかで感染したという事さ」
「そいつぁ……トーレスを締め上げねぇと分からんね……」
ジョシュが頭を掻きながら答えるが、スルーしてゲオルグの推論が佳境を迎える
「ただ、奪われたデータとその2件を繋ぐものがVウィルスの亜種というもの以外はなかった……ちなみにそれを僕らはVZタイプと呼んだ」
VZは吸血鬼の能力として感覚器と筋力が常人の3倍程度しか起こせない脆弱といえる存在だった。
寿命も処女の血を与えても常人並、現時点で分かっているVウィルスの系譜では最弱といえるものだったが一つだけ強いものがあった
ウィルスも生物である以上【増やす】ということが本能的な目的になる。
たとえ捕食能力が著しく落ちても……
「ところがだVウィルスには1つ系統的束縛があってな、Vウィルスに既に罹患してる場合は他のVウイルスには感染しない特徴がある。VZにもそれが適合するんだ……」
すでに吸血鬼には無効なウィルスは活路を別の種に見出したと推論した……人間だ
「つまり、教授は持ち出されたデータを使い製造したVZウイルスがこの
生唾を飲み込みジョシュが聞き返すと力強くも静かにゲオルグは頷いた
「ああ、とある
それを聞いたエリクソンが冷や汗流しつつを呟く
「ひょっとして
「後で就職活動やっとけ、即、雇って貰えるだろうがね」
説明が終わり席に戻ったゲオルグは愕然とするエリクソンに対しシニカルに笑った。
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