対峙
数十分後、ジュリアは辛うじて任務をこなして廃棄工場に戻ってきた
「おー、よく頑張った! 首尾は?」
脂汗を掻きながらステアリングを離したジュリアは深く深呼吸をして脱力する。
「とりあえず、前のアジトにガス爆発をセットしてきたわ……誰か運転手変わって……もう嫌」
研究所の保安部で強面の鬼上司で鳴らすジュリアにこんな弱点があるとは恋人であるシュテフィンも知らなかっただろう
「わかった! あとは任せて!」
マーティが気を利かせて運転手を変わろうとした時、
フッ……と何かに気が付き、街の方を凝視したリカルドの雰囲気が変わる
湾岸の道路からゆっくりとした歩様でこちらに向かって歩いてくるスーツ姿のキリチェックが居た
「マーティ、俺が
「リカルドは?」
「ここでお別れだ」
「「ええっ!」」
驚く一同を残し、スターリングMk7パラを両手に構える
「俺が血路を開く、その間に出ろ……なぁに、もう聞こえても構わんさ、奴にも腹ぁ括って貰わんとね」
凄みのある笑顔を見せながら全員を車に乗せるとその前に立ち、凄みのある笑みに殺意と余裕が加わると独特の雰囲気を纏いながらゆっくりと前に進み、同じく独特の雰囲気を纏うキリチェックに歩み寄る
「やぁ、リカルド! 来てるなら一言言ってくれれば出迎えたのに!」
「よぉ、ドラガン! そんなことせんでも聞こえてたろ? 意外と出迎えが遅かったな?」
かつての戦友同士が対峙しながら意識と裏腹な挨拶を始める
実は発見は非常に運が悪かった
能力を酷使し、疲労困憊のキリチェックが、最後の一押しでふと耳に入ったのはジュリアの【ソフィア】を呼ぶ声だった
その名前で気が付いたのだった
ブースの家に
そして
だが、ここで激突しても
キリチェックに聞こえるように話す事でプレッシャーを掛ける。今はいない相棒であるキャロルは潜入向きだが追跡のスキルは期待できないレベルだからだ
「では、ドラガン、始めて良いか?
見据えたリカルドがそうキリチェックに宣告し、銃のセレクターをフルオートにする
「ああ、世界最高峰のアタッカーの猛攻捌き切って上で確保してやる」
そう宣言するといきなり横っ飛びで銃の射線を巧みに外しつつ、ノーモーションで放つ石礫で銃口をずらす。そのうえでバンに向かい疾走する
だが、それと当時に射線を修正し、それ以上行かせないように足止めをしながらリカルドが叫ぶ
『マーティ! 行けッ! 行くんだッ!』
躊躇するマーティを叱咤して急かす……銃声を聞けば他の部隊が寄って来る一刻の猶予もなかった
そして弾切れを起こした銃を放り投げたリカルドが笑みを浮かべながら走り込み、キリチェックに攻撃を仕掛ける
カポエラをベースにした特異な格闘術の前蹴りを前腕で払う様に受けるキリチェックに対し、勢いと反動を利用しバク宙を決めながら踵で眉間を打ち貫くが難なく後方に背伸びをする様なスウェーで避けられる
それでも息もつかせずに攻撃を繰り出す……上段、下段、前蹴り、回し蹴りを見事なほど多彩かつ意外性に富んだリズムとコンビネーション織り交ぜながらキリチェックを追い詰めるが、四肢を使いすべて巧みガードして有効な直撃弾がない。
しかしリカルドは疲労はないが後ろのバンが脱出に動かない焦りが動作を大きくしていた。そこにキリチェックは打撃を打ち込むが、それよりもリズムを意図的に上げて素速くカウンターで蹴撃を加えられ有効打が打ち切れない。
だが時間が掛かればここに増援が来て脱出が厳しくなる……それだけリカルドが切羽詰まっているのだ
「マーティ! 今すぐ出しなさい! ……やられっぱなしはムカつくから私がリカルドに餞別置いていくわ」
それを察したアニーはマーティの背中を押した後、Ⅿ945を抜くと窓を開ける
それに呼応するように助手席のジュリアUZIを構え、ソフィアはしゃがみ込む
「くっ…そぅ!…わかった! リカルド! ごめんよッ!」
バンを急発進させ、格闘する二人を横目に加速しだす
(逃がさんッ!)
キリチェックはリカルドの前蹴りを利用し後方へ大きく飛ぶと懐からスローイングナイフを取り出し、透かさず投擲態勢を取る。その素早さにリカルドが一歩遅れる……狙いは右前輪タイヤ……
そこに銃声と共にナイフの根本から銃弾で砕かれ、目を剥くキリチェックの左の肩が衝撃が走る
後部座席の窓からアニーがM945の発砲の衝撃による痛みに耐えながらも支援の一撃をキリチェックに見舞う
「どりゃサッ!」
その隙を逃さずにリカルドはキリチェックのボディに腰の入った胴回し蹴りを叩きこんで再度後方に蹴り飛ばす
間合いが開いたのを見て、リカルドは息を吐いてマーティ達のバンを見送りながら、アニーの銃の腕に感心する。
「流石……良い腕してるわ、ケーニッヒが討ち取られたのが良くわかるよ」
「なんだと?! あのケーニッヒが逝ったのか?!」
戦友の戦死を知り、キリチェックに衝撃が走る
「ああ、命懸けの囮で狙撃ポイント割り出されたところを彼女に討ち取られたそうだ」
「そうか……寡黙だがいい奴だった」
「そうだな……先に逝く奴はみんないい奴ばかりさ、あのミンホでさえもな」
その話を聞きながらキリチェックは埃や泥を払いながら苦笑する
「ああ、あのミンホでさえもな……」
そういいつつリカルドに向けて構える……すると遠方から爆発音と共に黒煙が舞い上がる
「なっ……?!」
「おお、ジュリア達も良い仕事したなぁ……」
土地勘があるといっても建物や物件に詳しくはないソフィアを頼りにしたジュリアは、途中のドラックストアに飛び込みアロマキャンドルを購入し、何とか前に逃げ込んだピザ屋にたどり着いた。
店の電源と警報機をすべて落とし、脚立の上にアロマキャンドルを置き、点火してからキッチンのガスの元栓を開きドアを閉め戻ってきた
店にガスがしっかりと充填されキャンドルの灯が引火し大爆発を起こす……周囲に住人が居なかったのが幸いであった。
爆発音の方へ振りむきながら状況を把握できないキリチェックに対し、リカルドは黒煙を見つつ逃走の頃合いを探る。
このままでは大戦力に押しつぶされる前にキリチェックを出し抜き、逃げなければ……捕まったら洗脳される
腰に付けた暴徒鎮圧用音響閃光弾でキリチェック対策出来てるとはいえ、タイミングを外せば何ともならない……
様子を見がてら間合いを取る……すると、そこに隙を警告するような船の汽笛が鳴り響く
「「なっ?! 」」
その汽笛の方向を二人は驚いて振り向く
そこには海兵隊ターミナルに接岸しようとする中型の貨物船が接近しつつあった
(やべっ! 援軍到着か!)
即座に腰の閃光弾のピンを抜き秒の間合いで投擲しようとリカルドが握りなおした隙に、そのがら空きの鳩尾に神速の動きでキリチェックが肘を叩きこむ……
「グッア!」
目を剥いて首を前に倒したリカルドが膝をつく……
気力でキリチェックの目前にトスした閃光弾がけたたましい音響と激しい点滅をする閃光を放ちながらその場にいた者の行動を制限する
ソナーマンであるキリチェックにとって体調を崩すには十分な外部刺激だった
身動きが取れない数秒後
目をゆっくり開け、音響で平衡感覚が狂ったキリチェックの視界からは目前で膝をついていたはずのリカルドの姿はなかった……
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