奪取
マンハッタンとロードアイランドとの間に流れるイースト川の上を奔る風が乾いた冬の風に変わっていく
川をまたぐガーサルス橋の上でその風に吹かれながら、元ゼラルゼスメンバー・キャロル・クリサリスは打ち合わせ通りに軍用トラックで作られたゲートを開くように率いていた部隊に指示していた
当初は銀行に単独潜入して奪取を提案していたが、キリチェックと若に却下されていた。
「これを失敗したら若にご迷惑がかかる。すでに失態が続いており、次の失態は俺達が万死に値する」
「無理にキャロルが身体張らなくても、銀行周囲にドラガン達が部隊伏せとけば良いだけだからね。」
そこでキリチェックと相談して例のマーティを捕獲するべく、人間を見つけるのが上手い存在……Zを警察犬代わりに街に放ち、その後ろを兵士が付いていく作戦にした
橋の上では行き場のないZが無数に棒立ちで立っており、兵士が首輪付きリードを付け誘導させる
「さて……展開して今日中にスタッテン島終わらせてロングアイランドまで到達するよ。打ち合わせ通り、人間を見つけ次第捕獲、決して食わすんじゃないよ!」
「了解」
道一杯に広がった部隊を見つつキャロルは何としても失点を取り戻すべく、一人、気合を入れる
町全体に腐臭を漂わせZを連れた部隊が展開すると窓から露骨に嫌な顔をした
(中央のオフィスは苦情処理で悲鳴が上がるだろうなぁ)
後でアンソニーから小言を貰う事を覚悟していた。
大通りから細かい裏路地まで部隊を展開させての捜索は1時間で1エリアが限界だ
だが、捜索が進展するのと同時に空振りの報告が次々と上がり、キャロルは自分たちも追い詰められていく感じがしていた
「これで実は
元々ニューヨークはマンハッタン島、スタッテン島、ロングアイランドで構成される大都市であった
本土に直結し人口密集が過密なマンハッタンがZにより壊滅、それに恐怖した人間が脱出したため、下級吸血鬼のエリアで門番の役割だったスタッテン島、上級吸血鬼、眷属の居住地や
万が一の事態にぞっとしながらキャロルは首を振りつつ疑念を振り払うと捜索に専念する。兵士を率いてかつてアンリがいたオフィスやJP達のアジト、たまり場だったバー・バルバロイの前の通りをZを連れて捜索するが反応はなく、焦燥が募っていたが、そこに兵士からの報告が入る。
「ゲートの門番がトラックで機材をコロニーに搬入してる小僧に似てると報告がありました。」
「どこのゲート!?」
「アウターブリッジ・クロッシングです!」
「てことは確実にこちら側にいるわね……ん? 」
その報告に希望を感じた後にその行動に不審を感じた
(此処にいたら捕まるのに脱出しない理由は何? 顔を出して動き回る理由は? 支援者か仲間がいる?!)
キャロルは浮かび上がった謎を解き明かすべく、手始めに門番に再度の聞き込みを指示すると、自身が中心となり聞き込みをする人員を増やすように要請するためにアンソニーの秘書を呼び出そうとしていた。
一方、ウォールストリートのビックアップルバンク前にはZや真新しく放置された自動車がそこら中にあり、無人のはずの周囲の建物内には人の気配が無数にあった
そこに小気味いい排気音とともにGT-Rが入ってくる
ドライバーにはマルティネス、助手席にはスタン、後部座席にはスモークガラスになっており、誰かの
影が映し出されていた
スピードが落ちかかる瞬間、スタンが叫ぶ!
「止まるな! 逃げるんだ!」
「ハイィィ! ボス捕まっててくださいよぅ!」
後ろの影にマルティネスが叫ぶと一言だけ
「おう、しっかり逃げ切れ」
そう後ろの男性の呟きを聞き、にやりと笑いながらマルティネスは瞬時にギアをぶち込み、GT-Rが加速しだす。
すると周囲の放置車が一斉に動き出し、建物の兵士が飛び出し銃撃を加えるが、放置車かZに当たり目標にはかすりもしなかった。
「アジトまで逃げますか?!」
「言うなよ馬鹿野郎!! 左折!」
スタンがマルティネスを怒鳴りつけると、左折した瞬間に助手席の窓からUZIを発砲し、2台目の追跡車の運転手を狙い横転させる
銀行から行内で潜んでいたキリチェック達がドアを蹴破るように走って出てくると走りこんできたSUVに乗り込み、GT-Rを追いかけだした
遠くで銃声とブレーキ音や衝突音が聞こえる……
その騒動を呆然と見守る行員達はこの行内で騒動が起きなかった事に安どしていた
そこに警邏隊が6人組でおっとり刀で駆けつけてきた
「ひと騒動あったと通報を聞いて駆け付けたんだが……」
奥から支店長らしきスーツ姿のがっしりとした体格の人物が出てきて説明をしだす
「ええ、いきなり店の前でドンパチが始まって、ここにいた中央の警察の人達も全員出ていきましたよ。失礼ですが貴方の所属と指名は? 私は支店長のジョアンと申します」
それを聞くと後列に居た3人に合図をして外に出すと支店長に向き直り
「あ、これは失礼、俺は中央警邏隊のジョナってもんだけど警備が戻るか銀行が閉まるまでここに居ようか?」
胸のIDバッチを取り外し渡して身分を証明するとジョアンは苦笑して
「しばらくで良いので居てもらえると助かります。」
そう懇願すると同時にジョナの後ろのドアが開き、黒のスラックスに白のカッター、ヤンキースのジャンパーを着たエリクソンとそのお供で銀のブリーフケースを持ち、革の黒いジャンプスーツのアンナが入ってきた
「やぁ、ジョアン、それにジョナ、珍しい組み合わせだな」
「これはブース
にこりと笑うとジョアンはブースに応対を始める
「貸金庫を開けたい……当然、令状あっても開けてないよね?」
「無論です。御真祖がお見えになってもお断りさせて貰いますよ。」
自信たっぷりジョアンが胸を張ると奥に誘導を始めだした
「さすが、今後とも末永くよろしく頼むよ」
エリクソンが笑顔で返すとその後ろについていく、もちろんアンナもついていくが、その背後のジョナに向かって周囲に分からないようにサムズアップをして合図を交わしていた
スタンの作戦はこうだった。
まず、4人を2つに分け、1組を囮にする。
足の速いGT-Rでマルティネスをドライバーにする。
ドライバーがグレゴリーでは
後ろにエリクソンが居るように見せかける為、スモークガラスとあえてスマホに音声を録音し、タイミングよく流し、マルティネスとスタンの小芝居でキリチェックの耳を
それでもう十分にキリチェック達は食らいついていた
その後、あらかじめ警邏隊のジョナにコンタクトを取っていたアンナ達は警邏隊の服を着こみ、周辺をパトロールしながらゆっくり銀行に向かい、通報が入り、おびき寄せが成功したところで銀行内に残存兵がいないのを確認して、着替えた後に堂々と入ってきたのだった
そしてエリクソンは貸金庫に到達する。そこには数本の金の延べ棒や土地の権利書ともに赤ん坊のソフィアと若い金髪女性……エリクソンの前妻のアシュリーの写真があり、その横にUBSメモリー3つが置いてあった
「これだ、ノートパソコンに3つ差した状態で起動しなければファイルが作業できないようになっている」
「なら、急いで出ましょう……もう戻ってきたらしい……」
アンナはスマホを見ながらそうつぶやく、スマホの画面にはジョナから連中が戻ってきた事を合図するコールがあった
「ジョアン!」
「ブースさん、こちらへどうぞ、こ……」
ジョアンが柱を叩くと壁の一部が奥にスライドし、隠し階段が現れる。こう言った銀行には教会の襲撃が多いため職員や顧客の安全のため隠し通路を予め用意してあるのだった
だが、案内する前にアンナが口を押え黙らせる。キリチェック対策だ
” ご無礼をお許しください。
驚きながらジョアンが頷くとエリクソンが口パクで
(ありがとう、恩に着るよ! )
と伝え、アンナは
( ありがとうございました。 詰問された際は私に銃で脅されたと言ってください)
そう伝えると頷きながらジョアンが
(ご武運を、またのご利用をお待ちしております。)
笑顔でそう伝えたの見て二人は地下道に通ずる真っ暗な隠し階段を駆け下りていった
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