逃亡
室内でもヘリのローター音を聞きつけたオーウェンは適当な頃合いで切り抜けて、撤退を見届けるつもりだった
だが、そんな余裕も与えてくれない男が目の前にいた。お互いに服はボロボロで打撃痕をそこら中につけながら肩で息をしていた。
猛烈な勢いの文字通りの猛攻をしてくるタフなホセの勢いを削り、相殺するのに手一杯だった
波に乗らせたら最後、完全にKOされる……流石にそれは拙い
不老不死の原種と言えども最大筋力や持久力は限りがある。
と言っても常人より遥かに超越したレベルの限界値だが……
その超人が全力で活動すれば消耗し、疲労する……疲労困憊になれば捕獲や失神もあり得る
ましてや原種同士がぶつかり合えば消耗は激しい……
その上、オーウェンはミンホやジョシュ達と連戦してきたのだった。
特にミンホ戦が
(あの新兵達、勝負勘も良かったな……実に将来が楽しみな奴等だ)
……ベテラン特務でも早々出来る事ではない……
その類稀なる戦闘センスに頭脳……相方の荒削り過ぎる暴虐な力と打たれ強さ……ウチに欲しい逸材達だ
そう思いながらホセとの応酬を凌いで見せる
しかし、さっさとケリをつけて撤収せねばなるまい
多段ラッシュを餌にしたホセの飛び膝蹴りを手を入れガードしつつ、その勢いを使い後方に高速バク転をしてホセを蹴りつけ遠くへ吹っ飛ばして上で先に着地する
「お?」
オーウェンの動きにホセが気が付き警戒をするが、その動きは意外なモノだった
後方に振り向くと全力疾走で逃走に移ったのだ
一瞬、攻撃が来ると踏んでガードに入ったホセが出遅れる
「チィ、クソがっ! 逃がすか!」
その後を追うべくホセも走り出すが、すでにトップスピードに入ったオーウェンは圧倒的スピードでホセの前から消え去った
「待て、コラァ!」
ホセの怒号さえ置き去りにしたオーウェンは屋上に行くべく見つけた階段に向かって無言で駆け抜けて行った……
その屋上にはヘリが上空で待機する中
ブチ切れして突っ走って行ったシュテフィンとバーニィにやっと追い付いたジョシュは最前線で銃を乱射する2人に合流すべく、すっと近くの遮蔽物に隠れタイミングを見計らう
そこで向こうの排気口にもたれ掛かる顔色の悪いマローンと目が合う
「マッチのおっさん、大丈夫か?」
「大丈夫でなくてもやらにゃならん!! アニーが撃たれた!」
「……はぁ?……何言ってんだてめぇ……」
明るい気さくなその言動が一気にドス黒いものに変わる
「俺が負傷したから製剤取りに行ったアニーがあいつらに撃たれたんだよ! ボディアーマーで致命傷ではないけれどお頭と一緒に連れてった!」
遮蔽物から向こうを見るとスタンにジュを突きつけられたジュリアに抱きかかえられたアニーがヘリポートの端に居た。
その前ではシュテフィンとバーニィがリカルドとミンホと遣り合っていたが膠着していた……
その姿を見た瞬間、ジョシュは怒りで我を忘れた……
そこから立ち上がるとM107CQを乱射しながらリカルドに接近する
「なんだぁ! ゲッ!
ジョシュの名前は知らないが、先程壁越しにぶち抜いて来た所有武器のShAkの威力は知っていた
至近距離の間合いで弾切れになるリカルドが白兵戦に持ち込む……
カポエラ風の回し蹴りで怯ませると大振りのストレートを繰り出す。
出身の
着地の足をローキックでバランスを崩すとストレートの高速でガードに戻る拳を右手捕まえ、耳の後ろの三半規管を狙って拳を振り下ろす
「がぁっ!」
急所に攻撃を受け、悲鳴と共に飛び跳ねて体勢を取るが平衡感覚を阻害されふらつく
(けっ、リカルドの野郎いい気味だ)
ライフルでバーニィを牽制しながらミンホが内心毒吐く……だが、先走ったシュテフィンの接近を許してしまった
「こんのやろうがぁ!」
シュテフィンの渾身の蹴りを難なくバク転で躱し着地すると構えて上段突きからの連続攻撃が始まる
(攻撃とはこうやるんだよ!)
ガードもおぼつかない優男のシュテフィンに面白いように高速連続攻撃を入れるミンホにバーニィは手が出せず、ジュリアが悲鳴を上げる……ミンホの気分が高揚しだす
だが、同じく追いついてマローンの救助に当たっていた教官担当のベケットは分かっていた
多少の打撃なぞ驚異的な防御力の
それが今
笑顔で右ストレートを顔面に当てたミンホの伸び切った肘にシュテフィンの手が触ったと見えた瞬間
――メキャァ――
嫌な音を立てて逆方向に肘が曲がって行く……その先には真紫の瞳に怒りの炎を滾らせたシュテフィンの顔があった
「ぎゃぁぁぁぁっ! 素人の分際でよくも……」
ミンホが距離を保ち腕を押さえながら次の攻撃に移る
「若! そう! その感じです! 関節はそう極めるんです!」
「おい、ベケット、ありゃ極めるよりぶっ壊して……まあいいやっつぉぉ?!」
後ろでマローンを肩で担ぎながら歓声をあげる教官ベケットにつっこむバーニィはいきなり上にいたのに強引にドーン! っと着陸したヘリに驚く!
それもご丁寧に銃をジョシュ達に向けて着地して……
機関砲が唸りを上げると射線上のジョシュとリカルドが離れ、ふらつきながらリカルドが慌ててヘリに走る
スタンは銃で脅しながらジュリアとアニーをヘリに乗せ、ふらつきながら駆け寄って来たリカルドがそれを押し込む
「「ミンホぉ!」」
スタンが扉の前で
だが、シュテフィンと対峙するミンホには聞こえない……また逆もしかり……
「俺のジュリアを返さんかぃ! 蹴りころっすぞ!」
「な? ……あの女は……ならば副所長じゃなくても構わん! 俺が貰っていく!」
「ざぁけんな! ジュリアはモノじゃねぇ! こんばかちんがぁ!」
シュテフィンの怒りの大振り右フックをミンホは軽く避けてガラ空きの顎にカウンターを合わせる
通常ならKO必至な手応えなのにシュテフィンは片膝を付く程度でミンホを睨みつける
ならばと踵で眉間を打ち抜き終わらせるつもりで踵落としに入るがガードのできない右横合いからジョシュが飛び蹴りで蹴り飛ばす
「ステ! あのジジイに一泡吹かせたアレをやるぞ!」
「おう! とっとと張り倒してジュリん所に行かなきゃ!」
先程のオーウェンの時の様な配置になるとジョシュが突っかかるが胴回し蹴りで間合いを取り、
ヘリのローター音が大きくなり回転数が上がる。離陸に入る
その音を聞きミンホが排気口を踏み台にしてジャンプするべく、ジョシュに背を向けダッシュする
「行かすかぁ!」
シュテフィンが脳震盪でふらつきながらも飛び上がろうとするミンホにすがりつく
「邪魔を……」
下にしがみ付くシュテフィンを見るとその背中と自分をも踏み台にしながらジョシュがヘリにしがみ付こうと駆け登り、垂直に飛び上がる
『『ジョシュとべぇ! 』』
バーニィとベケットが叫ぶ
だがヘリの脚は飛び上がったジョシュの指、数センチ先にあった……
そのまま手を伸ばしながらジョシュは落下していくが
シュテフィンがミンホを捕まえたまま倒れ込み、仕方なく前受け身を取ろうとしたミンホ……
二人が倒れ込み、そのミンホの頭部にジョシュが尻餅突く形で落下してきた
ジョシュとシュテフィンは立ち上がると急速に遠ざかるヘリに向かい銃を乱射するが何事もなかったかのように飛んでいく
その後ろで
そこに何事もなかったの様に……ごく自然な姿でオーウェンが現れ、ミンホの首を明後日の方向へ鈍い不気味な音と共に捻る……
気が付いたバーニィとジョシュ達が銃を構えて取り囲むとオーウェンの背後の階段から追いついて来たホセが退路を断つ
「爺さん……」
「任務完了、さてお暇させて貰おうか?」
戦闘でボロボロだが優雅に言ってのける辺りは流石であった
「その前に、アンタの助言のおかげで避難船は助かったよ。所長と避難民の代わりに礼を言わせてくれ。ありがとう」
下から上がって来た保安部員にマローンを任すと連絡を受けたベケットがオーウェンに感謝の言葉を述べる
「シリル嬢に癒しの場を貰ったからね……あの子は聖女になる子だよ」
「そか、ならそれでいい、アニーと相棒の彼女とっとと返しやがれ」
いつもの顔より数倍濃い殺気を漂わせたジョシュがM945を構えながらほっこりするオーウェンに要求する
「話が見えんな……どういうことだ? 詳しく聞きたい」
目の前のジョシュより後ろのホセを警戒しつつオーウェンは話を聞く体制に入った……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます