視認
「おい、お豆姫、見つけたか?」
「クリリン、簡単に見つかる相手でないってさっき言ってなかった?」
ケーニッヒの捜索を始めて数分後に聞いてくるマローンにアニーは呆れる
ケーニッヒに狙撃されない様に同じところからは連続して双眼鏡を出さない様にしつつ、小刻みに周囲を捜索する
その甲斐も無く、一向にケーニッヒの姿を捕らえる事ができないでいた
「ちきしょう、初っ端にペリコスコープが壊されてなきゃちったぁ余裕で捜索できたが……」
潜望鏡があれば隠れた安全な位置で捜索が可能になるので余裕をもって観察が出来たが、双眼鏡では出して観たらそこを狙われる危険を孕んでいた。
「いずれにせよ、私達が大きく動き出さない限り狙ってこないかも……」
こちらの出方を待つと推測するアニーにマローンは首を振ると切り出した
「相手はこちらの予想を上回る化物だ、通常の上級者との対戦を想定してるのは間違いだ」
「うん、だから上級者と初心者なら? 」
「基本、想定はそんな感じで良いが、こちらの粗方の予想を上回るぞ?」
「うん、さっき見たからね……餌撒いても本命当ててくると思えば楽じゃん」
あの視界の悪さで当ててこられてはある種のホラー映画の様な場面だったがアニーは負けていなかった
「楽じゃんって……」
「つまり、小細工は効かないし、状況は向こうがかなり有利で油断なしって条件で作戦立てて行こう」
「うはー、ゴージャスな設定だなー」
呆れる様にはぁっと溜息を吐くマローンにアニーは苦笑しながら作戦を伝える
「怒られそうだけどあの周りにガソリン撒いて隣の火の粉を引火させると?」
「トールヴァルトの尻に火をつければおいそれと狙撃が出来ない……?」
一瞬、イケるか? とマローンの目が輝くがアニーは笑う
「それでも狙撃成功してくる相手だと思うよ……冗談みたいな相手だから……もう3つぐらい即席短時間で揺さぶりかけよう……」
危うく納得しそうだったマローンはアニーをここまで考える娘とは認識していなかった
(例の彼氏の影響か……良い男を捕まえたもんだ)
必死に揺さ振りを考えるアニーを見つつマローンはテキパキと手を打ちだす
「地上班? 後方でガソリン撒きながら大回りして狙撃手燻り出すぞ! 着火後、ロケランで軽く爆撃して置いてからーの、風上から催涙ガス流してくれ……え? 無茶? やれよ! おい」
「あくまで間接的にやるのね?」
通信を聞きつつアニーが尋ねる
「まともに遣り合えば甚大な被害が出るからな……それが分かってるのに生贄放り込む気にはなれんよ」
溜息混じりにマローンが説明するが、アニーはすぐに質問してきた
「それは分かったけど、どうやって視認するの?」
「それに関しては最初に見るのは俺らでなくていい……うってつけの車両が下に置いてあるのが見えたからな」
そう言うと通信で地上部隊に連絡する
「地上班? 例のフィリップ隊のFBI仕様のピットブルあるよな? あそこの中で双眼鏡で視認してくれ、それもシートを前にしてな! はぁ? 撃たれる? あれの防弾はアンチマテリアルライフルの弾なんざ2~3発は余裕で防ぐ! シートもあるから1発撃たれたら即逃げろ!」
そう指示すると辺りにばら撒かれた催涙ガスの刺激臭がほのかに漂ってくる。
そして後方で火の手が上がり空気が炎に引っ張られる
そしてロケットランチャーを構えた保安部員が木々に隠れる異様な影を見た
「それはどこだ?!」
報告を聞いたマローンが慌てて双眼鏡で地点を見る
確かに風にあおられた陽炎の様なシルエットが木々に存在した
「私も確認した……」
双眼鏡で位置を確認したアニーがバレットに持ち替えるとすかさず移動を始める
「おい、俺が先に撃つ、銃声が聞こえたら間髪入れずに撃て……任せたからな! 俺らの仇を撃てよ!」
マローンが移動するアニーに声を掛ける
「なら一発で仕留めて……大会の借りを返してあげて!」
アニーはそう煽り返すとバレットの銃身をぎゅっと握った
マローンのやれやれという無精してきた顔に闘志と共に凛とした表情が宿る
「よし、運が有ったらまた会おう」
バレットを構え目標をスコープ越しに捕らえる
その瞬間、その
そのまま横に倒れて行くマローンがニヤリと笑う
それと同時にアニーが勢いよく起き上がり、瞬時にスコープに陽炎を捕らえ引き金を引く……
その陽炎……ケーニッヒは外したと感じた瞬間にマクミランに次弾を装填し、インカムに聞こえるスタンの撤収準備の号令にイラっとしつつ、マローンのいた所をスコープで覗いた。
そこで轟音と共に胸部アーマーが勢いよく爆ぜ、前のめりに位置取りした木から墜ちる……
一瞬何が起こったのか分からなかった......
薄れゆく意識の中でかつて自分が始末した者達は大概こうして
そして地面に叩き付けられた……
落ちたケーニッヒを確認するとすぐさまアニーはマローンに駆け寄る
「マローン! しっかりして!」
「アニー、仕事したな……おめでとうは言わないぜ。。それと患部に腕着けてコイツかけてくれ」
血の海で横たわりながらマローンの顔色がZの様に真っ青になっていた
「腕を?」
「そうそう、こいつをつけてな……グオッ!」
吸血鬼ゆえに血をかけて応急処置をし、腕が辛うじて着いた状態になるが結構痛いらしく、患部である腕を押さえたまま七転八倒しながらのたうち回る
「マローン!」
「へへっ、大丈夫だ……後で輸血してリハビリすれば復帰できる」
血の海で七転八倒すれば見事に血だるまになり、大丈夫じゃないオッサンが出来上がっていた
「もう、製剤貰いに行ってくるから大人しくして居てね」
「あいよ」
排気口にもたれながらまだ顔色の悪いマローンは座り込んだ……
そしてアニーはバレットをその場に置くとヘリポートに向かって歩き出す。
強敵を倒し、完全に気を抜いていたアニーは、遠くに聞こえるヘリのローター音と居るはずのないジュリアの姿を見て反応が遅れる
M945を抜こうと腰に手を伸ばした時、ボディアーマーにライフル弾が着弾するのが見えた
そのまま気を失い前のめりに膝を付き倒れる
「頭ぁ!」
銃声に驚きアニーが倒れ、その向こうにいるジュリアを認めマローンが叫ぶ
そこに銃弾が集中し、マローンは身動き取れなくなる
その本人たちスタンとリカルド、それにミンホがジュリアを拘束しながらヘリのグレゴリーを待つ
「いま、
リカルドが引き金を引きながら横のスタンに尋ねる
「ああ、言ってたが……今撃った女の事かミンホの連れて来た女か……」
困惑したスタンが銃を構えて倒れたアニーを見る……
「とりあえず、みんな連れてっちゃえよ! 尋問もあるだろー」
ミンホが怒鳴りながら抵抗するジュリアを引っ張る
ジュリアを連れて上がって来たところにスタン達が降りて来たのだった……
オーウェンの襲撃を何とかして掻い潜っただけでなく、
その場でグレゴリーを呼び出し発進させるとケーニッヒに撤収準備するように伝えた
すでにヘリはごみ処理施設の付近に現れていた
「兎も角、2名連れて行くぞ!」
アニーを軽々と肩に担ぐとスタンはヘリの到着を待つ……
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