直接
ゲオルグは通路に現れる乗組員を次々に貫き倒して艦橋に向かうが、徐々に乗組員達が出てこなくなった
「そらそらそらぁ! どしたぁ? 此処に居るのは腰抜けぞろいかぁ」
ゲオルグはそう煽るが、撃たれても怯む事は無く、代わりに槍の穂先が自分の身体を刺してくるような相手なら逃げたくもなる
そして階段を上り、
指揮所のドアを開けると同時に銃弾がドアを通過していく
「はい、任務お疲れ」
攻撃が空振りとわかると発砲が止む、そのタイミングにゲオルグが滑り込むように入ってくる
「なっ?!」
絶妙な間合いでの侵入にあっけにとられる要員達とその中央に拳銃を持って立つ角刈りの副長と思わしき人物にゲオルグは槍の穂先を突きつけて尋ねる
「艦長は誰だい?」
「私だ」
その横のカーキ色の軍服を着た中高年の白人男性が中央に設置された椅子に座りゲオルグに応える
「船に攻撃やめてくんねぇかな? あれ避難民が乗ってて丸腰なんだけど……知っててやってんの?」
その途端、副長を始めとした兵士達が溜息を吐くと艦長が説明を始めた
「ああ、やっぱり……何度も確認したが、上からの命令は反乱分子が船を盗んで逃亡したので試験がてら殲滅せよとの事だった……本艦を確認した後の行動がおかしいのでもしやと思っていた……」
「ならば、少し頼みがあるんだが?」
「断る」
ゲオルグの注文は内容を察したのか断られた
「軍人がシビリアンコントロールを受けて動くのは正しい、但し、その上がクソ野郎だったら君らの悲劇になる……」
「知らぬこととはいえ、命令を履行し避難船に攻撃を加えたのは我々だ、
悲壮なる覚悟をにじませつつ艦長が決意を表明するが、ゲオルグはなおも説得する
「あー、あのクソに責任を背負う気なんぞないぞ……つーか、あの一族は上空一万メートルから下々を駒の様に動かして
「部下も私と同じ気持ちだが?」
「司令部に対する疑心暗鬼もだろ?……連絡だけでもいい、今すぐしてみてくれ」
最後の言葉が効いたのか艦長は通信担当に司令権のあるニューヨークに回線を開くように指示した
「司令部、ボストン沖で試験中のクルーザーだが、目標に子供の姿を確認したがそれでも攻撃続行か?」
「その一派は穏健派を名乗る反乱分子であり、子供は一派所属の少年兵とみられる早急に撃滅せよ!」
スピーカーから司令部の通信兵の返答を流す、そこにゲオルグが割り込む
「私は
CICの要員達が” なに言い出すやら? ”と唖然とする中、先方はしばらく沈黙した後に了解したと伝えた
通信兵の配置に向かい通信のスイッチを切るとゲオルグは笑う
「何だよぉ、嘘つきを見る様な顔で……俺、一応マジで本部所属だからな? 」
周りの兵士達が胡散臭そうな視線を送る中、艦長だけは冷静に対応した
「では、ランバート所長、反乱の意思は?」
「確かに本部の我が研究所の扱いや対応はかなりムカついてるよ。だからと言って一派閥の分際で反乱は無理だった……当然、保護して貰っている間は大人しくしてるつもりだったが、組織内でも完全に秘匿されたはずの位置情報が何故か敵対組織の教会に伝わり、その教会とドンパチやってたらゼラルゼスやアンタらを送り込んできたわけさ」
「むむぅ……我々の事前情報とは違う……」
艦長は実情を聞き黙るが、さっきから穂先を突きつけられたままの副長は困惑をする……そこに通信が入り通信兵が回線を開くとスピーカーから若い声が聞こえる
「やぁ、いきなり僕を呼びつけるとは本部付きの監察官風情ではないね」
音声だけでも笑顔なのが分かるアンソニーが珍しく毒を吐く、だが、吐いた相手が悪かった
「おう、前任の執政官だった名君レオニード公よりかなり格下の貴様風情は俺様で十分だ」
「ほほう、これはこれはボストンの負け犬、ランバート先生じゃないですか!?」
そのセリフはゲオルグの怒りに点火してしまう
「ああ、その負け犬にこうして
「だまくらかすなんて人聞きの悪い……僕には反乱分子を潰す責任があるんだよ」
あくまで余裕をかますアンソニーに対し、ゲオルグはニヤニヤしながら攻撃を開始する
「あれあれー? 収益を上げてる完全秘匿研究拠点を教会に教え、その攻撃されてる拠点に援軍どころか暗殺チーム送り、避難民にはミサイル……表の総帥、サンジェルマン伯ほどの優秀なCEOでもやらないのに……たかが
「その証拠は?」
「あーるよぉ? ……東欧のクソド田舎のイモ坊ちゃまを強制送還して一生、一農夫やらせるネタは揃えてる……まぁ、隠し玉出すとエライ事になるけどな」
その闇も気にしない程拍子抜けした声でゲオルグが煽る
「ほー、見せて貰いたいものだねぇ……そんなものがあるのならばね」
煽り言葉が徐々に笑顔のアンソニーではなくなりつつあった
「教会に送ったデータの出所を連中がそのまんま全く調べないと思わないバカボンが此処に存在するたぁね……それに俺達を研究所ごと内密に処理しようとするその魂胆もわかっちゃったすぃ~?」
その言葉を聞き通信機の向こうのアンソニーが沈黙する……それは怒り故なのか図星を指されてなのかは分からない。ただCICの兵士達は固唾を飲んで状況を見守っていた
「さて、次はどんな嫌がらせしよっかなぁ?」
続けて挑発を繰り返すゲオルグはメモを借り、走り書きをして艦長と副長に見せて頷かせるとレーダー手と火器管制担当、通信担当達にそのメモを見せる
「ふっ、どうでも良いか、今すぐ死ぬのだから」
沈黙を破ったアンソニーの声はせせら笑う様な声で宣告する
「とうとう本気出しちゃったね? さて、どう出る? 」
織り込み済みと言わんばかりにゲオルグが煽りを入れるとレーダー手が警報と共に報告する
「通信衛星からロシア黒海エリアから大陸間弾道弾の発射の感がありとのことです」
報告を受け艦長がゲオルグの方に吹き出しそうな顔を向ける
「どうした? 絶望で言葉を失くして仕舞ったかい?」
沈黙を絶望と感じて煽り返すアンソニーに対しCICに居た全員が一斉に笑いだす
「ここまで見切る教授スゲー! お坊ちゃん見事に手玉に取ったよ!」
「教授のメモで本部に近い黒海辺りから弾道弾ぶっ放してくるから衛星で網を張って避難船と連携して弾道計算しておけって……大当たりだ」
すでにこうなることは予測済みで、艦長と数人の兵士にメモで予め承諾と指示をしてあったのだった
そして全員で通信機の向こうでドヤ顔だと思われるアンソニーを痛烈に小ばかにする
「というわけで
「貴様ら穏健派が束になっても我が防衛線は抜けん……縊り殺してやるから大人しくしてろ」
「俺達だけでないよ、民衆は一般の人間達さ……このZに脅威に手を携えて立ち向かわなければ世界は滅ぶ……原因である貴様らの締めるのは単なる通り道さ」
「ああ、待っているよ、私に勝てるかな? あの時も無理だったねぇ……」
「やはりあの時、俺達に付き纏って暴言吐いてたクソガキ……アレお前か!」
やっぱりといった驚愕の顔でゲオルグはスピーカーを見る
「ああ、お前らに滅ぼされた母や姉上、兄上達の仇……私には興味が無いがついでに寄り道がてら獲る事にしよう」
「興味が無いだと?!」
「ああ、敢えて言うなら感謝したいぐらいさ、おばあ様は自分に近い親族や一族を眷族、我が一族の呼び名が血族というんだがそれにする。ご存じの通り血を与えてね」
「ああ、確かに真祖が眷族を増やす方法だ」
ゲオルグの目が輝く、能力を発揮してるからではない未知の事柄に興味津々だからだ!
悟られずに話を勧めつつ、迎撃システムを作動させて弾道弾を迎撃させる
「そうして強固な絆と眷族達を手に入れた後、自分を頂点としたバートリー財閥内部のピラミッドの支配体系を作り上げた……それは完全実力主義で能力が高く、認められれば地位が上がる……長命で実務に長けたご老体達や身内が牛耳ってるゆえに、後発の私達にチャンスはそう降りてこない……末弟の私には特にね」
「自分では出来ない身内殺しをやらせたのか……」
「ある意味、教会は便利だったよ……貴様のツレのジョニー・カスティーヨは中々疑い深かったけれど今の強皇、ヴォイスラヴは疑いもせんとキッチリ上司達やライバルを襲ってくれるので楽だったよ」
その途端ゲオルグは不機嫌になり半分挙動不審になりながら反論する
「あの
「私があの詐欺師に……舐めてるだろ? バートリーの血族を舐めるな! この三下がぁ!」
お互いの言葉に激高して両方の通信担当が通信を切ると同時にこちらの艦長が仕事に入る
「管制! 迎撃は?! 弾道弾は今どこだ!」
「現在、スペイン上空にて慣性軌道に入ります!」
レーダー手がリンクされた衛星データを見て対応する
「RIM-161スタンダード・ミサイル用意!」
それを受けて火器管制が入力をすると同時に通信兵が艦内放送で注意喚起する
「甲板員! 作業をやめ至急退避! ミサイルを射出する! 繰り返す……」
「データ入力完了! いつでもどうぞ!」
管制から合図を出され、少し咳払いをして
「発射!」
威厳高く艦長が指令し、管制が復唱しながら点火スイッチを入れる
軽い衝撃の後ミサイルが離陸したと報告がきた。
CICの面々がモニター画面を食い入るように見つめる中、ゲオルグは通信担当にメモをみせてこの番号に連絡するように依頼する
「……迎撃しました!」
CICの室内が一斉に沸く、その中でゲオルグは渋い顔でひそかに電話の主とやり取りを始めた
「やぁ、ご無沙汰しております。ランバートです。 あ、ご存じでしたか?……」
ひそひそ話に気が付く兵士達は誰一人いなかった……
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