追撃

 危機的な状況をバーニィとベケットに助けられた形のジョシュ達は軽い尋問と説教を受けながら先程の怪人物オーウェンを追う


「ほんで、を銃なしで倒せると思うお前さんらってやっぱバカなの?」


 前で警戒しつつ進む呆れてものが言えないバーニィの代わりにガミガミと説教を垂れるベケットにジョシュ達は恐縮しきりだった


「しっかし、まぁ所長と同じ能力な場合、正直俺らが束になっても全滅させられる。ウチの装備課行って対戦車ロケットランチャーでも担いでくるか……」


 バーニィが対策案を提案するが、ジョシュが首を振る


「大砲構えたら、あの爺さんは最初にそこ狙ってくるはず……手榴弾かなんかで損傷させておかんと……」


「それでもタイミングずれたら手榴弾を蹴り返したり、投げ返して来そうだよね……あの構え出されたらもう手が出ない……」


 シュテフィンが肩を竦めながらあのの真似をする……ベケットはそれを見ながら思い出す


「若やバーニィがその構えしても秒で制圧できますが、あの爺さんの構えはヤバイ……隙がない」


「秒で制圧? ああ、やって見せろや! 秒で制圧仕返してやんよ!ってちがうか……俺も方々で色々なヤバいの見て来たが……一見したのと話で聞く分には力で押す御神祖技術で押す所長とも違う両方兼ね備えたスピード特化な能力だと思う……初見殺しかつ詰めを確実にしないと復活されたら即撤退だ」


 それに乗っかって挑発するバーニィが同意する、歴戦の二人が戦々恐々するオーウェンに対しジョシュは相手の殺意が希薄だった気がしてならなかった


(あの爺さんが本気なら俺達は追いかけた時点で死んでた……だが暇つぶしとは思えない……ゼラルゼスの援護が目的ならそんな援護しなくても、爺さんが隊を率いれば何の問題も無く作戦は成功する。だがそれをしない……何故だ?)


 考えながら先へ進むとジュリアからフィリップ隊と日本人コンビが2勝目を挙げたものの重傷を負ったと連絡が入った。


「おお、やるねぇ……俺らも大物狩りしないとな!」


 無理やりベケットがテンションを上げようとするがジョシュは逆に警告を発する


「ヤバくねぇ? 捕虜や負傷者が居るってわかったらあの爺さんが襲ってくるかもしれない……」


 それを聞いた一同は沈黙の後


「ジュリア、俺達は医務室に移動、警護に入る、他の面子にも伝えてくれや……ここにゼラルゼスの上位存在が居る。相手は銃弾はほぼ無効なので発見次第と」


 珍しく真剣な面持ちでバーニィがジュリアに連絡を入れるとジュリアから返答がくる


「了解したわ、くれぐれも無理しないでね。それと全体職員8割の撤退を完了したわ、後2割は戦闘要員の私達のみ」


「了解だ、けが人の治療が終わったら移送して撤退しよう……残念だがね」


 バーニィは少し寂しそうに答える……


 親友のアンダーソンから誘われて入隊し、この研究所を守るために仲間や戦友達と共に強敵やスパイ、伝説達と戦って来たのだ……それがとうとう……


「バーニィ、箱が無くなっても護る中身はまだ健在よしっかりして!」


 士気の低下を察したジュリアが発破を掛ける


「分かってるよ、ただな…………まぁいい、行くぞ」


 何かを言いかけたバーニィは少し間を置いた後、振り切るように前を向いた。


 確かに過去より人々未来


 今は感傷は捨て目の前の障害を乗り越える事だけを考える


 そうして研究棟を抜けて医務室がある下の階層へ向かう…………


 その数分後、研究棟最奥の隔離室のシャッターが勢い良く開いた……シャッターの電気部品を破壊してロックを解除したミンホがゆっくりと周囲を警戒しながら出て来た


(ヤバイのは居ないみたいだな……兎に角とっととずらかろう)


 落とした装備を拾い上げ、慎重に警戒しながら棟を出て通路に入る


 所々に戦闘の痕跡を見ながらミンホは周囲を新人の頃の様にしっかりと確認しながら進む……


 階段を降りて先に一つの両開きのドアを見る……


 そのドアには発令室、緊急時以外立ち入り禁止と赤い文字で書かれてあった……



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 一方でヘリポートの搭乗用階段を上り屋上に出たスタン達は通信がクリアになった時点で外で待機していたケーニッヒを呼び出す


「ケーニッヒ! 屋上に出たから援護頼む、今から発令室行って所長か副所長を押さえる!」


「了解」


 返事を待たずに素早く研究室サイドの非常階段へ向かうと横合いから銃弾が飛んでくる


 非常階段へ撤退中のマローン率いる狙撃班がまだいたのだった


「ちぃ! なんで此処に出て来る!」


 コルトガバメントで応戦しながらも後方を気にするマローン


 その予感がやはり当たり、狙撃班の一人の頭部が後方より弾かれる


「伏せろ、なるだけ遮蔽物の影に入り立つな! 後方から狙われるぞ!」


 残りは自分とアニーともう一人……だが全員伏せたまま行動が出来なくなっていた


 立ち上がれば狙撃、しゃがんでスタン達を撃ってもまず当たらない


 マローンは匍匐して撃たれた兵の得物であるバレットを取り、残弾を確認しレバーを引く


(最悪、俺が出張るしかない……)


 腹を括り腹這いのまま側転してスタン達に向けて発砲する


 外したもののバレットによる射撃は脅威になる、ケーニッヒは索敵を始め、スタンが警戒しだす。


「下の連中! 煙幕でも何でもいいから研究所を隠せ! 狙撃手から狙われるぞ!」


 自分がされて嫌な事は多分、敵狙撃手にも効くだろう……但し、想定内とか問題ないレベルの腕っこきならそんなものお構いなしで撃ってくる


 前者で有る事を願いつつマローンはアニーを逃がす事を考えていた


 すでにスタン達が非常階段に取り付き、下に降りて行ったので敵は外にいる狙撃兵だけである


 それに相手がケーニッヒの様な化物相手なら二人掛りで一人の犠牲の上に勝てる。そして彼女は援軍でありまだ若い……


 研究棟の非常階段は取られたが、連中が登って来たヘリポートの階段はまだあるが、敵が残存してる可能性もある


 ……煙により周囲が見えない状態では守られるが勝負にはならん、移動を始めようと隊員に声を掛けた


「煙で視界が遮られてるうちにもうちょいヘリポートに近い所に移動するぞ」


 その場の全員が煙に遮られてるから狙撃が出来ないと思い込んでいた。


 そこにマローンの誤算が1つ、もう一つはケーニッヒの様な化物ではなくケーニッヒ本人が相手だったことだった。


 立ち上がって移動を始めた隊員が2~3歩歩いた瞬間に頭部が爆ぜる


「何っ!マジかよ!」


 伏せたマローンが驚愕の顔で遺体を見つめる……


 煙越しに移る影と隙間に垣間見れる相手……それと驚異的な当て勘がなせる驚異の技だった


 そしてその正体がやっとわかった


『トールヴァルトォ! 貴様かッ!?』


 大声で対象相手の名をマローンが叫ぶ……


 返事が無いのは分かっている、自分を知っている相手であると心理面で無駄な揺さぶりと行動のあり得ない選択ミスに期待するだけだ


「栗リン、知ってる相手なの?」


 伏せた状態で前に居たにアニーが尋ねる


「お豆さん、長距離狙撃のヨーロッパ選手権で【雷帝】と呼ばれた王者知ってるか?」


「うーん、あ、もしかして伝説の王者、雷神トールヴァルト? お父さんがドイツ統一しててよかったぁ……戦場で対戦したくないと言ってたよ? あれがそうなの? どんな凄腕なの?」


 それを聞いたマローンは苦笑して答えた


「俺は試合で対戦して鼻っ柱ごとスナイパー人生を終わらせたよ……あれと戦って勝てる相手は漫画の主人公だけだ。99%の成功率を誇るようなね……」


「へぇ、じゃ、勝てば≪雷帝に引導渡した新星≫って称号貰えるのね?」


「お嬢ちゃんが凄腕でも勝てんよ……あいつは別格にして別次元だから」


「とりあえずやってみる……舐められたままで終わらせない!」


 アニーは今まで死んでいった班の仲間を弔うためにも引く事無く戦う事を選択した


「しゃーない、なんとか勝ちにいくぞ」


 士気の高い少し頼りない期待の新星にマローンもその意を察し、リベンジの意味を込めて呟いて遮蔽物の後ろに隠れた










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