交戦

 装備課の格納庫に来たスタン達は再アタックを掛けるべく動き出そうとしていた


 全員、自然な形で得物を確認しつつ周囲を窺う


「さてと……そう来なくちゃなぁ~」


 スタンが合図してチームを分けて格納庫を出ようとした瞬間、リカルドが独り言を呟くと振り返りざまにM-16をコンテナに向けて発砲する


 その途端にゼラルゼスが一斉に散会し、ライフルを構える


「お! やっぱバレてたか!」


 コンテナの後ろにいたホセが突撃準備入ったところで出会い頭を押さえる様に発砲してきたのだった


 発令室から応援依頼と情報を得たJP達は、鍵のかかった格納庫の外部通路から室内へ侵入して襲撃するつもりだったが、そこはしっかりバレていた


 2階の作業タラップに梯子に登ったマーカスが援護して、JPとトーマスが移動を始めるが、スタン達の的確な銃撃がその足と援護を阻むが、落ちてくる薬莢や足音と飛んでくる銃弾を手を地面につけたエリックが反響や音で読み始める


「流石は噂のゼラルゼス、的確な攻撃過ぎて逆に見切れるぜ」


 刮目したエリックがゼスチャーで敵の配置を教え、一斉に反撃し、スタン達を怯ませる


「おおう、久々の強敵です事……ソナーかセンサーマンが居るな」


 スタンはエリックレーダー役の存在を感じると即座に潰す様に合図する


 向こうに遭ってこちらにはないタレントはハンデになりうる……


(誰かは分からんが潰すに限る……)


 一方、その言葉を銃声混じりに聞いたエリックも自身が現時点の最優先目標と告げると


「マーカス、降りてフォローアップしてやってくれ、ホセ、トーマス行くぞ」


「「あいよアエイト」」


 JP達が突貫を開始した瞬間、ダーホアが機先を制する形で煙幕弾を投げつける


 格納庫に煙幕が充満すると同時に複数のライフルによる3連バースト射撃が始まった


「チィ!」


 ホセの舌打ちと共にエリックが叫ぶ


「逃げたよ! この銃は足止めの罠だ!」


 足音がここから去って行くのが聞こえたエリックが見破る


「じきに弾切れになる、追いかけるぞ!」


 自分の残弾を確認したJP達は弾切れが終わった瞬間に走り出す。


 エリックがライフルを構えて薄くなった煙の中へ走り出した瞬間、その煙の中から銀色の大型ナイフの刃が銀色の死の煌めきを放ち、エリックの喉元に吸い込まれる


「ケクッ」


 目を見開きライフルの引き金を引き抵抗するが、銀でコーティングされた刃の炎症反応で気管が圧迫され声が出ない


 その銃声に気が付いたマーカスが振り向いて駆け寄る


「おぉぉぉぉ!」


 意味の分からない叫びを上げながら駆け寄ると応急製剤をポケットから取り出す……損傷部位に血液を流し気道を確保を試みる


 その頭上に再度ナイフが振り下ろされようとしていた


 そこに刃毀れが酷い手斧が回転しながら煙と共にナイフを断つ……


 トーマスがもう一つ手斧を持ちながらマーカス達の横に来る


「ここは俺がやる、ナイフを……」


 苦しげに喘ぎながらもエリックが自身のナイフを渡そうと差し出す


「引け、まだいるかもしれん」


 マーカス達に撤退を勧めると周囲に気を張り巡らし、気配を探ると無造作に肘に隠してあったスローイングナイフを明後日の方向に予備動作なしで投げ、すぐさまエリックからナイフを受け取るその方向へ走る


 その途端、弾くような金属音の後に煙の中を突っ切ってダーホアがナイフを振り上げ襲ってくる


 すかさず斧を突き出して防衛姿勢になるも、高速でしかも連続で襲い来る刃を捌き切れずに少し怯む


 視界の悪い状態で向こうは身体能力を生かした高速でのヒットアンドアウェイを敢行し、全身に鋭い痛みを所々に感じるトーマスの体力削いで行く、徐々に気分が悪くなり動きも鈍くなる


「トーマス!」


 顔色がかなり悪くなったエリックを肩で担ぎ上げながらマーカスが振り向き叫ぶ


「換気扇」


 前を向いて一言だけ呟く……すでに二の腕には多数の切り傷が生まれていた


「分かった!」


 扉の前にエリックを凭れ掛けさせるとその手前の制御箱を開き、大型の換気扇を作動させる


 そして後ろ髪を引かれつつも格納庫を出る


 格納庫から煙が吸い出されて行き、周囲の景色が明瞭になるが、動くものはない……


 だが、トーマスは構えを解かない……煙の代わりに周囲に殺気が漂ってるからだ


 モーリーが居たら失禁しそうなほど濃い狂気を纏った殺意に満ちた空気が……


「キェェェェェツ!」


 怪鳥音と言うべき裂帛の気合と共にコンテナの影からダーホアが大型ナイフを二振り持って疾走して来る


 恐ろしく速いそれはたちまちのうちにトーマスの懐に入りかける……


 接近を察知したトーマスが斧を威嚇にしてバックステップで間合いを保つが、ダーホアの足払いが追い打ちをかける


 バランスを崩すがトーマスは斧を投げてダーホアの勢いを削ぎ、立て直す


 それでも一瞬で間合いを詰められ、首や急所にナイフを繰り出され防戦一方になる


 そして腕の一部や首、身体に銀色の細い針が撃ち込まれていることに気が付いた


(経絡か!)


 すかさず間合いをとり、自身の脈を取り脈診をして状況を把握する……


 木・火・土・金・水の五行陰陽思想に基づき診断を戦いながら下す


 そして、アレルギー反応を促進する相克関係にある経穴に刺さった鍼を抜き、正常に整える経穴と熱を逃がす経穴に抜いた鍼を刺す


 ダーホアの動きに付いて行けず、重く濁っていた身体が気持ち軽くなった気がする


「チッ! 鍼師か!?」


「違う! 戦士だ!」


 忌々し気に呟くダーホアに向かい前蹴りを繰り出して間合いを保ちながらトーマスが否定する


「しーね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」


 ブツブツ呟くと同時に突っ込んできてはナイフを繰り出しトーマスを切り刻んでいく


 先程まで3手程出遅れ気味の動作が2手程になり切り傷が増えることが少なくなった。


 だが、トーマスは内心焦っていた、このまま攻め倒される可能性があるからだ


 銀コーティングナイフによる切り傷は身体にアレルギー反応を引き起こしており、応急での鍼治療でアレルギー反応を多少抑えることと排熱はできるが、完全ではない……適切な経絡を使い対処し血液で消毒しなければ力尽きてやられる……


(選択肢はある!)


 決断を下したトーマスはナイフを逆手に持ち身体をかがめ、前の足の膝を曲げて相手の動きに対応しようと構える


 その構えを自分のスピードへの挑戦と取ったダーホアの顔に笑顔が浮かぶ……狂気と憤怒に彩られ、顔の所々に血管が浮き、痙攣と引きつりを起こす


 それと同時に高速連続後方倒立転回して距離を取る、その間にトーマスが身体の経絡の鍼を出来るだけ抜き黒の長袖シャツの袖に纏めて刺す


「ッッッッッッキャァァァァァァァ!」


 怪鳥音を発しながら高速でダーホアが突っ込んでくる


 トーマスの前蹴りを余裕で躱すとナイフを利き手のナイフで弾く、目標である喉に向かい本命のナイフが踊るが腕を出して防ごうとする


(腕ごと切り裂く!)


 ナイフの刃を腕に押し当て引き裂こうとするが抵抗を感じる……うまく斬れない


「ナッ?!」


 鍼を纏める事で即席のブレードガード防刃装備を作り、簡単に切れない様にすると、その腕から吹き出した血を驚愕の顔で受けるダーホアの腕を掴む……


「フン!」


 気合いを入れたローキックをトーマスは腕を掴み動きを封じたダーホアの華奢な大腿に炸裂させる


「ぎゃっ!」


 機動力を殺せば後はとどめだ……


 背中を向け足を引きずり逃げようとするその細すぎる腰にゴツイ傷だらけの腕が撒かれる


 腰に両手を回しクラッチし、レスリングの反り投げの要領でブリッジをして高速で後方に投げる


「ドガッ」


 すかさずダーホアは受け身を取るが下がコンクリートだったのもありダメージを受ける


 大手プロレス団体のマディソンスクエアガーデンの大会でもお目に掛かれない見事なジャーマンスープレックスが決まった


 両腕の肘や前腕部の骨を所々粉砕骨折を起こし、後頭部も強打して失神する


 失神したダーホアを横に押しのけ、トーマスは大きくため息をついた……








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