指令

 ミンホが隔離室のシャッターの向こうに閉じ込められ、警報放送が流れるとオーウェンは追い込むのをやめ、興味と安全圏確保の為に最寄りの爆破システムを調査しだす


「……これは見事……社会や環境への責任のある始末の付け方を理解している……」


 全ての研究棟を高温焼却して、完全に破壊できる特殊な指向性爆薬を確認して感心する


 思い返せばシリルの乗っていた避難船もそうだった……ここの教授責任者は偏屈、怪人物との噂だが……自らの責任と義務をしっかり遂行出来る数少ない愛情深い傑物とオーウェンは看破した


 ふと、オーウェンは下から聞こえてくる足音に気が付き、その場を速やかに去って行った……


 そこに来た一団、スタン達は館内放送を聞いて慌てていた


「おいー! 早くここから抜けるぞ!」


 スタンが皆を急かしながら注意深く前を進む


「了解、了解、だが……発令室は? ここの奥だったはずだが?」


 此処の間取り図と詳細な建材、緊急時に閉じられる隔壁の情報までヒューズとアリは頭の中に入っていた


「ああ、確かに研究棟を通り抜けた先だが、そこに行く前に抵抗が予想される。流石に時間が無いのに相手はできん、それに爆破モードの時は他の部署のシャッターや扉が避難用に別の棟に向けて解放されるそうだ……そして爆破直前に研究棟に対し耐爆隔壁が展開され、数分で全て燃えカスになる……ここは一旦避難するべきだ」


 流暢に説明してヒューズ達を唸らせる


 それは相手の情報でお互いの切り札になりうるものは必ず作戦前に確認し、その特性と効果を覚えて、その弱点を見つけて置く事をやっておく


 玄祖父おおじい様でもある師匠オーウェンから常に言われている小言ルーティンの一つだ


 そこに先を急ぐスタン達の頭上で喧しくさえずっていた避難勧告はいきなり停止した


「ん? 止まった?」


 ヒューズが走りながら上を見るが、銃を構えて先頭を行くスタンが叫ぶ


「兎に角みんな走れ! 安全圏な設備課の棟まで戻ろう……実はカウントダウンは継続してたと言われたらシャレにならん」


 叱咤して先を急ぐその姿をドアの隙間からオーウェンは黙って見送っていた……



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その同時刻、警報がやんだ後、ジョシュ達が閉まり掛けたシャッターを掻い潜ると発令室に辿り着く


 カードキーを刺し、ボタンを押して室内に入る


 ドアが開いた瞬間、衆目を憚る気など蹴り飛ばすかの如くシュテフィンに飛び掛かるジュリアが居た


 その行動にジョシュも周囲のスタッフも……心配で駆け付けた当の本人であるシュテフィンも困惑しつつも巨乳の柔らかさにデレまくっていた


「あのー……ジュリー? もう落ち着いた?」


「うん、……あ、ごめん!」


 周囲の苦笑交じりの視線を感じ、シュテフィンの問いでジュリアは慌ててシュテフィンから離れる


「ジュリア女史~、さっきの警報何? そんで何で止めるの?」


 周囲に合わせる顔もなく、おのろけてしまった肩身の狭い二人にジョシュは助け船ついでの疑問を問い掛ける


「え? ああ、さっきのはバイオハザード警報、研究棟で例の部隊の一人が作動させたみたいでついでに部隊ごと殲滅出来そうだったんだけど……」


「だけど?」


 シュテフィンが合いの手の様な感じで尋ね返す


「つい先程、ヘリの教授から大慌てで指示が来たの、まだバックアップやってなかったからコンピューター室のデータを地下の避難用秘匿データ室に移動させろって……」


「え?! 今から?」


「そうなのよ! 流石に戦闘中の大詰めで無理って言ったら ”先週のバックアップは終わってるから、この一週間のデータだけでも最優先で落としてくれっ” て!」


「無茶言いよるな……ボケ所長」


 ジュリアの悲鳴のような愚痴を聞きながら、ジョシュはその間の悪さと無茶なオーダーに突っ込まざるを得なかった


「それであと何時間かかる?」


「1時間……」


「「無茶だ―!」」


 ジョシュとシュテフィンは天を仰いだ……ゼラルゼスは再度こちらに向かってくる……その時に戦場になるのはコンピューター室のある研究棟であり、抵抗が無ければ10分で此処が陥落する


「うん、無理だと思う、だから……フィリップ隊に応援を頼んだ」


「あのね……戦力も大事だけど戦場が……」


 ジュリアの対応に呆れながらジョシュは苦言を呈すも策を考えていた


「隊長達の他にウチの二人組が2チーム向かってるわ……」


「ああ、一組はオッサンズだろ? もう一組は?」


「リョーと甲斐よ……」


 衝撃の返答に一瞬だけ目を丸くするもジョシュは心のどこかで合点がいくような気がした……


「ほーん、そんで2組は?」


バニ・ベネオッサンズは居残った職員を探しながら地下通路を壊して回ってる、リョー・甲斐は一度やりたい放題やって沈黙中……多分、何かを狙ってるわね」


 モニター画面に映る≪七年ごろし≫をみてジョシュ達も呆然とする


「あの二人ってこんな悪ノリするんだ……」


「ええ、銃弾飛び交い、命のやり取りをする場でこんな質の悪い事やったのバレたらバーニィならマジ切れする……教授は笑うだろうけど」


 ジュリアも渋い顔で彼らの所業に嫌悪感を示すも、唯一の理解者にして師匠は許す事を示唆した


「まぁいいや、とりあえず俺らは此処から前線を押し上げてコンピューター室より前で勝負するから情報と邪魔をよろしくね」


「邪魔って?」


「連中の上のスプリンクラー作動、後ろの火災報知器がいきなり鳴るとか……あ、配備指令とか自爆アナウンスでも良いぞ?」


「あー、了解」


 ジョシュの悪戯的提案を聴きジュリアもその他のスタッフ達も


((お前の発想、リョーと甲斐と同じじゃねぇか!))


 内心、突っ込み入れつつも了承した……


 この先、二人だけで防衛線を維持するのは正直キツイ、少しでもその差を埋めるべく何でも使うゲリラの様な悪戯な戦法になるのは仕方のない事だった


「それじゃ、ステ、カードリーダーの調子がおかしいから一度ジュリアに見て貰え」


「お? おう」


 察したシュテフィンはジュリアを伴い通路に出る


「さて、連中の画像と動画を見せてくれないか? 気が付いた点や意見があったら……って……はい?」


 シュテフィンがジュリアとイチャついてる間にジョシュはスタッフたちの力を借り、短い時間で相手のデータと推測できる戦法や得意技術を推測し、戦術を立てていくつもりだった……が、


 ジュリアの指示ですでに監視カメラの映像での姿や装備、行動で一人一人の役割、特技が分析されていた……それを読みながら、別のモニターで連中の動きを追尾する


「ありがと……ふむ……行ってくるか……よし、景気付けにサイレン頼むわ!」


 粗方のデータを見た後に意見や推論を貰い、相手に威嚇、には出撃を知らせる警報を鳴らす


「御武運を!」


「りょーかい、データ処理終わるか、危なくなったら逃げてね」


 近くにいたスタッフにハイタッチしてドアに向かう


 すると、ドアからシュテフィン達が現れる……どこか微妙に息が荒かった……


「さて王子、速過ぎか? 出撃すっぞ」


「下僕、、ありがと、では参ろうか」


 物々しいサイレンとジュリアに見送られながらジュシュ達は戦場に向かっていった……








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