爆発
ミンホは躊躇なく引き金を引き、至近距離に居たオーウェンに向けて銃弾を放つ
だが、そこには誰も何も居なかった……
「おやおやミンホ君? 私ならここですよ」
驚くミンホが横を見ると部屋から出るドアに背を向けたオーウェンがにこやかに佇む
「チィ! そこを動くな!」
再度、引き金を引くも居たはずの空間を銃弾は通り抜け、ドアに大穴を開ける
「もっと初速の早い、大口径の銃用意しましょうか?」
そのミンホの背後で老婆心を湛えた声でオーウェンが囁く
それに瞬時に反応したミンホが振り向き様に裏拳でオーウェンを襲う
涼やかな表情のまま、裏拳を指二本で受け止め、本命の腰だめのライフルは膝で横に払われ銃口を逸らす
「な、にっ!?」
必殺の2段構えの攻撃も余裕をもって読まれたミンホは愕然として間合いを取る
「ミンホ君、テコンドー得意だったよね? 見せて貰おうか? その腕前とやらを……」
「テメェッ!! 俺を舐めンじゃねぇ!」
良く日本人オタクが口にする台詞を聴き、それを糧に萎えかかる闘志を怒りで奮い立たせると、裂帛の気合と共に高速連続胴回し蹴りからの
「おー、見事な腕前だったよぉ? ……うん、実によろしいね」
相手にかすりもしない戦闘技術に感心されるのがどんなに屈辱的か……ミンホの顔が真っ赤になる……
だがここで攻撃方針を切り替え、拳を軽く開きボクシングスタイルさながらに前に突き出す
大技に拘り失態を晒すより、地味だが堅実に倒す事に主眼を切り替え、プロとしての判断を見せる
「ほうほう、基本形で来るかね? 基本に忠実なその姿……その判断は正解だ」
そんな評価を無視し、右のジャブで牽制しながら距離を測る、左のストレートさえ当たれば何とかなる
「ただ、相手が悪い」
今まで構える事さえなかったオーウェンが片手だけ構えると自身に向かって放たれた右のジャブを狙って拳を合わせる
――ピシッ――
拳の中指から鈍くそれでいて乾いた音が体内で響いた後、ミンホの眉間に皺が寄る
(くっ……速い)
オーウェンの奇妙な構えから繰り出される手打ちの高速ジャブの様な打撃に思わず弱気になる
先の打撃でミンホの右の拳が破壊されたのはお互いに分かっている……それでもミンホはおくびにも出さずに右のジャブを繰り出し牽制をする
そこにオーウェンの中段前蹴りが奇麗に鳩尾に入り、吐瀉物と共にミンホが崩れ落ちる
「おっと、汚さないでくれるかな? 一張羅なんだよ……」
悶え苦しみつつゲロにまみれたミンホを無慈悲に見下ろしながらオーウェンは冷酷に言い放つ
「参った……降参だ……」
転がりながら距離を取ると暫くして多少回復したらしく、ゼーゼーと肩で息をしながらミンホはゆっくりと中腰になると降伏を宣言するが、オーウェンは表情を変えず、一言も言わないで右足を軽快に踏み込み左足でその顔面をサッカーボールの様に蹴り上げる
流石に踏み込んだ時点で蹴られるのが分かり、両手でブロックしてドア付近まで自分で飛んで威力を殺すが、それでもなお両上肢の骨に痺れる様な痛みに襲われる
「おい庭師! マジでやり合う気か!?」
「言いましたよね? 負ければ死だと……」
涼やかに言い放つその顔はいつもの好々爺ではなく厳つい岩の様な顔になっていた
「冗談じゃない!! 俺はゼラルゼスのレギュラーだぞ? 俺をやるのは契約違反だ!」
そんな事で殺されるなんて御免こうむりたい契約を盾に逃げようとするが、オーウェンはやれやれと手慣れた感じで突っ込みと説明を始める
「まず貴方、作戦行動中なのにチームと帯同してませんね? 任務はどうされた? あまっちょろい
「あたりまえだ! 引退なんてまっぴらだ!」
激高しながら抗弁するが、理詰めで攻めるオーウェンに感情論でしか反論できない
「それで私が来たわけですよ? 伸びた枝を揃えるためにね……チームの調和を乱す輩、作戦失敗の元凶となる者を刈り取るために……あなたが生き延びる方法は2つ、私を振り切り、一刻も早く仲間の処に戻り、貝の様に口を噤みながら任務をこなし、終了後に口を噤むことを条件に退役するか? 私を倒してゼラルゼスの切り札&後見人として生きるか?」
「両方とも断る!」
「では、逝こうか?」
ミンホの即答に間髪入れずにオーウェンは応答し、近づいてくる
「くっ……」
実力差を認識したミンホは、必死にグロックを腰から抜くと乱射しながら銃撃で損壊したドアに後ずさり、予めポケットの中で安全ピンを抜いておいた手榴弾を転がし、ドアを閉めっ廊下を走る……
爆発音と共にドアが吹っ飛び……そこからオーウェンが無傷で歩いて出て来るのを見て必死で走る
「先に足を潰しておけばよかったか……まぁ、補足出来るからいいか……」
ゆっくりと歩きながらミンホを追い詰める……その姿勢にブレはない
いつもと同じ手慣れた作業だ……どこの組織から送られてきたかわからん2重スパイに毎度の高難度の任務のプレッシャーに負けて精神を病んだ者、
それは創設者の初代サイモン・フロストとその妻であり、我が一人娘ゼラ・ルゼス・フロストの最後の願い……
”
それ以来、オーウェンは哀しい修羅となった
それ以来、身分を庭師として偽りながら屋敷に住まい、日に影に敵や組織内部へ油断なく精査や攻撃し、
その所為か、どうしても
「孫という名の宝物を知ってしまうと孫ラヴ属性がついてしまうらしい」
そう常に周囲には返していた
しかし、今はかつての戦士の顔を出して悪しき芽を摘まねばならぬ……
そしてミンホは先程、亮輔と百地にしてやられた実験エリアに逃げ込む
消火剤を飛び越えて奥の隔離室に入り込み、乱れた息を整える
「ハァハァ……畜生、何とかして状況を変えねば……ん?」
壁に厳重にロックした箱が設置してありバイオハザードマークがついていた
(少なくともアレを押せばここが外部から隔離される……)
一か八かでミンホは箱に飛びつき蓋を開けてボタンを押す!
部屋のドアと窓に目論見通りにシャッターが降りる……だがその後のフェーズまでは想定外だった
” バイオハザード警報を確認し、隔離室をロックしました。直ちに実験エリアを脱出してください、5分後、研究棟を爆破します……繰り返します……”
「なにぃ!」
安堵の顔のミンホが放送を聴いて驚いてボタンを連打するが状況は変わらない
刻一刻と爆破の時間が迫る中、ミンホはボタンを諦めて必死でシャッターをこじ開けようと挑みだした……
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