憂愁

 ジョシュが目覚めるとそこは白い部屋だった


 シーツのない板のみのベットにトイレと備え付けの椅子……全て白、着ている自分の服さえも白い検査着であった


「何だ……ここは?」


 起き上がり周囲を見渡すと一面だけ二重ガラスになっており、その向こうには通路になっていてこちらを観察出来る様になっていた


「いよいよ面倒な事になってきたなぁ」


 そう言いつつ、壁を拳でノックするが音が無い……完全防音と衝撃遮断性の高い壁だった


「こりゃ、大層な造りですことで……」


 その特殊製と自分達風情に不釣り合いな厳重な警備に苦笑する


 そこに天井からスピーカーから男の声が流れてきた


「ごきげんよう、ジョシュ君」


「さて、今回の指令だが……って俺はイーサンハントかっ!」


 ジョシュのジョークにスピーカーの声の主は嘲笑したかのような気持ちの悪い乾いた笑い声の後


「おもいっきり滑ったね……君の相棒はレクター博士の似ていない物真似までやって大滑落死を魅せてくれたが……そちらの方が面白かったな」


「それは失礼、腕磨いてくるから外に出て良い?」


「まずは話を聞いてからだ」


「その前に、俺の服洗って無いよね? 内ポケットにマイケルさんの手紙が入ってる。 洗ったらマジで殴るぞ」


「了解した、今、取りに行かせた」


 返答に少し沈黙があったのでジョシュは焦ったが、相手が誰か分かった気がした


「さてと……それでは質問をさせて貰おう」


「分かったよ、その前に挨拶させて貰うぜ、はじめましてフレディ・ボガートさん。貴方に会う為に此処に来たのだよ。俺達は」


「……私は君達の様な人物は知らない…………」


 図星だった様でフレディは少し怒った様な声で返して来た


「ガラス越しで良いから、説明ついでに手紙と俺のスマホ持って来てくんない?」


「断る!」


 即答して断りに来た……警戒心が強いが勝負どころと思い、賭ける事にした


「マイケルさんの手紙とそれを書く2日前の動画メッセージが保存してある……経緯も説明しないと行けないから……」


「アイツが死ぬ訳が無かろう! 平和に人間に混じって暮らしていたんだ!」


すかさずジョシュが呆れたように突っ込む


「この状況で人間に混じって平和って冗談きついぜ! 悪いが貴方の今、居るそこに他の人も居るだろ? 彼の名誉も有る、頼むから此処でサシで話をさせてくれ」


「……分かった……今降りる」


 やっと折れたらしく、スピーカーの音が途切れ、手前のドアが開くと背の高い男が現れた


 短髪に刈り込まれた黒髪に黒いハイネックセーターとスラックスに白衣を羽織り、のっぺりとした顔立ちだがイケメンの分類だと思う整った顔が怒りの視線でジョシュを見据えた


 背後の壁から椅子と受話器を下すと腰掛けて受話器を持つ


 壁の横の受話器が鳴り、取る


「来てやったぞ、小癪な人間め! さぁ、何が有ったかとっとと話せ!」


 えらい剣幕で捲し立てて来るので苦笑をするが、ポートランドからの一連の出来事を話し出した


 フレディは最初は全く信用していなかった


 先ず、キャッスルことジョニー・カスティーヨの話とメッセージのやりとりを見て小馬鹿にした様な口調で捏造と断定するが、その後のマイケルの動画とその経緯、手紙を書くまで、その最後を聴く頃には黙って聴いていた……


「マイケルの最後は俺は看取れなかった……クソ野郎教会の手下と戦ってたんでね……」


「そうか……レイアと一緒に逝ったか……最愛の人と添い遂げたんだ……せめてもの慰めだな……」


「あぁ」


「お前……そうか……君も辛かったんだな」


 涙目のフレディはジョシュの顔を見るなり納得した……悲しみを堪えるジョシュの顔には一筋の涙が流れていた


「生きるべき好人物、生きていて欲しい人が先に死んでしまった事は素直に悲しいさ」


「分かった、とりあえず、此処を出れるようにする」


 涙を拭きそう告げると他の助手を呼ぼうと声を出す


「え? いいのかい? 質問は?」


「所属と目的を言え……と聞きたかったが、マイケルの手紙と動画でわかったから良い」


「ありがとう……ついでに俺達に枕とブランケットくんない? Zの来ない所で安心してガッツリ寝たいんだよね」


「分かったよ、他の仲間に伝言は?」


「もうじき出れるからそれまでがっつり寝てて……」


 そう鼻水を啜るように笑うとジョシュはベットに横になり、足をゆっくり伸ばした……


 そして瞼の裏でマイケルが微笑んだ姿を見た気がした……


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その頃、バー・バルバロイではマーカスとホセが偽の新兵応募の対応に困り果てていた


「俺らはマジで募集かけてねぇから! また次回募集があったら来てくれ!」


「あのなぁ! 俺らの任務はポッと出の新兵が遂行出来る仕事じゃねぇ! 他ぁ当れ!」


 休暇がてらの警備へ出発準備中、バーの奥でサボってたのが運のつきで若い兵士達の行列を外に追いやると二人は怒鳴りながら外へ出る


 前回の被害者0で敵の増援部隊を壊滅させ、そのまま背後を突く形で味方にZの増援を送る手際の良さと手柄を譲り、直下部隊の顔を立てる事で帰還直後のJP隊の評判はストップ高状態だった


 そこにJP隊が戦力増強の為に新兵を募集したと噂が流れた……


 現在売り出し中の特務でアンソニーが直々に出向いてスカウトしての直属部隊……


 そんなエリート部隊に入れると無数の若手兵士やフリーランスの傭兵達がJP隊のたまり場であるバー・バルバロイに屯して売り込もうと待っていたのだ


「畜生! 誰だよ! うちらに悪戯し掛けたアホウは!」


「うちは社交クラブフラタニティーじゃねぇんだよ! 新規? んなもん知るか!」


 店のかなり向こうまで追っ払うと飲み直すためにバーに戻る


「騒がしかったが、結構稼がせて貰ったぜ」


 バルバロイのマスターがホクホクの顔で二人にチーズ掛けのナチョスの差し入れをする


 後から聞いた話だが、新兵や傭兵達からかなりボッタくった値段と情報料と称してチップを数か月分の給料分を巻き上げた…… ナチョスでは割に合わない礼だ


「たく…… JPがエディ達の付き添いでピットブルと改造用資材を拾いに行っている間にエライ騒ぎだぜ」


 ビールをあおるとホセが愚痴をこぼすとスマホを弄りながらマーカスが答える


「いま、JPに報告とエリックに調査させてる……2人とも警戒するとの事だ」


 ホセがビールのおかわりを要求するとスマホを弄りだして


「アンナにも連絡入れとくわ……ちと、ヤバイかもしれん」


 その配慮に感心しながら下ネタに走る


「アンナは家政婦のバイトだろ? マメだねぇ……けどよ、あんなエロい家政婦居たら色んな意味で


「確かにな……だが、彼女にはしっかり頑張ってもらわんとな……」


 連絡をし終わるとウェイトレスが持ってきたビールをあおる


「ああ、職場はブース秘書官の家だろ? ……ってなるほど……」


 エリクソンに貸しを作るのと家にを作るのが主目的だと気がついたが、まさか因縁マーティがそこに居るとはホセやマーカスもまだ知らなかった


「お察しの通りさ、状況教えておかんと任務中に《姐さん! !》とか言って若い輩が列作るぜ?」


 ホセはそう言うとニヤニヤしながら若い連中をシバキ上げるアンナの姿を妄想する


「ボストンにはアンナは来ないのか?」


「色々調整して遅れて来るらしい……おし、送った」


 意外に乗ってこなかったマーカスを少し残念に想いながらもスマホにJPのメッセージが入る


 ”至急、内密に噂の出所と敵の動きを調べてくれ”


「ほぅら、おいでなすったぜ……仕事すっか」


「エリックは捕捉してある、いつでも来るそうだ」


 二人はよっこらせと席を立つとジョッキに20ドル札を仕込み


「じゃ、またな」


 マスターに声を掛けて店を出ようとするとその前に一人の少年兵が出てくる


 真新しい迷彩服に軍用ブーツの丸坊主のそばかすの少年だった


「あのう、少し良いですか?」


「良くねぇ……が、なんだ?」


 渋い顔でホセが歩きながら聞いてくる


「募集されて無い事は知ってます。けど、このチームみたいな特務に入るにはどうしたら良いか教えて欲しいのです」


「そら、おめぇ、手柄と能力と技術を磨くのさ……そうすりゃ、俺達がスカウトに行かせて貰うぜ」


「若いチームか普通の部隊に入って実績積むんだよ」


 足早に歩きながら答えるホセやマーカスに食い下がりながら少年は尋ねてくる


「僕、能力認識能力……なんですが……どうやって開発すれば?」


「な、なにぃ?! 能力認識能力だとぉ!」


 その言葉に驚いたホセの足が止まる……


 能力認識能力、相手がどんな能力を持ち、どの程度の力を有するのか? を判定するレアな能力で普段は吸血鬼コミュニティの役所に相当する部署に勤務する 能力を開発すれば初対面の相手でも診ただけで能力スキャンする達人もいる……対吸血鬼相手で能力判別さえ前もって判れば仕事は格段にしやすい


「ええ、部隊で出世が希望なんですが、役所に入るのは嫌だし……どうすれば……」


「両方パートタイムでやれば良いんじゃねぇ? とりあえず小間使いからスタートすれば……」


 マーカスが急かしついでに投遣りに答える


「坊、名前は?」


「トッド、トッド・キーン」


「よし、トッド坊、おじさんのメアドだ、まず今から役所行って能力申告してバイトをゲットしてこいや」


「おい、ホセ」


 マーカスが止めるがホセは止まらない


「したら俺ンとこにメール送れや、おじさんが任務の合間に一丁シゴいてやるぞ」


「有難う御座います!」


 驚きと嬉しさでどうにかなってしまいそうなトッドにホセはニヤリと笑うと一喝する


「まだ早い! バイトをゲットして、一通りシゴいた後に努力と才能が無ければ止めるぞ!」


「エッ!?」


 そのホセの条件を聞いたトッドは慌てる


「キッチリ挨拶、キッチリ仕事がお約束だ、いいか? 判ったら即座に動け!」


「「はい!」」


 威勢の良い返事でトッドは駆けて行った


「おい、良いのか? JPに事後報告かよ?」


 戸惑うマーカスにホセは笑いながら肩を叩き


「先行投資って奴だよ、ダメでも役所の仕事が残る訳だしな」


「そんなもんかねぇ」


「そんなもんさ、行くぞ」


 そう言いながら噂の出所として最も疑わしいブース周辺を探るべく、その部下のマルティネスを捕まえに行く二人であった……





















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る