確保
早朝に給油し、ビルリカの街を発つとジョシュ達は順調にアッサベット川流域に入る
最初の住所であるヘイガー通りはすぐに見つかったが、樹海を通るルートになっており路面も所々は舗装していない荒れた道路だった
「マジでこんな所に研究所が有るのか?」
悪路の凸凹による衝撃で助手席のシュテフィンが舌を噛みそうになりながら運転するジョシュに聞いてくる
「遺伝子とかの研究してるとマイケルさんは言ってたからな……素材や環境がある程度良く無いとダメなんだろ……俺も良く分からんがな……」
「あのー……いつの間にステに運転……ってジョシュ? あれ? この荒々しい運転は……」
悪路のせいだとシュテフィンが苦笑しながら話すと納得しつつ
「なんでこんな道を選んで通るかなぁ……」
そう毛布に包まると文句をジョシュにぶつける
「しゃーねぇだろ? 住所がナビに無いんだから……もうじき着くから用意しておいてくれ」
「え?! もう着くの?」
驚くアニーにジョシュは悪路と格闘しながら状況を告げる
「今、ヘイガー通りの1960番台の番地だからもうじきだぞっとぉ!」
ステアリングを切りながら水溜りを避け、放置車にぶつかりそうになる
「危ないけど……私やステが運転するより安全かもね……」
気にせず侵入して水溜りにタイヤを取られるか、荒々しく放置車に当って故障するよりマシの判断だ
そうこうする内にも悪路は道といえるか微妙なほど悪くなっていくが、既に番地は1986番地を超えて止まっていた
「なんなんだ! この周辺はよぅ……道と言えんぞ……」
ジョシュもあまりの状況に焦りを見せていた
すでに番地を示す建物や家屋は無く、ただ樹海ともいえる鬱蒼と生い茂る森と大型獣専用の獣道と言った風の道が続いていた
そこを通り過ぎた時、ジョシュが急停車する
「うぉ?! どした? ウンコ?」
「アホか! 道があった……」
ジョシュがシュテフィンのボケに突っ込みながらピットブルを後退させると、その樹海のパッと見では判らない所に、より狭く険しい横道が1本出ていた……
「怪しいな……」
「あからさま過ぎだが……怪しい」
シュテフィンの問いかけに疑いながらジョシュも賛同する
「ギリギリ通る幅だね……行って見よう」
後部座席のアニーも賛同する
「おし、行くか……」
小道にピットブルを侵入させてゆっくりと進んで行く……
ある程度進むとT字路にぶち当たり、綺麗に舗装された広い道路が現れた
「なんじゃ? こりゃ?」
ジョシュが驚いたのは綺麗に舗装された道路なのに警察の最新のナビの地図にも載っていないエリアの道路で、GPSは国立保護区外を指していた
その道路も少しおかしく、両方に樹木が生い茂っては居るが、片方は4メートル程の塀をカモフラージュするかの様に生い茂り、塀を保護し守るかの様に紅葉していた
「当たりっぽいな……とりあえず周ってみよう、周囲の観察も頼む」
ジョシュは二人にそう指示するとゆっくりと車を発進させる……
道は緩いカーブになり、それが異様に続いていた
「えらい広い敷地らしいな……もう数キロは走ってるだろう?」
横で周囲を見ていたシュテフィンが気がついた意見を述べる
「あぁ、野球場かフットボールスタジアムが複数個ほど入るレベルの広さだ」
「200エーカー(81万平方メートル)は有るんじゃ無い?」
ジョシュとアニーが意見を出していくと樹木が途切れ、小さな小屋と巨大な鉄製の両開きの扉が現れた
そこで車を止めると扉の片隅に1987と番地が浮き彫りで掘り上げてあった
「此処か……」
ジョシュが扉を見上げてながら呟く
後ろでアニーがスマホに入れてあった航空写真地図をみる
「此処のエリアの画像に建物どころか道路さえ出てないよ」
「完全な隠蔽工作してあるな……とりあえず小屋に入る、アニーは上で警戒を、ステ、Zが居るかもしれんからバックアップ頼む」
『あいよ』
二人は各々、銃を持って動き出す、此処一連の経験で動きにソツが無くなりつつ有る
ジョシュはP-210を構え、小屋の窓から中を覗く……
小屋は守衛所で、中には誰も居なかった……
ジョシュはシュテフィンに目配せしてドアノブに手を掛け、少し離れたところでシュテフィンがレイジングブルを構える
勢い良くドアを開くが誰も居なかった、それどころかトイレも調べたが何も無かった
ロッカーには何も入っておらず、守衛室の机にはダイヤルが無い受話器だけの電話と旧式のコンピューターが設置して有った
「何も無いが……まさかコイツ……」
ジョシュはある事を思い出し、コンピューターのキーボードを指で軽く叩く
するとコンピューターが休眠状態から復帰し出した……
「お? 動いた!」
シュテフィンが軽く驚き、覗き込むと画面には
[パスワードを入力してください]
と表示された
「パスワード? 知ってんの?」
シュテフィンが困惑してジョシュに尋ねる
「あぁ、マイケルさんの手紙に有った……」
ジョシュはマイケルから聞いたあの言葉を入力する
《くたばれバートリー!》
入力し終わると画面には問い合わせ中の表示が出た
そして沈黙が流れた後、いきなり電話が鳴った
意を決してジョシュは受話器を取る
「もしもし」
「貴様、何者だ? 何故このコードを知っている?」
受話器の向こう側の相手は明らかに敵意と疑惑を露わにしていた
「俺はジョシュ・グランダン、ウェルスのマイケル・リンツさんの紹介でメッセージを預かって参りました。何卒フレディ・ボガートさんに取り次いでいただきたい」
「……分かった……門を開ける、直ちに入れ」
一瞬、相手が絶句したのを感じたが、声には警戒の色はより濃くなっていた
「おし、行くぞ……」
隣のシュテフィンにそう言うと気付かない振りで周囲を調べる……やはりカメラが仕込んであった
速やかにピットブルに入ると運転席に座る途中に短く二人に伝える
「カメラで監視されてる」
ギョッとする二人を後に運転席に座ると目の前の扉が自動的に開かれ、そこから石畳の道が奥まで続いていた
「行くぞ、揺れるから
ジョシュは後ろを振り返りそう意味深に言うと発進させる……
ピットブルが門を潜り抜けると即座に門がピシャっと閉まった
「ヤバかねぇ?」
タイミング、スピードと共に実に嫌なタイミングで閉まり、シュテフィンも流石に愚痴をこぼす
「ここまで来たら腹括れよ……俺等には此処だけが唯一のツテなんだよ。御破算だけは勘弁だぜ……」
「情報でも取れればラッキーだと思えばいいか……」
ジョシュはそう煽りながらも此処がハズレだった懸念を口にする、シュテフィンも納得する
石畳の道は緩やかに曲がりくねりながらも森の間の抜け、奥へと続いていた
石畳の道とガードレールが無いだけでまるで自然公園でドライブしている感覚だった
そして此処に何しに来たか忘れそうなほど美しい風景がそこには有った……
―――――紅葉深まる岩場から滝は流れ出し、鹿やリスが木の芽や木の実を頬張り、小魚を漁り、野鳥が囀る
外のZがうろつく破壊された地獄絵図とは同じ陸続きとは思えないほどだった――――――――――
進んで行くと下り坂になり、底にあたる部分に小川が流れ、そして結構、急な昇り坂になり、そこを昇ると森が途切れた
坂の頂点当りまで来ると視界が広がると同時に20台程が停まれる駐車場に緑色のまな板を思わせる横に平べったい2階建ての建物が存在していた
「また、なんつーか……」
「変わった建物ねぇ……」
シュテフィンの感想を後部座席で見ていたアニーが被せるように呟く
確かに、研究所としては異質な雰囲気ではあった
屋上には換気口や管理用出入り口はあるものの、その一面を芝のような植物が覆い、外壁は白く所々に窓やガラス張りになっている……またその廻りには先程通ってきた坂が土塀のような形になり研究所周囲を囲んでいた
ジョシュはゆっくりと駐車場にピットブルを停めると後部ハッチへ移動する時、二人に声を掛ける
「腰に銃差しとけ、
最低限の警戒はしておくに限るとジョシュは判断した
3人は後部ハッチから降りると周囲を見渡しながら、背筋を伸ばす……朝から乗りっぱなしで腰や肩が凝り固まっていたのだった
「ふぅ……さて、行くぞ」
ジョシュはシュテフィン達を伴い、建物の玄関と思われる入り口のドア押して入っていく
「こんにちはー、警備の方か誰か居ませんかー!」
ジョシュが呼び掛けるが何も動きが無い……ジョシュの勘が囁く……逃げろと!
「おい、外へ出るぞ!」
そう叫んで二人に振り向いた瞬間にめまいと共に足の力が入り辛い……
「な……腰が抜けてる……」
アニーは尻餅を付いた形で座り込んで動けないらしい、シュテフィンだけは辛うじて立っている様だった
「ステ……に、にげろ、ガスだ」
そう指示するのが精一杯でジョシュとアニーはその場に崩れ落ちる
シュテフィンは必死の表情でジョシュとアニーの襟首を持って引っ張ろうとするが、そこで力尽きて覆い被さる様に倒れこんだ……
――その数分後――
ドアの外に白衣を着た男女の集団が現れ、先頭のストレートロングヘアの眼鏡を掛けた若い才媛が腕時計を確認後、二手に分かれて建物に入ってくる
才媛達は奥の通路の部屋からストレッチャーを持ってこさせジョシュ達を乗せる
もう一派はジョシュ達のポケットを弄り、ピットブルのキーを持ち去るとピットブルを移動させて何事もなかったかのようにその場を清掃して立ち去っていった……
才媛はピットブルの移動を確認すると三人を奥に運んでいった
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