離別

 3台にバスとトラックに荷物と資源・資材・食料を満載して移動準備を全て終えると住人達は広場に集まりだして一寸したお別れ会を始めだした


 秋も深まり少し肌寒い中、炭を焚き各々食料を持ち、焼き、ワインや酒を持ち合わせて饒舌に喋りだす


 皆、口にするのはここでの思い出、そしてマイケル夫妻の事だ


 しんみりして話していく話の輪の外でジョシュ達はそれを眺めてぼーっとしていた


 そこに仕事を終え、荷造りも終えたたゼニカルとペニー・モネがやって来た


「おぅ、皆お疲れ様、なぜ此処に居るんだ?」


「貴方達は輪に入らないの?」


 そう輪に入るよう急かさせるが、ジョシュを含め今一乗り気でないのだ……


「いやね、俺達ってほぼ部外者みたいなもんだし、マイケル夫妻の話って言ってもここ4~5日分しか話が無い……それにマイケル達を救えなかった負い目もある……」


 頭を掻きながらジョシュが引け目を感じる理由を述べたが、ゼニカルは一笑に付した


「ん~、まぁ、気にしなくても良いんじゃないか? 結果に至ってはお前さん達でもダメなら此処に居る一般人達では戦死者が出る所だ」


「それにマイケル夫妻のお別れ会でもあるのよ……あの二人明日荼毘にするんでしょ?」


「ええ、先程燃料を配置しました」


 マイケル邸をみてしんみりとペニー・モネがそう尋ねるとシュテフィンが真面目な顔で答える


「燃料獲りに行く前もに家に行ってたもンな……」


 ゼニカルが感心しながら呟くとギクっとしながらジョシュは苦笑していた……


(まさかZ化してないかどうか確認しに行ったとは絶対言えない……)


 あの時、拳銃片手に冷や汗垂らしながらもベットで安らかに眠る二人を見て、安心したのと同時に泣けてくるのを我慢してベットルームに鍵をかけたのを思い出した


「それで、明日はどうするの?」


 ペニー・モネが明日の打ち合わせを尋ねてくる


「出発前に皆でマイケルを荼毘に伏してから、ジョシュ達が先行してZを引き寄せる」


「それで皆さんは出来るだけ静かにヨットハーバーに移動してください。ポートランドのフェリーが到着しますからそれに乗ってポートランドまで行って貰います」


 ゼニカルとジョシュが交互に説明をする


「えっ? 静かにしないと駄目なの?」


「はい、Zは音に敏感で人の言葉に関しては反応が高い……マイケルが毎日、避難所周囲で退治してても翌日には溜まってるのはそれが理由です」


「そのZが人だった頃の習慣や意識とかは?」


「それはまだ判りません。どこぞの研究機関が調べてるかもしれません」


 ペニー・モネの質問にシュテフィンはそういいつつ、ゼミや職場に向かうZ、家や故郷に帰るZを想像してそのシュールさに苦笑した


「まぁ、そんな所だろう。 ペニー、皆と輪に入って楽しもう、明日の今頃はポートランドで荷解きだ」


 ゼニカルはジョシュ達を巻き込み話の輪の中に入っていき、それぞれの想い出を紡ぎながら宴は深夜まで続いた……



 翌朝、ペニー・モネとゼニカル、ジョシュ達がマイケルのベットルームに行き、ペニーが育てた花束と香油を垂らし、祈りを捧げた


 そして住人達がマイケル邸の前に集まりだすとゼニカルとペニー・モネが中心となり鎮魂の祈りを唱和しだす


 ”We therefore commit they body to the ground; earth to earth, ashes to ashes, dust to dust. ”


(私達は彼らの遺体を地に委ねる。土は土に、灰は灰に、塵は塵に)


 そう祈るとゼニカルの指示の元、ジョシュがマッチで導火線代わりの灯油の筋に着火する


 炎が筋を伝って灯油の受け皿に点火し、それがポリタンクに伝わり家を燃やし出す


 あっという間に家が炎に包まれる……


 それを合図に各々がバスに乗り込み、先頭のトラックとオイルタンクの連結車両はゼニカルとペニー・モネが乗り込んだ


 ジョシュがロードローラーに乗り、露払い代わりのZの駆除をするとアニーとシュテフィンがゲートを塞いでいた車両を退かすとトラックを先頭にバスが一路ヨットハーバーを目指す


「よし、急いで例の場所に走るぞ!」


 ジョシュがピットブルに乗り込み運転席に入ると後から来た二人に声を掛け、エンジンを始動させる


 予め地元の短大に設置したスピーカーとタイマーで起動するステレオがご機嫌な重低音効いたヒップホップを今頃鳴り響かせているだろう


 アクセルを踏み、スピードを上げ集団を追い越すと角に入り、暫くしてからサイレンを最大ボリュームで鳴らすと脇の角や家屋、草叢からZが出てくる


 そして、地元短大に着くと既に大量のZがスピーカーの周りでZ達が身体を揺らす……


「死霊のフェスねぇ……なんかやだな……臭そう」


 それを見たアニーが渋い顔でダメ出しをする


「兎も角だ、建物に入って上で様子を伺うぞ」


 ジョシュ達はピットブルをアーケードのある建物の前に止めると上部ハッチから上に出る


 そしてアーケードを伝って窓ガラスを破り、建物に入る……Zは侵入していないのを確認すると一気に屋上まで登りヨットハーバーを見る……まだ到着はしてないようだった……


 すると北の方から中型のカーフェリーがスピードを上げて此方に向かってきていた


「おい、アニー、あんなもん島にあったか?」


いきなりの中型カーフェリーの出現に戸惑うジョシュが隣のアニーに尋ねる


「湾内のカズンズ島の火力発電所のポートに燃料タンクと資源庫代わりに停泊してあったよ? あんたら不思議でなかったの? こんな状況で島々で電気やPCが何故使えるのか?」


 ポートランド湾内には廃棄寸前の火力発電所があり、そこをウォルコット達が突貫作業で3日で起動させて島々と避難民が来るかもしれないので港エリアのみ電力供給していたのだった……


「へぇ……海賊稼業作戦もコイツを動かせれば楽勝だな」


シュテフィンは帰還後、沿岸部を荒らしまわる自分達を想像しニヤついていた……



       ――――――――――――――――――――――――



 その頃、ジョシュ達と別れたゼニカル達は一路、ヨットハーバーを目指す


「こうしてトラック転がしてると昔を思い出すぜ」


 ゼニカルはご機嫌で鼻歌混じりにステアリングを切った


「ゼニー、年寄りの冷や水って言葉を知ってる?」


 涼やかな微笑を浮かべてペニー・モネは毒舌を吐いた


「ペニー、昔取った杵柄って言葉でそれを返そう」


 ニヤリと笑ってゼニカルは言い返した


 すると


「ゼニー……」


 明らかに顔色が変わったペニーモネは前方を指差して呟く


「ん? アレは……!」


 それを見たゼニカルがブレーキを踏み、怒りの混ざった驚きを表した


 Zの一団がこちらに向けて歩いて来た……


 他のZ達は盛大に曲が鳴り響く短大の方に動いて行くのにその一団は真っ直ぐにこちらに向けて歩いて来た


 その先頭には見知った人間の変わり果てた姿が有った


「ポール・ジゴワット……」


 目を瞬かせて何度もゼニカルが確認する


 マイケルとレイアを死に追いやった元凶は脚を引きずり腕をだらし無くぶら下げて歩いて来た


 鼻や頬の肉は食い千切られ、噛筋が喰われだらしなく開いた口には歯が見えて既に殆どの面影は覚束ない


 衣服は血塗れて破れ裂け、腹から臓物が垂れ下がり、四肢は所々骨が見えていたがそれでも何らかの意思を持って歩いてる


 喰われる苦痛から逃れて家路に着いたのか?


 自分を虐げた避難所の住人達に報復をするのか?


 その姿にゼニカル達は驚愕した


 それと同時にゼニカルは無表情になり、一団に向かいギアを入れ直してアクセルを踏み込む


「ゼニー、貴方……」


「ペニー、嫌なら目を瞑れ……いつか殴り倒したいと思っていた……」


「やる時はきっちりぶっ飛ばしてやって」


 凛としてそう言い切ったペニーモネを二度見すると苦笑して


「あぁ、二度と現れない様にぶっ飛ばしてやる!」


 トップスピードに乗ったトラックは一団に突っ込みボウリングのピンの様にZ達がバラバラにぶっ飛んで行く……元ポールも見事に潰れ、後続のバスに潰されて行く……


「マイケル、レイア……仇は取ったぞ」


「後は皆を安全な所に連れて行くから安らかに眠ってね……ポールは永遠に出てこないでね」


 ゼニカルとペニー・モネは溜飲を下げ、曲がり角を回ると戦闘で焼けた家々と目的地のヨットハーバーが見えて来た


 既に湾内にはフェリーが入って来ていた


 港に入ってきて船首のバウバイザーを上げて、強引にランプウェイを接岸させるとそこから二人の武装した男が走って出てきた


「焦らずゆっくり乗ってください!」


「Zが出てきてもぶっ飛ばすから安心してくれ!」


 精悍な黒人の青年男性とガタイのいい髭の白人中年がアニーが持っている同じ型の銃を構えて交互に叫ぶ


「「このデカブツと後3台入れるか?」」


 ゼニカルが運転席から顔を出して白人中年に叫ぶ


「モチのロンよ! 昨日、お嬢が詳細送ってきたから万全だぜ!」


「トラビス! ですよ!」


 黒人青年がバスの遥か後方、ハーバーの入り口に出てきた数体のZを見つけてトラビスに叫ぶ


「フランク! 狙撃案内は任せた! 俺は周囲を警戒する!」


 オルトンが地べたに寝そべり2脚を立てて狙いを定め狙撃を開始する


 数体のZの頭部が無くなるのは2分も掛からなかった


 トラックがランプウェイに侵入し船内に入るとボサボサの髪形のよれよれのシャツを着た男が待っていた


「移動、お疲れ様でした、上の船室でゆっくりとお休みください」


「お前さんがウォルコット助役だね? ワシはウェルス元町長、ゼニカル・マコーミックだ」


 ペニー・モネを伴ったゼニカルがウォルコットに近づき握手を求める


「貴方がウェルスの名物町長でしたか! 私がウォルコットです」


 がっちり握手を交わすと同時に次々とバスが入ってくる


「これで全員ですか? うちの3人組は?」


 ウォルコットは人数を確認してもらうとジョシュ達の消息を尋ねた


「彼等はいまZを誘き寄せにこの近くの短大に居る、音が聞こえるだろう? そしてこの後にボストンに向かうそうだ」


「ボストン……」


 それを聴いたウォルコットは苦笑しながらも安否確認を出来て少しホッとした


 ランプウェイが収納されバウバイザーが降ろされる。その際、艦橋の操舵室でキャッスルは音の方の建物の上に建つ三人の人影をみる……


 汽笛を鳴らしながら離岸すると建物の方から3発の銃声が鳴り響く……


「おい、キャッスル! 汽笛を何で鳴らす?」


 一仕事終えたトラビスとオルトンが操舵室に入って来る……


 キャッスルは無言で速やかに双眼鏡渡し建物を指差す……そしてにやりと笑う


「お?! しっかり生きてやがるな! 悪ガキ共!」


「え?! 全員無事ですか?」


 トラビスが破願して双眼鏡越しに呟くと近くの双眼鏡をもってオルトンも確認する


 三人の姿を確認し、どこぞの父兄の様に嬉々として騒ぎ出す


(次は多分、あのへそ曲がりクソバカやろうの研究所か……俺が顔出せればいいのだが……)


 無言でキャッスルは操船しながら3人の今後を懸念した……


 ――――――――――――――――


「さて……俺らも行くか……」


 船を見送ったジョシュが二人に呼びかける


「そうね……」


「さて、今度はロングドライブだぜ……」


 三人はゆっくりと建物を降り、ピットブルが停めてあるアーケードにたどり着く


 徐々に未だに増え続け、じきにここまで達するほどにまで増えるだろう……


 三人は無言でピットブルに降り、ハッチを開き中を確認してアニー、シュテフィンと次々に車内に入る


 さて……と思った時、トラックのブレーキ音が聞こえる


「「みーつーけーたーぞー!」」


 この前の3バカ強盗団が今度はトレーラーハウスに乗り込み、運転席から見覚えのある中華系の男がジョシュを見て叫ぶ


「ステ!」


 瞬時に何者かを悟り、シュテフィンの名前を呼ぶと同時にハッチに飛び込む


「あいよ」


 それと同時にシュテフィンがエンジン始動させると同時にサイレンを鳴らす


 一斉にZが此方を向き動き出す


 そしてトレーラーの横を擦り抜けて一気に走り去る


「クソバカ! 追え! 曲がれ‼ 早く行くんだよ!」


 白人男性が罵声を上げて、運転席の中華系男性に怒鳴りつける


「けど、ア~ニキィ~、Zが取り囲んで動けないよぅ」


「バカ! エンジンかけて直進してからだ!」


 そういって殴りつけて追いかけさせるも既にジョシュ達は路地を抜け大通りに入っていた


「まーだ、生きてたのね。3バカ強盗団」


「でもこいつに比べてトレーラーハウスは居住性高そうだな……」


「Zに対する防御性0だけどなー」


 各々呟きながら一路、ボストン郊外に向かいピットブルを走らせる……


 そこに何が待ち受けているのか、誰も予期して居なかった…………


























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