交錯
その日の夜、コチャックの監視の中、エイミーが作った夕食を食べながらポールは二人の話を聞いていた
「今夜、ゼニカルさんちで二人で話し合うんだって」
「巧くまとまるといいんだがなぁ……」
心配するコチャックを横目にステーキナイフを落とした振りで隠し持つ
「済まん、新しいのくれないか?」
エイミーに笑顔で頼むと新しいナイフで食事を済ます
食事が済み、トイレに行ってナイフを服の裏側に隠し、部屋に移送された
ベットに大人しく拘束されると暫くしてナイフを取り出し、拘束を外す
レイアを連れ出してマイケルを始末するのなら武器を確保しなければならない……ゼニカルの家の納屋に
窓を音もなく開けるとポールは夕闇の中をゼニカルの家に向かい走り出す
その頃、ゼニカルの応接間にマイケルとレイアが差し向かいで座り、見つめ合っていた
マイケルは長袖のシャツにジーパン、レイアは白いブラウスにジーパンの出で立ちでかれこれ5分の沈黙の後マイケルが口を開く
「こうして改めて向かい合うと何も言えないな……」
そう鼻の頭を掻き苦笑しながらマイケルが呟く
「ええ、私も何も言えないわ」
レイアも自然に笑いあう
「ねぇ、レイア、もう一度0からやり直してみないか?」
勇気を振り絞り素直に気持ちを表すマイケルに一瞬、戸惑いを感じながら
「私でいいの? 最下級の吸精鬼だし、子供は出来ないよ?」
伏し目がちでレイアはそう告げる
「最下級など僕には関係ない! 子供に関しては……ボストンの先生の所に相談して二人で挑んでみよう? ダメかい?」
真摯に見つめながらマイケルが懇願する
「辛いよ? 良いの?」
「君が隣に居てくれるなら……」
そしてレイアはすっと立つとマイケルも呼応するように立ち上がる
「最初に言わせて、黙ってて、浮気して御免なさい! こんなアタシで良ければやり直してください!」
「僕も言う事聞かずに突っ走ってゴメン、もう一度やりな……」
抱きしめようとして手を広げたマイケルは庭に居る男を見てとっさにレイアの身体を突き飛ばす
「な?!」
驚きで愕然とするレイアの目に映ったのはその直後にガラスを突き破る銃弾を身体に受けて倒れるマイケルだった
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!」
銃声とレイアの絶叫でキッチンで待機していたジョシュ達とゼニカルが部屋に駆け込んで来る
「動くなぁ!」
硝煙が銃口から出ているAR-15を肩にかけ、腕を掴み引き起こしたレイアのこめかみにグロックを突きつけて、ありとあらゆる感情が消えうせた無表情のポールが不気味に口を動かし
その異様さと状況にさしものジョシュも腰の
「サパーバンのキーを渡して今すぐゲートを開けろ、でなけりゃこの女の頭吹っ飛ばす……」
「判った、とりあえず落ち着け!」
ゼニカルがそう説得に入ろうとするとグロックをいきなりゼニカルに向け発砲する
「だぁ!」
動きを察知して気合と共にシュテフィンが飛び出し突き飛ばすが、ゼニカルの右上腕部に弾丸が貫通する
「てめぇ!」
激昂するジョシュに向かい無表情で再び告げる
「2度は言わない、車とゲートを何とかしろ」
そこにか細いがしっかりした声で血の気の失せた顔だが、目の据わったマイケルが腕を伸ばす
「お、俺のレイアを返せェェ!!」
その顔に向けて再びグロックを向けるがその前にジョシュがP210を、その背後のアニーがM945を抜く
「てめ、撃って見ろ…・・・俺はテメェのどてっ腹、後ろのアニーはテメェの銃を狙ってる。腕前は折り紙つきだぜ? わかってたら撃てよ! 俺らに嬲り殺しをさせてくれよ! なぁ?!」
とっくに怒りで目が据わり、威圧どころか狂気を含んだ恫喝にも屈せずポールはレイアを引き摺りながら道路に向けて移動する
「アニー!ゼニカルさんの手当てを! ステはマイケルさんちすぐ行って血液パック持ってきて傷口に掛けて、その後に飲ませろ! 俺はポールを抑える!」
即座に指示を出し、ジョシュはP210を構えて割れた窓から外へ飛び出す
そこには騒ぎを聞きつけた住人達に遠巻きに囲まれながらレイアに銃を突きつけるポールがゲートのトラックににじり寄る
「動くなッ!」
P210を突きつけたジョシュの叫びに住人達が伏せるが、それでもポールはレイアを盾にトラックに近づく
「乗れ」
片手でドアを開き、グロックを突きつけながら短く、鋭くレイアに強要する
「嫌! 撃ちたかったら……」
――パン!――
レイアは抵抗したがその言葉の先を言う前に少しずらしてジョシュに向けて発砲して有無を言わせない
ほぼいきなりの発砲で虚をつかれた形のジョシュは横っ飛びに避けて隙を作ってしまい、ポールにレイアを押し込められトラックに乗られる
そして運転席からARを片手で乱射しながらエンジンが始動しトラックが動き出す!
「全員逃げてくれ!それと誰か応援とサパーバンでも良いからゲートを塞げ!」
ジョシュがP210を構えZの侵入に備える。出て行ったトラックの後ろからふらりとZ達がゾロゾロと現れる……
「チッ!」
――――パン!パン!パン!――
三連射で侵入しようとしたZ三体を即座に駆除、しかし後続の数が多い!
――やべぇ‼ 突破される!――
そこの横をクラクションを鳴らしながらサパーバンに乗ったシュテフィンが突撃し、サイドターンで残りを弾き飛ばす
そしてまたその横をホンダ・シビックに乗ったアニーがバックで突っ込む、2台の連携でゲートの穴が辛うじて塞ぐ
「あぶねぇー!」
ジョシュの叫びと共にサパーバンのドアからシュテフィンが、シビックからアニーが降りてくる
「何、下手こいてんのよ! 逃げられたじゃない!」
「ジョシュ、射撃が下手なら代わって上げようか?」
応援に来た二人に軽く文句を言われながらジョシュは下手打った自分を鼓舞するように状況を聞く
「うっせっ! マイケルさんとゼニカルさんは?」
「二人ともとりあえず大丈夫、だけどこれでマイケルさんの血液ストックがないらしい」
「他にも
状況を聞いて追跡を即決する
「了解した。とにかくポールを追うぞ。仮のゲートを開けて
『判った!』
そういうなりシュテフィンはピットブルへ、アニーはM945を片手に銃を持って駆けつけてきた住人達に指示、ジョシュはシビック側に集まりだしたZを処理しだした……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
遠くで銃声の響きを聞きつけたパブロとトーレスは武器と装備に身を固めながら色めき立っていた
ジョシュ達がZを駆除、もしくは吸血鬼達と交戦したものと推測したからだ
「意外と早く
「単発なとこを見ると奴の仲間がZを駆逐したらしいな……ジョシュアはそこまで利口でも馬鹿でもないからな」
トーレスはそういうと
過大も過小しない、相手に対する適正な評価に罠を駆使するほど狡猾ではない性格を見抜いていた
「まぁ、どうでもいいや、始末できればスッキリするさ」
胸部の痛みはまだある、それを怒りと憎悪に変えてパブロが立ち上がる
「その前に景気をつけとけ」
トーレスが
「痛み止めか? いらねぇよ?」
首を振って拒否するパブロにトーレスは笑って答える
「痛み止めといつもの
そういって錠剤を渡し、しぶしぶパブロは口に含みウィスキーで流し込み、トーレスもカプセルを飲み込みウィスキーを受け取り口に含み、一気に飲む
「ぷはぁ! さて一丁、ケリ付けに行くか!」
そう言ってトーレスは運転席の近くに居る邪魔なZ、3体の頭部を
パブロも助手席に乗ると目の前の大通りをトラックが疾走していく
「おんやぁ? いきなり発見かよ!」
パブロが笑いながら指を差す
「先日見たジョシュ達の車ではないな……とりあえず捕まえて囮か人質にしよう」
エンジンを掛けて、急いで追跡に移る
「おうおうおうおう、えれぇよたついて運転してやがンなぁぁぁぁ」
戦闘薬の所為か血走った目のパブロが抑えきれない興奮を隣で笑いながら観察するトーレスは猛り狂う殺人衝動と戦いながらハンドルを握り、数年前を思い出していた
初陣の時もそうだった……異例の複数の偉いさんの参加に初陣も手伝いビビリまくる俺達、新兵に笑いながらとある上官は
当然俺も呑んだ……だが、あのドワイトだけは隙を見て吐き出していた
今にして思えば、アイツはコレが何なのか知っていた気がする……
恐怖心を極度の戦闘意欲どころか殺人衝動に換え、興奮と快楽に身を焦がしながら吸血鬼の催眠・幻覚能力に抵抗するほどの集中力と感覚鋭敏、筋力増強させる魔の薬がこれだ。上官は
おかげで新兵達は盲目的に突撃していき見事に皆、犬死して逝った……
前線で取り残されたドワイトが必死に応戦していたが例の上官……ヴォイスラブの野郎はアイツを囮に吸血鬼達を楽しみながら射殺して廻った……その間、通信で狙撃をミスった俺の尻叩きながら……
俺は生き残った……ドワイトの野郎もそこまでは生きてた
だが、アイツは……ドワイトは撃たれた足を引き摺りながら、一仕事終えて一息ついていたヴォイスラブの野郎に食って掛かって言った
「上官殿! この
その瞬間にドワイトの胸部に銃弾が乱射される
「これが答だ。
そのまま無表情にライフルを投げ捨て去っていくヴォイスラブを横目にトーレスが虫の息のドワイトに駆け寄る
「よぉ、トーレス、お前は生き残ったんだな……良かった……」
ぜぇぜぇと血の混じった息を吐きながらドワイトが声を掛ける
「ドワイト……」
「オヤジと同じ道を辿っちまったぜ……これを……ジョシュアの馬鹿に渡してやってくれ」
ドワイトが震える血塗れの手でM945を渡してくる
「やだよ、お前が渡せよ……」
付き合いの薄い俺が渡すのが憚かれる気がした
「無茶ぶりかよ……
泣いてるのか笑っているのか判らない表情でドワイトが頼む
「わかった、渡すだけな……」
「構わんよ、ありがとな」
やっと笑ったと分かった時、既にドワイトは
その後はヴォイスラブに睨まれたのか激戦区の巡礼の旅だった……
その間に生き抜く術と狙撃と指揮の腕を磨くと実績を積み上げ、更なる実績と身を守る為にパブロを呼ぶことにした。唯一の友人であるパブロに養成所の頃から戦術をマッチさせた訓練、近接特化、防御特化型をレクチャーした。体格も合ったが何より功名心が高かったのもあって直ぐに実戦配備の申請は通った
ジョシュアには正直恨みはない
だが、奴の師匠グループは強皇にまで成り上がったヴォイスラブに敵対する一派だ。その師匠一派を攻撃する事で更なる実績と謁見できる所までに近づく為に踏み台になって貰う。
死んで行った同郷達の為に……何も知らない脳筋のパブロでさえも踏み台にしてのし上がり、俺らをコケにしたあのスカしたヴォイスラブの顔に銃弾を叩き込む為に……
「おいぃぃぃぃ! パイセン!速く飛ばせよぉぉぉッ!」
ダッシュボードをバンバン叩きながら猛り狂うパブロが叫んで求める
――その前に俺がお前を殺しそうだ――
内心、ゾクリと呟くと片手でライフルを構え
「おい、パブゥ! ハンドル持ってろ! 揺らしたら先にお前ヤルぞ」
ギラリと睨みつけると身を窓から乗り出してトーレスは狙いを後輪のタイヤに定め、引金を引く
バスン!
音と共に制御不能となったトラックは路肩に乗り上げ、放置車に衝突して止まる
搭乗者2名はフロントガラスを割って外に投げ出される
「うっ、ぐっ、レ、レイア?」
地面に背中を叩き付けられて絶句する痛みに襲われながらもポールは気を失って横たわってるはずのレイアを探す
そのレイアは放置車の上で呻いていた 先程まで車内で運転席のポールに罵詈雑言を浴びせ、蹴り飛ばし泣き叫んで暴れていたのが嘘のような大人しさだった
そこにもう一台見知らぬトラックが停車する
「ちっ、やっぱりジョシュアじゃねぇじゃねぇか」
トラックから降りてきたパブロはハンマー片手にポールに近づく
「な、なん……」
なんだと続ける前にパブロはハンマーでグロックを避けると笑顔でその頭部をおもっきり蹴り飛ばした
「ぐぎゃぁ!」
「おまえ、ジョシュア・グランダンって知ってるか?」
「ジョ……」
またその頭を蹴り飛ばし
「おせぇよ! キリキリ話せ!」
地面に叩き付けられた重傷の人間に対する処置ではない。明らかに嬲って楽しむ気満々だ
そこにトーレスが横を指差しながら指示を出す
「おい、隣の女連れて来い。ガス抜きがてら拷問かけるぞ」
そこに横たわるレイアを見つけるとパブロは抱きかかえいそいそとトラックに載せる
「お、俺も……」
その声は意図的にトラックのドアを閉める音に掻き消され、ポールを置いてトラックは去って行った……
「ち、ちくしょう、あいつ等ぶっ殺してやる……」
背後に近づいてくる腐臭のする影が複数あるのにも気が付かずよろよろと立ち上がるとポールはブツブツと怨嗟の声を呟く
――その数分後、絶望を濃縮したようなポールの断末魔の絶叫が町中に響き渡った……――
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