奇襲
国道76号線・ペンシルバニア・ターンパイク、所々に何処からともなく入ってきたZが何処に行くわけでもなくフラフラと道路の真ん中に佇んでいた
――ターン!――
何処からとも無くそれを狙撃して倒すとその後から檻のようなスラットアーマーを車体周囲に張り巡らせたM1130 ストライカー
その兵士が乗る指揮車に率いられたM1127 ストライカー
「余裕かましておられるなぁ……先頭2台はスラットアーマー付きだ。2発くれ」
火の消えてる葉巻を銜えたホセが遠距離から双眼鏡を使い覗き、下に居たエディに対戦車ミサイル・FGM-148ジャベリンを2発用意させる
「ハイハイ、準備OK、それではJP&マーカス師匠、オナシャス!」
JPはマニュアルは道中に熟読し、実戦で発砲経験のあるマーカスがレクチャーをして射手を務める事になった
「後で全員シュミレーターやっといてくれよ? と言っても訓練基地に行かんとないか……」
マーカスがぼやくのも無理は無い。ジャベリンは高価な為、米軍でさえもシュミレーターで好成績を終えた者でないと実射訓練をさせないほどだ。ただ、高いだけはあり講習直後で94%の命中率を誇る
「何でも良い、撃ったら即座に総員持ち場につけ! 手筈通りに行くぞ!」
JPは己を鼓舞するように指示を出す
『
イエッサーでもヤボールでもなくアエイト、ストリートスラングで返すのが独立愚連隊なJP達らしい、くだけた言い方だが仕事とヤル気はキッチリしている
JPとマーカスはレクチャー通りに装甲車用の攻撃設定、トップアタックモードに設定しジャベリンを構える
スコープに目標を設定し、待機地点から500メートル過ぎるまで待つ……
「レディ……ファイア!」
――ボシュン!ボシュン!――
ミサイルが射出されると同時に水平翼と尾翼を展開し直進する。すぐさま二人は砲塔をハッチに投げ入れてエディとトーマスが受け止めて、荷台に立て掛ける
モーリーが
先頭車両が破壊されると車列が止まる!そこにスピードを上げながら左側の車列に向かい前のブローニングの砲座にはホセが、後部の簡易砲座には上がってきたトーマスが座り、その間にJPとマーカスがM240機関銃に持ち替えてバスに向かい銃弾の雨を降らせる
十数台の車列の大半が身動きが取れないまま穴だらけになり、その後ガソリンタンクに着弾し、爆発炎上するその横をトップスピードに乗ったトラックが走り抜ける
「オシ!奇襲成功~!」
エディが奇襲成功に歓声を上げるとホセが怒声を上げる
「バカやろぅ!さっさと銃身持って来い! トーマスにも渡せ!」
その怒号に慌ててブローニングの銃身を渡す
ブローニングの銃身は100発程度の発砲で銃身の温度が約130-230℃に達する。そうなると銃身底部と機関部の間隔を調整する
牛革のミトンを持ったトーマスとホセが銃身交換している間、JPとマーカスが後ろから、罵声と怒号を響かせながら迫る輸送バスの射手を牽制するが、既にボディアーマーには何発か貰い、簡易砲座の防御板はボコボコに凹み、数発は貫通していた
「交換完了! 弾も装填した!」
叫ぶホセに続いて運転席のモーリーが警告する
「ジャンクションに入る! 軽く右!」
ステアリングを切りながらジャンクションに突入する
その途端、最後尾のトーマスを除いて3人が左に銃口を向けると左カーブにトラックが進入する
「
JPの号令の元、一斉にバスの左側の車窓に殺到する教会兵達に向かい銃撃を浴びせると数発がバスのタイヤに入りバーストさせバスが横転する
お陰でそれが壁になり、後続からの攻撃を防ぐ形になる。
そうしてスピードを維持したまま次のカーブに向かう
「エディ! M240の
マーカスが前方のハッチからエディを呼びかける
「あいよ! JPにも渡して!」
「おう!」
マーカスにベルトを2列渡す。既にエディの足元は空薬莢だらけだった
「次は右カーブで本線に入る! 上からも気をつけてくれ!」
トラックが右の下り坂のカーブに進入し、今度は右に銃口を向けるが、二度も同じ手は食わなかった
猛烈な銃撃が右上方よりトラックに向けて乱射される
堪らずにJPはホセの銃座の防御板に、マーカスはトーマスの防御板に隠れる。
ガガガ、チュィーン、キン
激しい金属音と共に防御板がたちまちボロボロになって行く、タイヤも数発貰うが、軍用ランフラットタイヤは数十キロはそのままでも走れる。迎撃地点までギリギリ保つ、だが、中の乗員まではそうはいかなかった
「ガッ!」
中に居たエディの右肩口に弾丸が貫通する
「エディ!」
「いってーぇ!だ、大丈夫ッ!まだやれるよ!」
と、言いつつも銀の抗体反応が出だした。既に顔色は白くなって居た
「エディ!血液パックで消毒と呑んどけ!」
下に向かってホセが叫ぶが、返事は無い
「JP!?」
マーカスの叫びに呼応して指示を出す
「下に行って手当しろ!」
後部ハッチから降り、気絶したエディの服をナイフで切り、肩を出すとアイスボックスから血液パックを出して傷口にぶっ掛けて、消毒液の様に泡が出るのを確認すると残りを口に含ます。
「グッ」
痛みで目を覚ましたエディは起き上がろうとするが、マーカスに止められる
「もうちょい寝とけ!じきに落ち着く」
顔色が快方へ変わって来たのを見てマーカスはハッチに手をかけて登ったその顔の前を銃弾がチュィーンと音を立てて通る
「おおぅ! 景気良くぶっ放しやがって……」
少しイラッとしながらマーカスが機関銃で反撃する
その頃にはトラックは79号線に入るが、タイヤがランフラットタイヤとはいえ走行性能が通常とは行かず、後方のバスとの差がじりじりと無くなりつつあった
「頑張れ! モーリー! もうじき第一伏兵ポイントだ」
ホセが片手でタイア圧調整装置を弄りながら、ステアリング捌きで回避運動をさせつつ、アクセルをべた踏みするモーリーをに激励をする
それでも銃撃は直撃弾が徐々に増えていく……陸橋をくぐる頃には肉薄していた
そこに
陸橋の上に待機していた直下兵達が真下を通るバスに向かい銃撃を洗車シャワーのように降らせて行く
上からの攻撃に教会兵の攻撃が緩む
「全員無事か?!今の内に体制整えろ! ボディアーマーと武器を交換しておけ」
一斉に下に降りると即座に特製の防弾ボディアーマーに変える。直下隊から譲ってもらったセラミック複合素材の防護材が3枚入りの耐久性重視の奴だ
全員てきぱきと交互に装備し、まずホセとトーマスがブローニングの銃身を再度交換し、トーマスが機関銃を手に登っていく
「エディ、気分は?」
JPが自身の装備の装着を手伝うエディに声を掛ける、処置が速かったため回復も早い
「最高、もちっと休んだら仕事に戻るよ」
JPの肩を叩き準備OKの合図を出す
「お前も重層アーマーをつけろ、モーリーを狙われたり、火力が足りなければ出てもらう」
「了解……重いから嫌なんだけどなぁ」
そして文句を言いながらエディはボディアーマーをJPに着けてもらう
「よし」
「おいでなすったぜ!」
JPが上に上るとホセがにやりと笑いながら叫ぶ
陸橋の上からの銃撃にも耐えた輸送バス隊が向かってくるが、示し合わせた最終ポイント、ペンシルバニア・ターンパイク陸橋の交差地点はすぐそこだった。交差する地点には林や草叢が多く隠れるにはうってつけといえた
目標の赤いカラーコーンが見えるが、タイヤの圧が持たなくなってきてガタガタ車体が揺れる
「もうちょい保ってくれ」
必死にタイヤ圧調節と格闘するエディと同じく必死にステアリングを捌き倒すモーリーが前方のカラーコーンを見据えた
バス隊が縦列に並び追い詰めようとスピードを上げるが、モーリーのドライビングテクニックとチームワークのお陰でカラーコーンを突破しそこで横向きにトラックを停める
「ほんじゃ、後は宜しく!」
運転専属のモーリーが脱兎の如くトラックの陰に隠れる
「はやっ!」
窓からM240を突き出すとエディは後ろを向いて愚痴る
諦めたと読んだバス隊がスピードを上げた時、横の草叢からライフルを構えた兵士達が出現し、一斉に射撃を行うとJP達も一斉射撃を開始する
バスはたちまちの内に穴だらけになり窓は血飛沫で赤く染まる
罠と気がついた最後尾の1台がブレーキを踏み後退し様と転回をするが、後詰の直下兵の隊が後ろに来ていた
「撃ち方やめぃ!」
JPの号令と共にマーカス達がトリガーから指を離す
――うぉぉぉぉぉぉ――
その直後に直下兵達の歓声が沸き上がる
十数台のバスに分乗した数百人の兵士達を数十人の手勢で見事に駆逐したのだから……
だが、JPの顔には笑顔は無い
「モーリー! タイヤ調整して草叢にコイツを隠せ! ホセ、トーマスは直ちに銃身を交換しろ」
「
いつもなら飛び出す無駄口を叩かずに黙々と指示従う、そこに直下の隊長がやってくる
「どうされた? ピッツバーグに殴りこみに行かれるのか?」
勝利の興奮覚めやらぬ上機嫌の状態で軽口を叩くが、JPは至って冷静に返事をする
「我々はそこまで酔狂では御座いませんよ。じきに連中の救援部隊がやってきます。それを始末してミッション終了です」
トラックが動き出し草叢に潜むような形で停車するとタイヤが悲鳴をあげバーストする
「JP! もうダメだ! ここで擱座させるよ!」
運転席のモーリーが悲鳴を上げると、次はホセ達が報告する
「ブローニングの最後の銃身交換と給弾終了、これで看板だぜ」
そういうとトラックから降りて、トーマスと穴の開いたぬるいソーダを器用に呷る
「ここで待ち伏せしますか? それとご依頼のあった車両を一台、陸橋に用意しました」
「お手数をおかけしました。有難う御座います。待ち伏せ地点はそうしたい所ですね。兵士を4人お貸し願えますか? エディ!ホセ!、直ちにクレイモアを持ってこの1キロ先の林の辺りに設置しろ。モーリー、バスの出入り口全部空けといてくれ」
クレイモアの木箱を持つとホセ達6人は1キロ先の林に急ぎ、設置にはいる
「あそこで罠ですか?」
「ええ、退路を断つのと残りの弾丸を全弾撃ったあと撤退します……残りは
モーリーが片っ端からドアを開けると死臭と共に青白い顔の元兵士達のZが雪崩を打つ様に落ちてきた
「向こうの方はどうする?」
「そのまま捕虜のバスに乗せて貰い開放しながら戻れ 荒事済ませたら
JPの指示を聞き、了解と返すと捕虜のバスに直下兵と乗り込み戻って行った
「最初からここで使うつもりだったので?」
その奇策に驚きながら隊長が尋ねると
「いや、全部このままピッツバーグ侵攻部隊の背後を衝く形で援軍に行かせようと思ってましたが……詰めが甘かった」
苦笑するJPに隊長は味方で良かったという安堵感とこれが敵ならという恐怖感に包まれた
「設置完了! ほい、リモコン、ついでに所属不明のストライカー3台、此方に向かって来てるぜ」
ホセがリモコンを渡しながら後方を親指で指し報告する
「マー……」
「ジャベリンは1発しかない、真ん中行くか?」
名前を呼ばれる前にJPの指示を先読みして準備をしていたマーカスが尋ねる
内心、流石と苦笑しながら草叢から狙えと指示を出す
「隊長、殿は我々がやるので弾を撃ち切ったら即座に撤退をして頂きたい」
「了解、JP隊にご武運を!」
そういって敬礼しあうと持ち場に着く
「エディ、煙幕、
トラックの防護板に2脚を立て機関銃を構えるエディに質問する
「うん、5発装填されてるよ」
「攻撃始まったら全弾を道路に射出してから陸橋に登れ、そして最大音量で
運転席を指差してエディに指示を出す
「何、パトカーでもあるの?」
サイレンの指示に戸惑うエディを叱責する
「御託は良い、準備しろ」
「
持ち場の運転席に座ると防護版を上げる
「さて、おいでなすったぜぇ~」
ホセの座る銃座から此方に向かってくるストライカーが視界に入る
「トーマス! タイミングは任せる」
すると、ノックして了解と合図する
そしてブローニングの照星にストライカーを捉える。ホセも捉えたのを確認すると地雷設置の1キロを超えて数百メートルでトーマスはブローニングのトリガーを引いた
それと同時にスモークが張られ、そこにホセのブローニングや周囲から銃弾が浴びせられ動きが止まる。しかし、上部に取り付けられたブローニングの砲台は破壊出来てもストライカーの分厚い装甲には歯が立たない
「くぅぅぅぅ、硬ってぇな……」
ホセがトーマスと射線を合わせて装甲破壊を試みるがうまくいかない、そこにマーカスのジャベリンが移動しかけた中段の車両を破壊する
追い打ちをかけるかのようにJPがリモコンのスイッチを押してクレイモアを起動させる。クレイモア単独では装甲が厚いストライカー装甲車には無効だ。但し、タイヤに対して連続の起爆はかなり効く、前に出ようとした最後尾の車両がタイヤへの連続起爆を受け立ち往生する
「タイヤを狙え!それで事が済む!」
JPの指示が飛ぶと同時にけたたましいサイレンが鳴り響く、エディが指示通りサイレンを鳴らしたのだった。
そしてホセ達のブローニングの火線がタイヤに集中し、前輪を破壊する。既に直下兵達は撤退し、残りはJP達だけだった
「撤退する。陸橋に登れ!そこに逃走用の車を用意して貰った」
「流石、気が利く~」
JPの指示に弾切れのブローニングを放置し、茶化す余裕を見せながらホセとトーマスが車から出る
まだ周囲には煙が充満し、視界を塞ぐ……
三人は陸橋の
そこには運転席に座って御満悦のエディとサイドドアを開いた
「おう、お疲れ、下では阿鼻叫喚の図になってるぜ」
道路のガードに隠れながらマーカスが下を指す
バスから降りてきたZがストライカーに砂糖に集る蟻の様に集まってきていた
既に中段の大破した車両から無数の絶叫が聞こえる……
「マーカス、モーリーを拾って帰ろう……」
JPは最後に黙祷するように無言になるとピットブルに振り向き歩き出した
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