第11話 パソコンとJK
家に帰ってから、購入してきた物を早速設置して回る。
真っ先に設置したのはレースカーテン。
家の中からだと
これで俺も二人も、人目を気にすることなく過ごせるはず。
次に設置したのは芳香剤。
玄関に芳香剤を置くだけで、別の家の玄関のように感じるのには少し感動した。これで奏音に文句も言われないだろう。
その奏音は、帰ってからすぐに食材を冷蔵庫に仕舞っていた。
俺の家の冷蔵庫なのに、既に何年もここで暮らしているかのような慣れた手付きで次々と食材を収納していく。
環境に馴染むのが早いな……。これなら今後の生活もあまり心配しなくても良さそうだ。
ちなみに冷蔵庫の真ん中を堂々と陣取っていた発泡酒は、肩身狭そうに端の方に寄せられていた。
ひまりは買ってきたペンタブを箱から出して、俺の寝室にあるパソコンの前に座っていた。
「駒村さん。パソコンを付けてもいいですか? ソフトの確認もしたいので……」
「あぁ。スリープモードになっているだけだから、マウスを動かすだけで画面は付くと思う」
風呂場用のブラシを袋から取り出しつつ答える俺。
そういえば、最後に触ったのは3日前だったか。
最近は電源を落とさずにそのまま放置する癖がついてしまっている。
「付きましたが、パスワードが必要です」
「あ、そうか」
ひまりに言われ、パソコンの前まで移動。
既に指に動きが染みついたパスワードの入力を終えると、画面には3日前に俺が見ていたページが表示されて――。
(――――あ、やべぇ)
俺は光の速さでマウスを動かす。
「――――!?」
驚くひまりは無視して、すかさず全画面を削除。
迂闊だった……。消しておけば良かった……。
画面を開くまで、3日前の自分が何を見ていたのかすっかり忘れていたのだ。
真っ先に画面に表示されていたのはニュースの記事だったが、問題は上部にいくつか開いていたタブ。
要するに、アレだ。
18歳未満は見てはいけないやつ……。
しかも一目見て「そういうもの」とわかるタイトルがタブに表示されていた。
もしかして、ひまりに見られてしまっただろうか。
見ていないと思いたい。
むしろ頼む。
「あの、駒村さん――」
「そういえば画像ソフトを使うんだよな! デスクトップにアイコンがあるはず。ええっと――」
平静を装いながら誤魔化すが、ちょっと声が上擦っていたかもしれない。
横目でチラリとひまりを見ると、顔を真っ赤にして俯いていた。
――――あ。
これは……もしかしなくても見られたな……。終わった……。
「こ、駒村さん……」
「……何だ」
動揺を悟られないため、ぶっきらぼうな返事になってしまった。
いや。ここは大人の男の余裕を見せるべく逆に開き直るか――と決意したところで、ひまりが先にぽしょっと呟いた。
「あの…………手……」
「ん?」
そこでようやく気付く。
ひまりの手の上からマウスを掴んでいたことに。
「あぁ、す、すまん」
「い、いえ……」
言われるまでひまりの手に気付かなかったとか、どれだけ必死だったんだ俺……。
でも、そうか。これからひまりがパソコンを使うということは、こういうことにも気をつけないといけないわけか……。
後でこっそり、お気に入りフォルダを整理しておかないと……。
微妙な空気を変えるべく、俺はわざと咳払いをしてから再びパソコンの画面を見る。
「それで画像ソフトなんだが――」
「あ、ありました。このアイコンですね。ありがとうございます」
「まぁ、元々は弟が勝手に入れたやつなんだけどな」
「そうなんですね。では弟さんに感謝しないとです」
ひまりは小さくまとめられていたペンタブのUSBケーブルを解いていく。
そしてパソコンにケーブルを挿し、認識画面を見ながら小さくひと言。
「駒村さんて、年上というか……人妻が好きなんですか?」
「――――!?」
動揺した様子もなく、それどころか神妙な面持ちでサラリと言うひまり。
逆に俺が激しく動揺してしまった。
今飲み物を口に含んでいたら、間違いなく盛大に噴き出していただろう。
お前…………あの一瞬の間で、タブの文字を見ていたのか……。
こういう場合、どういう返答をするのが正解なんだ?
若かりし頃、ベッドの下に隠していたそういう雑誌を机の上に置かれていた時以上に、だいぶ頭の中は混乱していた。
「別に、そういうわけでは……。現実と好みは違うというか……。うん、あくまで空想世界での趣味だ。そこは俺もわきまえているというか、ありえない世界の背徳感を疑似体験というか――」
いや、女子高生相手に何を言っているんだ俺。
ちょっと死にたくなってきた。
「そうですか……なるほど……人妻はただの趣味……」
そこをリピートするな。
ひまりはなぜか、さらに神妙な顔つきになっていた。
ついさっき、俺の手が触れて顔を真っ赤にしていた面影はそこにはない。
……キミ、ちょっと感性がおかしくない?
「なら、年下でもいけるってことですよね……」
「おまっ――!? イケるとかそういうことは露骨に口にするなって。俺の方が反応に困るわ!」
「ほへ?」
間の抜けた声を発したひまりは、きょとんとした顔をしていた。
やっぱりこいつの感性はちょっとおかしいかもしれない。
そういえば、恩を体で返せばいいか? とか言っていたしな……。
ちなみに年下でイケないかというと、全然そういうことはなくむしろ好き――って、だから何を考えてるんだ俺!
まぁ、そこはそれ。現実と虚構の世界を一緒にすることはない。
こいつらは未成年。
手を出そうという考えは当然持っていない。
幸いにも、今の会話は奏音には聞こえていなかったらしい。
キッチンの方から聞こえてくる野菜を切る軽快な音に、少しだけホッとする。
「とにかく、これから精一杯絵を描きます。あの、駒村さん。改めて、本当にありがとうございます」
ふわりと笑うひまりの顔は、これまたさっきとは全然違うもので――。
この短時間で色々な表情を見せた彼女の顔を、つい眺めてしまっていた。
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