第9話 買い物とJK①
朝10時前に家を出て、近くの大型のショッピングモールまで来た。
奏音に言われた生活用品や、ひまりの服、その他
ちなみにひまりが制服だから、奏音もそれに合わせて制服を着ている。
俺としては、休日に女子高生を二人も連れていると目立つからやめて欲しかったのだが……。
奏音の「そんなの誰も気にしないし」という言葉に押し切られた形だ。
確かに人が多すぎて、いちいち俺たちに怪訝な視線を送ってくる奴はいない。
すれ違いざまに見られることはあるが、すぐに興味をなくして前を向く人ばかりだ。
土曜日ということもあって、店内は家族連れやカップル、友達と思われる若者グループでごった返している。
俺と同年代の男が一人で歩いている姿は見かけない。
「ね、だから言ったっしょ。みんな私らのことなんかいちいち気にしないって。それよりツレとの会話が大事なんだって」
「そうみたいだな……」
「はぅ……良かった」
俺の隣でホッと安堵の息を吐くひまり。
奏音の言葉に安心したのは、どうやら俺だけではなかったらしい。
確かにこいつ、家出中だもんな……。
ということはやっぱり、堂々と外出するべきではなかったのでは?
ひまりは『家族は大ごとにしていないはず』と言っていたが、彼女を全く捜していないわけではないだろうし。
でもまぁ、既にここまで来てしまったし。それに服を買うのに本人不在だと何かと不便だ。
とにかく、買い物を済ませてサッサと帰ろう。
「先にひまりの服から買う?」
「そうしてもらえるとありがたいです。あと、できれば着替えたい……。私の制服、この辺の学校のじゃないから、もしかしたら目立ってるかもしれないし……」
「そうか?」
俺にしてみれば、ひまりの制服もこの近辺で見る女子高生のものと大差ないと思うのだが。
こう言っちゃなんだが、よくあるブレザーというか。
「あぁ~……。確かにこのリボンは超可愛いもんねー」
ひまりの制服を改めて褒める奏音。
俺にはただのチェック柄のリボンにしか見えんのだが――そこには女子にしかわからない可愛さというものがあるのだろう。
おっさんの俺は黙っておいた方が良さそうだ。
「とりあえず、服から見に行こー」
先頭に立って歩き出す奏音。
「奏音。もしかしてここに来たことがあるのか?」
「あるよ。友達と」
「そうか。じゃあ案内を頼む。実は俺、1回しか来たことがないんだ。あ、できたら安い店にしてくれ」
奏音の後ろ姿に向けて、俺は心からのお願いを発する。
女子高生がどういう服を着ているのかはわからんが、1着が万を越すような店は勘弁してもらいたい。
「わかってるよ。ひまり、ユニクロでいい?」
「うん。むしろ古着で良いんだけど。そこまでお金かけてもらうのは申し訳ないし……」
「いや、こういう場所に古着は売ってないんじゃないか?」
「そうそう。それにユニクロだったら下着とかも全部揃うし。行こ行こ」
ひまりの手を取り、意気揚々と歩き出す奏音。
別にそういう趣味があるわけではないのだが、こうして女の子同士が手を繋ぐ姿って――何か……間近で見ると良いものだな……。
こんな気持ち悪いことを考えているのを知られたくないので、少しだけ離れて二人の後を付いて行った。
女子高生の買い物って、どうしてこうも長いんだ……。
店に入ってから既に数十分は経過している。さすがに俺の精神力も削れてきた。
二人は店内の同じ場所を何度もグルグルしている。
早く決めてくれと思いつつ、俺も服を見て回る。
でも、特に今はコレと言って欲しい服がないんだよな。上も下も、去年からの流用で十分だ。
あ、でも下着くらいは新しいのを買っておくか。奏音に何か言われそうだし。
そう思い立ち移動しようとしたところで、カゴを持ったひまりが接近してきた。
「あの、駒村さん。とりあえず普段着2枚と就寝用の寝間着、そして下着2枚と靴下なんですが――金額は大丈夫でしょうか? 安い物を選んではきたのですが」
そう言って不安そうに買い物カゴの中の服を見せてくるひまり。
ふむ、ひまりの下着は白か……。
そういえば、昨日こけた時に見えたパンツも白だったな。ひまりは白色が好きなんだろうか。
本人には絶対に聞かせられないことを考えながら、俺は値札を確認する。
「うん、これくらいなら予算内だ。全然問題ない。何ならもう1着選んできても良いが――」
「いえ、さすがに申し訳ないです。これで結構ですので……!」
「そうか。じゃあ会計をしてくる」
ひまりから買い物カゴを受け取り、ついでに自分用のトランクスもサッとカゴに入れてからレジに向かった。
ひまりは早速トイレに向かい、買った服に着替えた。やはり俺としても、制服姿でいられるよりその方が安心する。
奏音は「せっかくの制服デートだったのに」と少し不満そうだったが、事情を理解しているのでそれ以上は何も言わなかった。
その後は日用品コーナーで、奏音に指摘された物を購入。
そして家具が置いてあるコーナーに行き、レースカーテンも買った。これで少しは外部からの目を気にしないですむだろう。
さらに足りなかったキッチンテーブル用の椅子も購入。
これは配達してもらうようにした。
改めて買い物リストに目を落とす。
風呂用の掃除ブラシ、芳香剤、シャンプーとリンス、洗濯ネット、三角コーナーに被せるネット、トイレ用汚物入れと黒い袋――。
奏音に指摘された物は、これでほぼ買いそろえたはず。
それ以外にもゴミ袋、二人の歯ブラシ、食器類も購入した。
他に足りない物があったら、その都度買い足せば良いだろう。
あとは食料を買えば、今日の目的は達成するのだが――。
「ねえ。そろそろお腹減った……」
奏音の声を受け、俺は腕時計に目をやる。
時計の針は既に12時を回っていた。
もうこんな時間になっていたのか。
それまで特に意識していなかったのに、時計を見た瞬間空腹が襲ってきた。
ちょうど目の前に館内の地図があったので立ち止まる。
レストラン街が1F、フードコートが2Fにあるらしい。どちらも端にあるので、ここからは少し離れている。
「じゃあ昼飯を食べるか。二人は何か食べたい物はあるか?」
「私は何でも良いです」
「うーん。私も特にコレ! ってのはないなぁ」
「その返答が一番困るやつなんだけど」
「じゃあ駒村さんは何が食べたいですか?」
「いや、その……何でも良いな……」
「人のこと言えないじゃん……」
地図の前で立ち尽くしながら、お互いに苦笑いを浮かべる俺たち。
三人の意見が初めて合った瞬間な気もするが、何とも微妙な気持ちになるのだった。
結局フードコートに向かい、各々が食べたい物を見つけて食べる、という形に落ち着いた。
俺は天丼と蕎麦のセット、奏音はホットドッグとアイスティー、ひまりはたこ焼きとオレンジジュースという、三人の統一感が欠片もないメニュー構成だった。
蕎麦を食おうとしている時にたこ焼きの匂いが漂ってくるのは、なかなかに新鮮だ。
だが、隣の席から漂ってくる石焼きビビンバの匂いがそれ以上に強烈だった。
自分が何を食べようとしているのか、ちょっとわからなくなる。
しかし、本当に人が多いな。
これだけ人が多い様子を見ると、ひまりのことも上手く誤魔化せる気がしてくる。当然、油断をするつもりはないが。
改めて決意しながら天丼の海老を一口食べた、その時。
「ふはっ!? あ、あふっ、熱いですっ!」
たこ焼きを一口囓ったひまりが、突然悶絶を始めた。
「大丈夫!? ジュース、ジュース飲みなよ!」
奏音のアドバイス通り、たこ焼きを頬張ったままオレンジジュースを飲むひまり。
しばらくジュースを口の中で泳がせてから、ようやく飲み込めたようだ。
「あ、熱かったぁ……びっくりしたぁ……」
「もう、気をつけなよ。たこ焼きって中がめっちゃ熱いんだから。猫舌ならちゃんとフーフーしなきゃダメじゃん」
「うぅ……そうする……」
奏音に言われた通りに、ひまりはたこ焼きに向けてフーフーと息をふきかける。
その様子を見て奏音は小さく笑ってから、自分のホットドッグを一口囓り――。
「あづっ!? こ、このソーセージ超熱いんだけど!?」
そしてひまりと同じように熱さで悶絶した。
「奏音ちゃんも、ちゃんとフーフーしなきゃね?」
奏音は何も言い返せず、顔を赤くしながらアイスティーを飲む。
俺は笑いを押し殺しつつ蕎麦を
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