第12話 潜入

真壁兄「悪ぃ、遅くなった」


真壁「遅ぇよ」


真壁兄「今日の勉強終わったんでしょ?もうゆっくり出来んじゃん。夕飯食べながら話しよ」


真壁「終わったけどぉ、この後予定あんだよ。アニキに電話して知らせようとしたんだけど全然出ねぇんだもん」


真壁兄「そーなの?ゴメン。じゃぁ、この後話出来ないの?」


真壁「30分位なら大丈夫だよ」


真壁兄「30分じゃ足りねーよ。予定って何よ?そっちキャンセル出来ないの?」


真壁「無理!今回の研修旅行の打ち上げ会。受講者もスタッフも先生方も全員参加なの!」


西崎「あ、どーもこんにちは。先日はどーも」


真壁兄「こちらこそ、お世話さまでした。ありがとね」


西崎「明日の最終日は色々片付けとか帰りの準備とかあってお別れ会兼ねた打ち上げは今晩なんっすよ」


真壁兄「そっかぁ」


真壁「だからそれまでの時間しかないの!遅れてきたアニキが悪いんじゃん。電話も通じないし」


真壁兄「まぁまぁ、、、んでもなぁ、、あれ?もしかしてその飲み会って伊藤先生も参加する?」


真壁「だから、全員参加だって」


真壁兄「おー、じゃぁさ、俺も参加させて」


真壁「なんでよ?部外者じゃん!」


真壁兄「何とかなんね?そこでも話出来るし、それから、、、」


真壁「懇親会も兼ねてるから色んな人と交流して色々意見交換とか話したいんだよ。なかなか会えない有名な先生方もいるし、中国留学生スタッフとも話したいの。それに梁瀬社長に何て言えばいいんだよ。参加費だって、、」


西崎「梁瀬社長は大丈夫じゃない?そういう交流好きだし、参加費なんて細かいこと言わない人だし。お兄さん厚労省の人でしょ?社長もコネクション持ちたいんじゃない?」


真壁兄「あまり公にはしたくないけど、まぁ、しゃーないか」


真壁「都合いいことばっか言ってんじゃねーよ。仕事で来てることバレてもいいの?」


真壁兄「まぁ、何とでも言えるから大丈夫かなぁ、、とりあえず何とか取り次げない?」


西崎「そーですよね。偶然こっちで会ったのは本当だし。初見の人も沢山いるから違和感ないんじゃない?お兄さんの目的は俺もまだ知らないけど、、」


真壁「じゃぁ、急いで社長に話して来るからここで待ってて。もぅ時間無いのに、、西崎もアニキと待ってて」


真壁兄「よろしくぅ」


西崎「一人で大丈夫?」



梁瀬社長の出版社が主催するこの中国研修旅行は中国全土から来る神業クラスの老師達が一同に参加することも凄いが、日本国内各地から集まる名人クラスの鍼灸師やマッサージ師の先生方も錚々たるものだった。

その先生方も学生時代は梁瀬社長にお世話になった人が大半でプロになった今も梁瀬社長を慕って研修旅行に参加して研鑽を積んでいる。

何よりその先生方も滅多に会うことの出来ない中国の老師達から直接手ほどきを受けられるのだから自分の治療院を休みにしても参加する価値がある。

真壁達学生には夢のような話である。

真壁兄がマークしている伊藤先生もその一人。

伊藤美治先生は西崎達と同じ学校の卒業生で、在学中は鍼灸部の部長を勧めていたのだから西崎達とは何かと縁がある。

伊藤先生は学生時代から梁瀬社長の勉強会にも積極的に参加し、運営にも尽力したので梁瀬社長の信頼も厚く、日本での鍼灸専門学校を卒業後は中国留学しないかと声をかけてもらっていた位に見込まれていたのだが、諸般の事情で留学出来ないことを社長に告げていた。

それならば、と社長からは肩凝り・腰痛や内科など諸々の病気の治療も大切だが、まだまだ未開の精神的疾患の治療を勧められていた。誰しもが出来る治療でないからだ。しかしながら伊藤先生はその当時流行り始めていた美容鍼灸の治療をしたい旨を梁瀬社長に告げていて、梁瀬社長はやるからには何事も精一杯頑張れと激励してくれた。


真壁が梁瀬社長と会えたのは開会の10分前。とりあえず急いで社長の部屋に行ってみたが既におらず、会場の入口で来賓の出迎えに立っていたところに迷惑にも割って入って兄の飛び入り参加をお願いしてみたら、社長は来賓の応対に忙しかったのもあったが元々のおおらかな性格もあってその理由や真壁との関係など特に聞きもせずにOKしてくれた。


老師の先生方はただでさえ多忙なので既に帰っており、主賓と言えどもその関係者スタッフや数名の役人程度なので会場は立食スタイルで参加人数に多少の増減があっても支障はなかった。


真壁は急いで西崎達がいるロビーに走った。会場では既に開会の挨拶のためのマイクテストが始まっていた。

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