第11話 秘密の任務

西崎「ただいまぁ、う~、疲れたぁ。ごめぇん、今日はお土産無し。兄来た?」


真壁「疲れてんなぁ。長城楽しめたか?しかし、おまえ中国に何しに来たんだ?まぁ、いいけど。あとで写真見せろよな。兄来たぜ。面倒くせぇ」


西崎「スゲエ歩いたぜ。歩いたっていうかほぼ登山だったよ。長城は圧倒的だし景色も最高だった。クミちゃんに格好悪いとこ見せられないし汗だくで踏破した」


真壁「俺も行けば良かったなぁ」


西崎「だから、お邪魔虫だって。ところで兄は何用で?観光?」


真壁「ん~、まぁ、そーだなぁ、仕事らしいんだけど。おまえには言っておかないといけないんどけど、、」


西崎「何だよ勿体ぶって。面倒くさい話?研修もあと4日だから帰国してから聞くか。聞かなくてもいいけど」


真壁「ちょっと相談って言うかお願いあんどけど。真面目に聞けよ」


西崎「やだよ!聞かない!今日はもう疲れた」


真壁「待て待て!今日は夕飯食べた?さっきいつもの飲茶屋で夜食用に肉まん買ってきてあんだけど食べる?」


西崎「有難てぇ、今日は二人ともクタクタで夕飯食べる気力も無くてホテル帰ってきたから今になって腹減ってきた。クミちゃんも呼んでくるかな?」


真壁「待て待て!クミちゃんには悪いんだけどおまえと二人だけで話がしたいんだ」


西崎「気持ち悪ぃなぁ。とりあえず一個もらっていい?」


真壁「ほれ!食え食え!」


西崎「お!んで?何?話」


真壁「研修あと4日じゃん。そしたら帰国するじゃん?それさぁ、帰国さぁ、少し先延ばししない?ってか帰国延期してくれない?」


西崎「ゲホッ!何言ってんの?何でよ?」


真壁「だよなぁ」


西崎「何でか教えてよ。ビザとか、帰りの飛行機の変更手続きとか、ホテルとか滞在費とか、帰国してからのバイトとか学校とか、あ、学校はまだ春休みか」


真壁「飛行機の変更手続きとか費用面はアニキが全部面倒見るって。だから治療院のバイトだけ連絡して休みもらってくれればいい。学校はまだ休みだし。あ、梁瀬社長にも研修終わって皆と一緒に帰国しないことを説明しないとな」


西崎「色々大変じゃぁん。そこまでしなきゃいけない大切な用事なの?実家にも連絡しとかなきゃ。帰国したら新学期始まる前にちょっと帰省するって言ってたから」


真壁「あー、悪ぃな。じゃぁOK?」


西崎「いや、待て待て!だから何でよ?理由!」


真壁「そーでした、、、。じゃ、食いながらでいいから真面目に話聞いて」


西崎「おぅ、肉まん全部食っちゃっていい?」


真壁「どーぞどーぞ!」


西崎「んぐっ!」


真壁「あのさ、 ちょっとヤバいお手伝い」


西崎「犯罪?命狙われる?」


真壁「いやいや、そーじゃないんだけど、じゃなきゃいいんだけど、、」


西崎「何だよぉ、恐ぇなぁ」


真壁「内緒だぞ!マジで俺も知らなかったんだけど、アニキがさ、スパイみたいな仕事してんだってさ。スパイじゃないんだけど」


西崎「何だよ、どっちだよ。嘘だろ?あの兄が?」


真壁「ほらさ、オリンピックさ、前に話したじゃん。なにかちょっと変だよなって」


西崎「そーだっけ?」


真壁「もうボケたか?開催国だけどあまりにも中国が強すぎてメダル総なめってドーピングじゃないかって」


西崎「あぁ、でも公正な検査でシロってなったんでしょ?」


真壁「確かにそうだけど検査で判明しない何かヤバい裏事情があるらしくてアニキは密かにそれを調べに来てたみたい。仕事で」


西崎「じゃぁ真壁兄がやることじゃん」


真壁「まぁそーなんだけど、色々行き詰まってるらしくて、しかも今回の研修に同行してる伊藤先生も何か関係してるらしいんだ」


西崎「マジで?」


真壁「らしい」


西崎「んで、何すればいいの?」


真壁「詳細はまだ聞いてない、、とりあえず帰国延期お願いできるか確認してから改めてアニキと会って話することになってる。オマエもOKなら一緒に話聞いてね」


西崎「そ、そんな、いい加減な!」


真壁「いーだろ?頼むよ!」



帰国延期は西崎にとってはある意味ラッキーな話だった。

帰国後、帰省する予定になっていたがそれは雪国では恒例の雪囲い外し作業の手伝いを言い付けられていたからだった。


豪雪地帯では冬季間、降雪の圧で家の窓ガラスが割れたり、庭の植木が雪の重さで折れたりしないように窓や植木に囲いを組んで保護し、春になればそれを外して片付けないといけない重労働が当たり前のように毎年繰り返されている。

西崎の実家のある秋田も相当な豪雪地帯なので春彼岸のときでさえ積雪のため墓地での墓参りはできない。墓石がすっかり雪に埋もれてるくらいで、特に法要などがある場合は墓石を掘り出してお参りすることはあるけれど、通常は春のお彼岸に墓地参りはしない。

そんな地域なので温暖化の昨今でも家の雪囲いは必須で、高齢者であっても雪囲いの重労働をしなければならず、西崎も小さい頃からその手伝いは毎年恒例の行事なのだ。

高齢の両親には申し訳ないがその重労働をサボれるのはちょっと嬉しかった。


ついでに、帰国延期となれば、またまたクミちゃんと紫禁城とか兵馬俑とか観光デートが出来ると思ってニヤついたが、真壁に却下されて凹んだ。帰国延期は真壁と西崎の二人だけで内密の手伝いだから当然である。


真壁兄から明後日の夜に再度会いに来るとの連絡があったが、明後日は研修の打ち上げを兼ねた中国スタッフとのお別れ会の予定で参加者全員がホテルのレストランで大々的に会食することになっている。

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