第6話 すでに休息

真壁「凄い技のオンパレードで面白かったけど今日も一日キツかったなぁ、夜飯どうする?」


西崎「えーっと、あのさぁ、悪いんだけどぉ、今日俺、夕飯いいや」


真壁「どした?腹壊した?水合わなかったか?俺治療してやっか?」


西崎「そーじゃなくてさぁ、あれ、あれだよ。俺ちょっと出掛けてくるよ」


真壁「どこに?独りで?誰と?」


西崎「ちょっと京劇に興味あってさ、ついでに北京ダックでも食べて来ようかと…クミちゃんと…」


真壁「お、おまえ!何となくそうかなぁって思ってたけどお前ら付き合ってんの?」


西崎「まぁ、そんなとこ。だから悪いんだけど上手いことやっといて!」


真壁「しゃーねぇなぁ、俺はいいけど、クミちゃんの同室の人大丈夫かな?マズくない?バレない?」


西崎「二年生のルミさんだから大丈夫みたい。副部長の」


真壁「鍼灸クラブの副部長の?あの馬鹿真面目な?本当に大丈夫なのかねぇ?」


西崎は、入学式の際にハシャイでいた女子グループを「うるさいなぁ」と冷ややかに見ていたが、その中にいた小澤クミが気になっていた。


クミも鍼灸クラブに入っていたので夏休みの自主練習の際にダメ元でご飯デートに誘ったらトントン拍子で付き合うことに。真壁には内緒で。西崎はそのとき他にも付き合っていた娘がいて、真壁とも知り合いだったため言い出しにくかった。


京劇は西崎はあまり興味は無かったがクミが行きたいと言うので中国研修に来る前から入念に下調べしていたのであった。

加えて、夕飯は北京ダックが食べたいと言われてこちらもバッチリ調査済みであった。

ホテルにタクシーは呼ばず、ちょっと心配だったが流しているタクシーを止めて目的の京劇場に連れて行ってもらった。


西崎は海外旅行慣れしていたのでタクシーには注意すべきと警戒していたがこのタクシーの運転手さんは良心的でとても親切だったので京劇が終わる頃にまた迎えに来て貰えるようにお願いしたのだった。

ちなみに西崎の不馴れな中国語でも何とか通じた。

鍼灸の国家試験の出題科目ではなかったが、学校では中国語の授業があり中国語会話もやっていた。期末テストでも必須教科である。


はじめ、あまり興味がなかったが本番の京劇はなかなかの迫力で思わず涙ぐみそうになるほど感激した西崎であった。

ただ、劇間の休憩時間に偶然にも知り合いに会うというちょっとした驚きがあったが京劇の感動とクミとのデートに夢中でそれ程気に止めていなかった。


頭の中でまだカネやドラが鳴り響いている余韻を残し、京劇場を後にした二人は約束通り迎えに来てくれていたタクシーに乗り込み次のプランの北京ダック屋さんに向かったのだが、当初予定の店ではないところに行くことになった。

事前に北京ダック屋の名前と場所をタクシーの運転手に伝えておいたため、気を効かせた運転手が京劇を見ている間に店に連絡してくれてたようなのだが目的のお店はもう潰れて閉店していたのであった。そのため運転手が方々調べて別にお勧めのお店を紹介してくれたのだった。


自分が調べたお店が潰れていたことには不満であったが運転手に紹介されたお店が味も雰囲気もなかなか良くてデートとしては大満足。

中国では北京ダックは皮だけではなく丸ごと一羽全て食べるのが普通なので二人では食べきれず、ここでも不馴れな西崎の中国語会話で残した分はテイクアウト出来ないか聞いたら店員が快くテイクアウト用の容器を持ってきてくれた。


その後、慣れない街でのデートでは行く当てもなく、タクシーの中で軽くスキンシップだけの我慢の北京デートは程なく終了、ホテル着。

でも明日は研修の中日で勉強無しの一日だけの休日。西崎がそれを見逃すはずもなく、ちゃんと次のデートの約束を取り付けていたのであった。


少し遠くではあるが万里の長城の日帰りツアーに急遽行くことにした。

既に日を跨いでいたため今日の今日では事前予約は出来ないかので予約無しでツアーに参加可能か不可能か行ってみてからの一発勝負。まぁ仕方がない。

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