第2話 今に至る
《翌日》
真壁「どした?その顔(笑)」
西崎「だよねぇ、やっぱ気づくよね。この眉間の跡、ヒドくね?」
真壁「昨日の試験で?バイトで先に帰って申し訳なかったんだけど、何あったの?」
西崎「俺のペアって高野さんでさ、手技が結構荒くってさぁ、オジサンだし、手元が危ういなぁって思ってたら案の定さ」
真壁「あぁ、高野さんね。警察官を定年退職した後に俺らと同じように入学してきたんだからねぇ。同級生だよ。凄ぇよなぁ。んで、どうしたのよ」
西崎「で、合格のためにお互い我慢しましょって約束した訳よ、ね。お灸の出題のツボが印堂穴と合谷穴と大谿穴だったのよ。で、手元震えるのは当然として、プラステンパる訳よ。制限時間あるしさ。今回は全て知熱灸の出題条件だったから、モグサが全て燃える直前に指で押し消すでしょ?普通。でも高野さん、眉間の印堂穴に施灸したまま、大谿穴の米粒灸がなかなか立たなくて何度も落ちちゃうもんだから、その間に印堂穴のモグサが全部焼き切れちゃってこの通りのヤケドだよ。試験前に約束してっからさぁ『熱い!』とも言えないし、ジタバタ動く訳にもいかないし、泣きながら耐えたよ。5分間」
真壁「うぁ、災難だったな。それで?二人とも合格できた?」
西崎「俺は何とかね。でも高野さんは追試決定。俺のこのヤケドは無駄に終わったよ」
まぁ、なんだかんだあっても真面目にやってれば筆記試験も実技試験も合格できるはず。後日に有料の追試を受けることになっても。落第することは稀。
二人は社会人経験者なのでお金を稼ぐ大変さは身をもって分かっている。何がなんでも有料の追試は避けたい。そのための努力は欠かさない。時間があれば放課後に残って有志で勉強会を行ったりクラブ活動も行っていた。
二人とも社会人のときに貯めていたお金で入学金や学費を支払っていて、また日々の生活費も必要なので校内に貼り出されていた治療院でのバイトに勤しんでいた。
この手の東洋医学系の学校はオカルトチックな学生や色々拘りの強いマニアックな学生が多く、単純に言えば変わり者の多い学校である。
また脱サラなど社会人経験者も多く、中には高野さんのように定年退職してから第二の人生の入口として入学してくる強者も稀にいた。
しかしながら最近は高校や大学を卒業してすぐに入学してくる若い現役世代が大半を占めるようになってきていた。家業が治療院なので後継ぎとして入学する者も時折みられる。
この世界に向かないと判断して早々に退学する者もいて、最初の期末試験でその難しさに相当に面食らって夏休み開けには退学してるパターン。年齢が高いほど多く、次いで最も若い年代で数名が戦線離脱していく。
西崎と真壁も約10ヶ月前に入学してきた訳だが、地下の柔道場で行われた入学式で列席する周囲の初見のクラスメート達の若さに壁を感じていた。
初見でも若者同士すぐに打ち解け、厳かな入学式の会場でキャッキャキャッキャと騒いでいるのを冷めた目で見ていた。《こいつら真面目に学ぶ気があるのか?》と思えるようなキャピキャピの女子グループの中にちょっと気になる娘もいたのだが…
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