昨晩、私は夢を見た。
押賀よに
第1話
昨晩、私は夢を見た。
何故だと思う?あなたのことばかり考えているからよ。
私はこういう人なのだとわかった。そして、後に結婚した。本当に。隣には旦那がいる。何年か前までは赤の他人だったのに。変な感じだ。
まるで夢のようだとは、こういうことを言うのだろうと思った。でも、こういうことを思うのは止めた。
新居の窓から見た景色は、綺麗だった。真っ青な綺麗な青空だった。そして、隣にはそれに近い程の青の他人だった。それは、紛れもなく現実だった。つまり、夢ではなかった。
結婚して早一年が経っていた。いつものように夕食を摂っていた。その時、旦那はこう口にした。
「てか、俺正夢見たわ。」
「え、正夢?どんな夢見たの。」
「愛花と一緒にご飯食べとって、一緒にテレビも見とって、ほんでニコニコしとってー。」
正夢だなんて珍しい。だからこそ、見た時の衝撃は大きい。しかし、彼の正夢が良いものでよかった。衝撃が大きい割には、いたって普通の内容だった。そして、それが今まさに現実で起きている。夕食を摂っていて、私の大好きなパンの特集をテレビで見ていて一緒に笑っているところだ。一応、正夢だからと内心笑ってみる。要するに、今でもこの良き正夢のように幸せなのだ。
どうせ正夢を見るのならば、良い夢であってほしい。さもないと、生きた心地がしないだろう。私は、そう思う。
カーテンの隙間から差し込む、綺麗な一直線の光。私達は、一つのベッドで二人揃って寝ている。光は上手に私達を包み、じんわりと朝が来るのを教えてくれた。そして、それと同時に彼の「昨日、夢見た?」の一言で目が覚めた。寝ぼけてふやけた声でもこの質問をちゃんとしてくるのは、彼だけだ。
「うん、見た。なんか、気味が悪い夢だった。疲れとんのかなぁ。」
「じゃあ、嫌な目覚めだな。」
この会話はいつでもあることだ。何も寝起きだけの出来事ではない。一日の初めに二人で食卓を囲めば、普通に行われる。今日の朝食は目玉焼きを乗せたトーストにした。彼にも同じものを作った。しかし、彼のだけ目玉焼きの黄身が崩れていた。
「あー、俺の割れとる。きっとこれは夢のせいだ。愛花の夢は、目玉焼きの夢だったでしょ。」
「そんなもん、何かの拍子に割れただけだって。夢のせいにするなんて、あんたらしくないよ。つか、目玉焼きの夢じゃないし。私の夢はそんなレベルじゃなかったわ。」
私には、黄身ぐらいすぐに割ってしまう力があった。と言っても、超能力があるわけではない。どうせ、この発言は彼お得意の冗談だ。しかし、今私の目の前にはそれに纏わる過去がチラついている。だから、ついそう口に出したのだろう。私が頬をぷくっとすると、彼は子供のように笑った。
「良い夢見ろよ。」という言葉。恐らく、「じゃあね。」だとか「おやすみなさい。」の代わりだろう。一日の締めの挨拶みたいに。しかし、私にとっては本当にそうだよ、良い夢見たいわさと思う。悪い夢なんか見たくない。見たい人なんていない。万が一見てしまったとしても、夢のまま何も無かったかのように消えるものだ。
やたら夢について語りたくなるのには理由がある。過去に夢が絡んでいるからだ。そして、それは時々思い出す。現れるのは、今この状況が夢ではないと分かった時だ。例えば、今ここで彼と一緒に朝食を摂っている時、彼と結婚して幸せな時、そして堂々と生きている時。全て、夢じゃない。頬をつねるとしっかり痛い。
過去については大学生に遡る。私はごく普通の女子大生だった。しかし、それは見た目だけだった。朝起きるのが辛い。嫌な予感しかしない。そして、私の周りでは変な現象が起きる。普通の人ならば気の毒だなと思えばいい。しかし、私にはそうはいかなかった。罪悪感の塊だった。その現場に遭遇すれば、必ず昨晩の夢がいたずらのように頭を過ぎる。
「これ、昨日私が見た夢と同じだ。正夢になっとる。」
心の声は、その都度漏れる。罪悪感は、何か悪いことをした時に相手に対して抱くもの。私は悪いことをしてしまったようだ。周りの人を操っていないと思いたくても、思えなくて。
そんな夢は、大学の入学式と共に始まった。
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