第13話 水をためるために存在するもの

「くらいな!モーア!」


ゲオルクは魔法を叫びながらルーンを書いた。次の瞬間練習場一帯が沼地と化した。


「ついでにこれもプレゼントだ!グラビテーション!」


「重力増加か……。桃!大丈夫か!」


「はい!私は!それよりもあの男を……。」


「わかった!」


桃はまだ余裕そうだが重力によって早く沈んでしまう可能性がある。STARSの呪文ともなれば1年生のような敵のスピードを遅らせるための沼地ではなくしとめるための底なし沼である可能性が高いと踏んだ。俺一人はどうにかなるかもしれないが桃を守りながらとなれば話は変わってくる。


「なら……その前にたたく!フォールンエンジェル!」


重力の影響もあって長くは飛べないがゲオルクにたどり着くまでは十分だ。俺は羽を毟って剣の形状に変えるとゲオルクのほうへ一直線に飛んでいった


「飛べたら勝てるとでも思ったのか?俺の名前をちゃんと理解してない証拠だな!ウォータータンク!」


沼地の泥が一つのところに収縮していった。周りがいつもの練習場に変わった、中央に集められた泥の結晶が出来たということを除けばだが。


「名前だと?」


「理解できないならそのまま果てな……エクスプロージョン!」


固まっていた泥が爆音とともに飛び散った。泥は四方八方に飛び散り千本のような形状となって周りの壁や俺に飛んできた。


「まずい!桃!」


一目散に桃の場所へと向かった俺に鋭くなった泥は襲い掛かってきた。とてつもない痛みとともに泥が体を貫いたのが分かった。


「お兄様!お兄様!しっかりしてください!リカバー!リカバー!………」


どうやら桃は無傷だったが俺の体はだいぶ重傷を負ってしまったらしく意識が途切れそうになっていた。桃がひたすらに回復呪文を唱えてはくれているが俺の傷ではこのまま唱え続けても無理であろう。


「まだもろいな。お前が本気を出したら俺も危なかったかもしれないがやはり貴様は兄妹を見捨てることが出来なかったようだな。」


あぁ……桃を守ることはできたのだろうか……


俺の視界は徐々にぼやけていき、桃の声が遠くなるのが分かった。俺の記憶はそこで途切れた。


***************************


「お兄様!どうか死なないでください……。お願いですから……。」


私をかばったばかりにお兄様が死んでしまう。私とお兄様が一緒に行動をしてしまったからだ……。私をかばわなければお兄様は今頃はきっとこんな奴に負けることはなかったのだろう。


ドアがバン!と大きな音を立てて開かれた。


「ゲオルク……貴様うちの生徒に手を出したな。」


「藤堂か、何をしに来た?」


「大切な後輩を守りに来ただけだ。」


「ふーん、じゃあ私はこの妹にとどめを刺して退散させてもらいますよ。」


「その娘にも手を出すな。」


「お前……自分で言っていることが分かってるのか?こいつらを生かしておけば戦争の火種となるかもしれないんだぞ?」


「守ると言ったら守る、俺は自分の意志を曲げてきたことは一度としてない。それに……俺とお前では相性が悪いのではないか?」


「それもそうだな……なら戦争でまた会おうな……。」


ゲオルクは少し顔を寂しそうにしながら去っていった。


「委員長!お兄様が!」


「わかっている。ゾディアックヒール!」


藤堂さんが魔法を唱え、文字を書くとあたり一帯が明るくなり、お兄様の傷がみるみる言えていくのが分かった。


「これでもう大丈夫だ、とは言っても1日ほど安静にしなければならないがな。」


「ありがとうございます!本当にありがとうございました!」


「どうってことない。それよりも目が覚めたら明日の試合は棄権するように伝えてくれ。」


「き……棄権ですか?わ、わかりました……。」


お兄様は……竜之介さんとの試合が残ってるが、この傷では……きっと……。


「では俺は戻るがお前も気をつけろ、こいつが狙われるということは自然と兄弟であるお前のその姉も狙われることになるということだ。」


「はい……。」


私はお兄様に守られてばかりではなく一人の勇者として強くなることを目指すのだった。

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