第2話 兄妹、姉弟、姉妹

「失礼します。」


俺たち3人が一礼をすると委員長がこちらに手招きをして呼んだ。


「来週は新入生歓迎会だ。生徒会も当然ながら手伝ってくれるが、あちらは現場仕事で忙しい故俺たちが見回り等をする。お前らにもそれを頼もうと思ってな。」


「わかりました。」


「ではこちらで違反行為などをまとめておいてある資料を渡す。」


配られた資料にはほとんど普通のことしか書いてなかった。先輩の飲酒強要や校内での魔法使用についてなどだ。


「ん?」


一つだけ気になるものを見つけた。


「委員長、少しいいですか?このクラス差別というのは……。」


「これか。これは勇者科や魔王科の者が外交科に対して場所を譲るように強く迫ることがあるんだ。暴力に発展することもあってな……。」


「いわゆるいじめ……ですか……。」


あまり気分がいいものではない。学校で生活があるということはこのようなことがあることは少し覚悟していたが、クラスぐるみでだとは……。


「あぁ、だからそれを取り締まらなくてはな。」


「はい。」


「大丈夫よ!けいちゃんは私が守るから!」


「姉さんに守られなくてもお兄様は強いです!」


「お前たち二人は随分と慧のことが好きみたいだな、ハハハ。」


「「当然です!」」


「兄弟の仲がよろしいことは良いことこの上ないからな。」


「兄妹……」「姉弟……」


俺たちは兄弟なのである。兄弟であってそれ以上でもそれ以下でもないのだ。


「新入生歓迎会のほかにも何か行事等あるんですか?」


「およそ1か月後に魔法祭がある。」


「魔法祭……。」


「あぁ、中等教育で言うところの体育祭のようなものだな。」


「体育祭とは何が違うんですか?」


「当然生徒同士の1対1の対決もある。体育祭のように体を動かす場面もあれば魔法による知略や教養も必要とされるな。」


「なるほど……ありがとうございます。」


「これで質問は終わりか?」


「はい。」


「わかった、ではこれから見回りのシフトや場所を決めていく。」


「二人一組になって行動をしてもらう。場所は~」


***********************


「以上だ。異論はないな?」


「「はい!」」


俺は姉さんと組むことになった。桃がかなり不機嫌になったが大丈夫だろうか……。


「よろしく、姉さん。」


「よろしくね、けいちゃん。」


俺たちの見回り場所は中庭及び特別棟だ。特別棟で何の部活が活動しているのだろうか?


「それじゃあ本日はこれで解散とする。」


「「お疲れさまでした。」」


その後俺は静かに立ち上がりその場を後にした。


「お前はこれからどうするんだ?」


「と、言いますと?」


「周りに姉と妹の存在、バレていただろ。」


「見ていたんですか……。」


「あれだけ大きな声が響けば駆けつけるさ。」


「ってことは見てないじゃないですか、カマかけたんですね。たちが悪いですよ。」


「まぁまぁ、でもこれでお前が静かに学園生活を送れるかのせいは0%になったわけだが。」


「0%でも何でもいいですよ。二人さえ守ることが出来れば。」


「へぇ、兄貴も随分とシスコンときたもんだ。」


「話はそれだけですか?失礼します。」


「あぁ!ちょっと待て、お前のこと、どこかからか知らないが漏れてるぞ。」


「わかっています、自分のことは自分で塞いでおきますよ。」


俺は暗くなり始めた街に向かい始めた。


****************************


「随分と遅いお帰りでしたね。」


夕飯を作っていた桃が玄関まで迎えに来てくれた。


「あぁ、少しな。」


「また修行?」


風呂上がりの姉さんが俺に聞いてきた。


「いや、そういうわけではない。」


「へぇ~、まぁどうせ私たちには教えてくれないんでしょ?」


「あぁ。」


「お兄様のけち。」


「悪いな、今度一緒に出掛けるからさ。」


「本当ですか!?」


桃が目を光らせて言う。


「あぁ、約束だ。」


「私には~?」


「わかってるって。」


「ありがと!」


俺は二人と一緒に夕ご飯を食べた後修行をしに向かった。


*******************************


「予約していた龍虎ですけど……。」


「龍虎様ですね、こちらになっております。」


俺はいつも魔法練習場は貸し切りにしている。周りに魔王系統と勇者系統が使えるということがあまりバレたくないからだ。


「よぉ、来たか。」


「いつもありがとうございます。」


いつも俺に練習場を貸し切りにさせてもらってる林道さんだ。この練習場は監視カメラがついているが、林道さんが実際に見る代わりに監視カメラのスイッチを切ってもらっている。


「いいってことよ、今日はどっちの練習するんだ?」


「いえ、今日は両方とも調整をしに。」


「両方使って大丈夫なのか?」


「一度に両方でなければ大丈夫なので。」


俺の魔術には欠点がある、普通の人間は勇者か魔王系統のみを発現する。理由は魔王系統には魔王系統の魔力、勇者系統には勇者系統の魔力が備え付けられるからだ。しかし俺のような特異体質の場合、両方の魔法が使える。ということは両方の魔力を持っているということだ。すると魔王系統と勇者系統では当然ながら反発してしまう。だから俺は生まれた時からこの痛みに体を慣らした。そして両方の呪文が出ないよう調節しながら戦っているわけだ。


「何年この魔力と向き合ってきたと思っているんですか。15年間ひたすらですよ。」


「それもそうだな。」


勇者系統の魔力のみを抽出するイメージだ。1滴でも魔王系統の魔力が混ざってはならない。


「いい調子だ……。」


ただひたすらに勇者系統だけをゆっくりゆっくり練り続けること30分。


「出来た……!!」


「次は魔王系統か?」


「いえ、勇者系統さえ全て練れれば他の魔力は適当に練っても自然と魔王系統になりますので。」


「そうかそれにしてもまた腕上げたのか。30分で体内の魔力を丁寧に仕分けつつ半分練り上げるってとんでもねえぞ。」


確かに半分を練るにはかなり早い。普通の人なら片方の魔力だけでおよそ30分はかかるだろう。


「30分か……目標は一瞬ですけどね。」


「ハハハ!そりゃとんでもねえな!お前さんは何を目指してるんだ?」


「兄弟の安全ですね。」


「そうかい、いい兄ちゃんじゃねえか!頑張れよ!」


「はい!ではおやすみなさい。」


「おやすみ!」


俺は魔法練習場を後にした。

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