早く帰ってくるようにしますね

セバスはカードキーをドアへピッとかざしてロックを解除し、ドアを開けた。

「ドアを開けたらツアレ、もし良ければ中の様子を見てきて下さいませんか?」

部屋のドアを押さえて、ツアレを迎える。


「は、はい。承知しました。あ、す、すいません・・・お先に失礼します・・・」

自分は二番目に部屋に入ると思っていたので、恐縮しながらツアレは部屋に入った。


スイートルームの部屋に入ると、ツアレの目の前には落ち着いている雰囲気だが、どこか煌びやかさを感じさせるソファーやテーブル、装飾棚などがあった。


そして奥の部屋には、寝室が二部屋あり、それぞれにベッドなど一式揃っていた。

(ほっ・・・同じ部屋だけど、別々の部屋があるのね・・・良かった・・・)


ツアレは同じ部屋で、一つの同じベッドで寝る事になったらどうしようと、実は心配をしていたのでかなり安心した。

どれだけ好きな男性でも、まだ誰かと同じベッドで寝る事には、かなりの抵抗が残っていたからだ。

(誰かと一緒だと昔を思い出そうで怖い・・・・)



荷物をベッドの近くにとりあえず置いたツアレは、ドア付近にいたセバスに話しかけた。


「セバス様、部屋の確認を致しました。この部屋は浴室が一つ、寝室が二つ、リビングが一つの、計四つの部屋で形成されていることが判明しました」

ツアレは緊張の為か、かなり硬い雰囲気の報告になってしまった。


「ツアレ、報告ありがとうございます。でもそんなに硬くならなくて大丈夫ですよ。次回は楽しい報告を楽しみにしていますね」

セバスはそう言うとニコッと笑顔になり、ツアレの頭をポンっと触った。


「か、かしこまりゅますた!」

ツアレは頭をポンとされたことにドキッとしてしまって、言葉を噛んでしまった。

(で、でもセバス様と一緒なら・・・同じベッドで寝るしかなくても怖くなかったかも?)






_________その後、寝室が二つあるので寝る部屋を決めることにした。

「ツアレ、どちらか眠りたい部屋はありますか?」

(私はあまり睡眠が必要ではないので、ツアレに選んでもらいましょう)


「私は、ええっと・・・どちらでも構いませんが、セバス様はご希望はございますか?」

ツアレは何か希望がある素振りを見せたが、セバスに尋ねた。


「私こそ、あまり睡眠を必要としない種族の為、睡眠が大事なツアレに選んでもらいたいのです」


「そ、そうなのですか・・・ええっと、では、私は右側の部屋を使わせて頂きます」

(セバス様ってあまり眠らなくても大丈夫なんだ・・・初めて知った・・)


ツアレが右側の部屋を選んだには、もちろん理由があった。


それは・・・・

「夜景が良く見えるため」だった。


左右どちらの寝室も変わりなく素敵な部屋だが、唯一違ったのは夜景が良く見えるという事だった。

左側の部屋も夜景が見えるのだが、山の方がよく見える。








_______「さて、私もそろそろ約束の時間が迫ってきたので、一階の売店でツアレの夕飯でも買いに行きませんか?」

セバスは留守番させるツアレが困らないように、何か食べ物やら飲料を揃えておきたかった。


「そうですね。この後セバス様の帰宅をお待ちするにしても、夕飯は食べないとお腹が空いちゃいますね!」

(一階に行ったら、セバス様に頼んであの機械で飲み物を買うんだ~♪)

その話を聞いて、ツアレは先ほどのドキドキからワクワクにいつしか心境が変化していた。



広いスイートルームを出て、エレベーターホールへ向かいエレベーターに乗る二人。

「わあ~もう外は暗いですね~さっきまではよく景色が見えていたのに」

ツアレは下りのエレベーターでも、ガラス窓から見える景色に夢中だった。


「外は暗いから、夜景が良く見えますね。でもツアレ、危ないので留守番中は部屋で待っていてくださいね」

セバスは好奇心旺盛なツアレが、きれいな夜景に釣られて部屋から飛び出してしまうのではないかと心配の様子だった。


「ご心配無用ですよ、セバス様。私は忠犬の様に静かに部屋で待っています。安心して下さい」

ガラス窓から景色を見ていたツアレが振り返り話した。

「そうですね。ツアレを信頼していますよ。私も出来るだけ早く帰ってこられるように致します」

セバスはそう言った。




______________ツアレとセバスが乗ったエレベーターが、ポーンとメロディが目的の階に到着したことを伝える。


「一階に着きました。売店では何が食べたいですか?ツアレ?」

セバスは売店に向かって歩きながら、先に早足で売店に向かっていくツアレに話しかける。


「ええっと、そうですね・・・まだ食べた事のない物が食べたいです!」

早足で歩くツアレはセバスに向かって振り向き、満面の笑顔で答える。


「では、ツアレが食べたいな~と思ったものを買いましょうか」

セバスは優しいまなざしで微笑みながら言った。


「ありがとうございます。セバス様」

(やった〜〜〜〜!!色々食べるぞ〜!!セバス様ありがとう〜〜!!)


ツアレは静かな態度でセバスにお礼を言ったが、内心はテンションが上がって上がって、叫びたいぐらい嬉しい気持ちでいっぱいだった。



その後も、セバスとツアレの和やかで楽しい会話が続く。






___________ツアレは食べてみたい物が沢山あるらしく、セバスに何度も質問をした。

「セバス様!これは何でしょうか?」

「これは機械で温めるタイプのスープですね」


「セバス様〜!これ!これは何でしょうか?」

「これはハンバーグと野菜、ご飯を一皿で食べられるセット商品みたいですね」



「セバス様!あの機械は湯気が出てますが、何をしているのでしょうか?」

「おや、私も初めて見る機械です。恐らく野菜や肉などを温めた状態で食べられるみたいですね。商品名を見ると、「オーデン」という食べ物らしいですね」



ツアレはワクワクが止まらなくて、セバスを困らせるぐらい質問をした。

終いにはセバスに聞かないで、自分で商品を見ながらブツブツ話すほどだった。


「これは・・チャンポーって言う麺料理で、野菜がたっぷり入ってるけど・・・お肉も食べたいから、ヤキ・トーリンも気になるし・・・

いや・・こっちは初めて見るし・・・ニークマンも食べてみたいし・・・うーん悩む~~~!」



そして、ツアレがあれにしようかな?これにしようかな?と悩んでいる間、セバスは特に急かすこともなく、優しく見守っていた。

(ツアレにこんなにも喜んで頂けるなんて、連れてきた甲斐がありますね。あのホテルを予約した男にとりあえず感謝ですね・・・まあ信用できるかどうか分からない男でしたが・・・)



悩みに悩み、ツアレはやっと買うものを決めた。

「セバス様!こちらの商品でお願いします!」

ツアレはカゴにいくつかの食べ物を入れて、セバスに会計をお願いをした。


「ツアレ、これだけで大丈夫ですか?もっと買っても良いのですよ?」

セバスは山盛りに買うと思っていたので、ツアレを心配した。


「お留守番と言っても、今晩だけですから。大丈夫です!」

ツアレはセバスに笑顔を見せて答えた。


「かしこまりました。ではツアレ、会計してきますね」


そしてセバスは会計中、ナザリックの事を思い浮かべた。

(シャルティア様やソリュシャンは、毎回買い物と言えば、カゴに山盛りに・・・いや、店を買う程購入されるので、てっきり女性は山盛りに買う事が当たり前かと思ってましたが・・・ツアレなど人間の女性は、このぐらいが普通なのでしょうか?まだまだ人間に対する勉強が足りませんね・・・)





セバスは会計を終えると、ツアレがもじもじしている様子が気になった。

「ツアレ?どうしました?買い忘れでもありましたか?」


恥ずかしそうにツアレは話し始めた。

「あの・・・セバス様・・お願いがあるのですが、売店の入り口にある機械で、飲み物を・・・その・・購入してみたいのですが、お許し頂けますでしょうか?」


買い忘れや困った事態が起きたのかと思ったセバスは、話を聞いて何だそんな事か〜とホッとして、喜んで承諾をした。

「もちろん良いですよ、ツアレ。買いましょう。何が飲みたいのでしょうか?」


セバスの承諾を得られたツアレはとても喜んだ。ツアレが犬だったら尻尾をブンブン振っているに違いなかっただろう。



自販機の前に二人は立ち、買うものをどれにするか選ぶ。

「わ、私はですね・・・この赤いデザインの飲み物を飲んでみたいです!えっと・・・何味かは分かりませんが、先ほど購入された方が美味しそうに飲んでいたので・・・よろしいでしょうか?」

セバスの承諾を得られたのにも関わらず、ツアレは申し訳なさそうにしていた。

(売店でも買って頂いたのに、ここでもだなんて・・・贅沢かしら・・・?)


「もちろん、ツアレの飲みたいものを買いましょう」

セバスはそう言って、商品のボタンを押した。


ボタンを押すと、ガタン!と大きな音がして商品の飲み物が出てきた。

そしてセバスが商品取り出し口から取り出すと、ツアレに渡した。

(商品を見た感じ怪しい薬が使われていたり、アルコールは入ってなさそうですね・・・これならツアレが飲んでも大丈夫でしょう・・・)


飲み物を受け取ったツアレは、また犬のように嬉しくて尻尾を振っているんじゃないかと思うぐらい無邪気に喜んだ。

「セバス様、ありがとうございます~~~~~~!!!これがあの機械から出てきた飲み物なんですね・・・早く飲みたいですっ!」






___________そして売店からの帰り道、ツアレは来た時には気にならなかった、小さな謎の機械が通路の先にぽつんとあるのが気になった。


セバスとツアレがエレベーターの到着を待っている時に、ツアレはその機械を遠くから観察していると、

とある中年男性が近くの通路から現れて、その機械にお金を入れて何かカードのようなものを購入していた。


(あのカードって何かしら・・・?気になる・・・何に使うんだろう?)




ツアレがその機械とカードに気を取られていると、エレベーターが到着したようでセバスに呼ばれた。


「ツアレ、エレベーターが到着しましたよ」

「はい!分かりました。セバス様」



セバスについて行き、エレベーター乗ったツアレ。

あのカードは何に使うんだろう・・・ということが気になってしまい、ツアレは帰りのエレベーターでは夜景を見る事に集中出来なかった。




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