おばあさんの過去
_____おばあさんの幸せな話を聞いているはずなのに、部屋の雰囲気は重く、暗かった。
しかし、そんな雰囲気をセバスは破るように擁護し始めた。
「はて?今までの話を聞くと、あなたには何も失敗はないようですが、何かあったのでしょうか?差し支えなければ教えていただけませんか?」
セバスは、さっきまで殺すかもしれないと思っていた相手に、まるで親友のように話しかけた。
おばあさんがもじもじしながら話し出す。
「服が売れ始めるとそれを模倣した服を売り出す人や、私の名を騙って服を売る詐欺をする人が出てきました。
そして、その行為自体を知らないお客様は、不良品を売りつけるとは何事か!!と私に対して脅迫や暴言を浴びせるようになりました。どう頑張っても安い偽物が目立ってしまって・・・
私は、自分が作った服のせいで沢山の人を傷つけてしまったんだと落ち込むようになり、売ることをやめました」
そして、ぽろぽろと涙を流し、おいおいと泣き始める。
「・・・すみません、勝手に話し始めて、勝手に泣いて・・・」
「いえ、気にしないでください。悲しいときは泣いた方がスッキリしますよ。」
セバスは白いハンカチをおばあさんに渡す。
「ハンカチ・・すみません・・・商人さんからは、こちらで全てのクレームは対応するから辞めなくても良いんだぞ。悪いのは奴らなんだから・・と言って頂いたのですが心がもたなくて・・」
セバスから渡されたハンカチで涙をぬぐう。
「それは大変だったのですね・・・もうこれ以上話すのが辛いようなら、私は席を離れますが・・」
おばあさんが涙を拭き終わると一転、前向きな雰囲気で姿勢を正す。
「前置きが長くなりましたね・・・実は魔法掛けているのは家全体で、人間除けの魔法を掛けているんです。」
「なるほど。でもあなたも人間だと、この家で暮らし辛いのではありませんか?」
「それは、大丈夫です。先ほど話した服・・人間除け魔法の無効化服を作って着用し、更に自分で魔法の強さを加減しているので・・・」
この話は恥ずかしいらしく、後頭部をさわさわと触り照れ隠しをしていた。
「それはすごいですね。本当にあなたは賢い人だと思います」
人間にしては本当に賢いなと思って、セバスは褒めた。
(着用するだけで魔法の効果が本当にあるなら、自ら魔法が唱えられない下位のアンデッドに使いたいですね・・・)
「・・・ありがとうございます。そう仰って頂けると元気が出ます」
にっこりとおばあさんは微笑んだ。
元気が出たおばあさんは、再び明るく話し始めた。
「さて旦那様、実はあと二個も隠し事をしていました。なんでしょう~!」
「何でしょうか・・・見当もつきませんね・・・教えていただけますか?」
(たぶん、本当はおばあさんではないのでしょうが・・もう一つは思い浮かびませんね・・)
目をキラキラさせて、おばあさんは背筋を伸ばし、両手を上に広げた。
「はい!実は私は、おばあさんではなくて・・・少女でした!そして、地下には巨大な洋服の工場があります!!一階建てじゃありませんでした~!」
粗末な服を着て腰の曲がったおばあさんが、顔の前で手をかざすと先程まで艶のない灰色だった髪が艶のある薄桃色になり、シミやしわだらけだった顔がハリのある白肌に変わり、プレアデスにも負けないような、可憐な美少女の顔に変わる。
また、服装はメイド服のような可愛らしいフリル付きののワンピースに変わった。
「旦那様、色々と騙してすみませんでした。人間に話しかけられたくないので、街に行く際は、おばあさんに変身してから出かけているのです・・・」
おばあさん(美少女)は深くお辞儀をした。
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