ゲーム説明

 

 ゲームバー……ゲーマーズ・スタジオはとても狭い。

 席は五席。広さは十畳あるかないかの広さの上に、バックバーとバーカウンターが場所を占めているために狭さに拍車をかけていた。

 三人くらいならまだ広さに余裕があるとしても、満席になったら人口密度が高くなり、息苦しく感じてしまうほどだ。エアコンがフル稼働していて暑苦しさはそこまで感じないのが、幸運だった。


「じゃあ、今からゴキブリポーカーをはじめまーす。各自あいさつ!」


 狭いゲーマーズ・スタジオの中、バーカウンターから左にあるテーブルでマオが宣言しする。

 僕は壁側に座り、逃げ場をなくすようにヨレヨレのワイシャツを着たおっさん。そして紫色に染め上げたストレートヘアーの女性が座っている。そして対面にはマオがいた。


「よろしくお願いしまーす」

「じゃあ、これから始めるのはゴキブリポーカーです。説明は私、マオがしますね」


 みんな頷いたあたりで、マオは不思議そうな顔をした。


「あれ、ライダーさんと、しゃちょーさんはゴキブリポーカー初めてでしたっけ?」

「私は初めてです」


 ライダーと呼ばれた女性は、紫色の毛先を少しいじりながら答え……。


「俺は三回ですかね。マオさんがいない時にレイさんと、ゲストにコテンパンにされてます」

「あははー、しゃちょーさん顔に出ますからねぇ」

「いやはや恥ずかしい……」

「……」


 しゃちょーさんと呼ばれている男性は照れ隠しのように後頭部に手を当てた。


「じゃあタケル先輩にもわかるように説明しますね」

「おい、まるで僕がバカだと言ってるようじゃないか」

「プププ、ボードゲーム初心者は赤子のようなもんですよ。ライダーさんは初めてですけどこれでもゲーマーズ・スタジオの常連さんなんですから」


 確かに僕がこのゲームバーに来ている目的はマオが経営しているバーだからであって、ボードゲームをやりに来ているわけじゃない……だけど、それなりにゲームに精通しているつもりだった。


「まぁ、まぁ、マオさん。そこまでいうと不愉快ってものですよ?」


 ライダーがマオの発言に苦言を呈した。


「ライダーさんがいうなら仕方ありませんね。じゃあ、ゴブリンでもわかるようにお教えしますねぇー」

「おい」


 マオは無視をした。


「このゲームを簡単に言うと、手持ちのカードを相手に押し付けるゲームです」

「押し付ける?」

「まぁ、そこはおいおい。ではカードですけど、全部八種、そして八枚ずつカードがあります。八種類の動物や害虫……ゴキブリ、ネズミ、コウモリ、ハエ、カエル、クモ、サソリ、カメムシが描かれています」


 そういって、マオは山になったカードから八種類のカード、ゴギブリ、ネズミ、コウモリ、ハエ、カエル、クモ、サソリ、カメムシを取り出した。


「勝敗条件は同じ種類のカードを四枚並べること、または八種類のカードを一枚ずつ揃えることでそのプレイヤーは負けます」

「カメムシ四匹も揃ったらくさそうですよね……」

「カメムシってパクチーみたいな匂いしますよね。インド人ってカメムシ食べれるんですかね?」


 ……いや、マオさんや。それ言っていいんですかね? インド人の人に喧嘩売ってない?

 インド人がパクチー好きだからカメムシを食べれるっていう理屈はあまりにも変だと思うんですけど。


「押し付け方は自分の手札から一枚取り出し、カードを伏せます。そして相手に渡しながら生き物の名前をいいます。なので、まずはタケル先輩にカードを渡します……『これはネズミです』」


 マオは僕の前にカードを伏せた状態で置いた。


「このとき、タケル先輩は見る権利が発生します。ネズミかどうか確認をした後、他人に押し付けることができます。いわばパスみたいなものです」

「……なるほど」


 そう言って僕はマオから渡されたカードをちらりと見た。そのカードはゴキブリが描かれていた。


「そして、他人にカードを押し付ける時はまた伏せた状態で送ることができます。その時、宣言を変えても構いません。私がネズミと言いましたが、タケル先輩はカメムシでもサソリでも変更して構いません。あと『否定』の意味で出しても構いません」

「否定?」

「簡単に言うと、私が『ネズミです』と言った反対で言ってもいいんですよ。『ネズミではありません』みたいな?」

「ふむ。じゃあ……」


 僕は紫色のストレートヘアーの女性の目の前に伏せたカードを置いた。


「ゴギブリです」

「先輩、私という存在がいながらライダーさんに送りつけるとかなんていう人ですか! 酷くないですか!?」

「お前が送りつけてきたやつを返せって無理じゃないか? てか、私という存在がいながらって僕はお前のなんなんだよ」

「……先輩?」


 しばらく黙ったあと、マオは少しだけ恥ずかしそうな顔をして呟いた。なんなんだよ。


「なるほど……じゃあ、受け取らない方法ってあるのですか?」


 そして、ライダーと呼ばれた女性は特に反応せずにマオに尋ねる。


「もう一つの手段として、ゴギブリじゃないと思った人はこれはゴキブリではない。と宣言することです。いまタケル先輩が渡したカードをめくって開示することができます」

「じゃあ……『これはゴキブリではありません』」


 そう言って女性はカードをめくる。

 そこに描かれていたのはゴキブリだった。


「宣言通りではない場合、宣言した人がそのカードを受け取ることになります。そして宣言通りだった場合、渡した人がそのカードを受け取ることになります」

「押し付け方のダウトみたいな感じか……」

「その通りです。さすがですね。先輩」

「先輩じゃないだろ。マオさん」

「マオさんという間はタケル先輩っていいますね」


 なんで、マオさんじゃダメなんだ。


「じゃあ、一通り説明終わったので始めますか」

「わかりました。あ、タケルさん。私ライダーといいます。よろしくお願いします」

「あ、どうも……」

「じゃあ、俺も……しゃちょーです。よろしく」

「よろしくお願いします」


 一通りの自己紹介が終わった頃には、マオは山札を切り終わっていた。


「じゃあ、自己紹介も、説明も終わりましたし、楽しいゲームを始めましょう!」


 そう言って、彼女は四つにカードを切り分けた。

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