たとえ明日が来なくても

七瀬さつき

プロローグ

 僕の元に届いた一通の手紙は、読んですぐ燃やしてしまった。


 手紙が燃えて行く様を眺めながら、ただぼんやりと、こんな風に気持ちを消せたら楽なのに、とそんなことばかり考えていた。


 ゆらゆらと立ち上っていく煙に、想いを混ぜることかできたなら、彼女に何か伝えられただろうか? 


 でもそんなことは、ただの叶わない願いでしかない。 


 僕にそんなことを望む権利はもうないのだから。


 手紙に書かれた言葉は、全部僕を許すと言う。いつまででも待っていると言うのだ。でもそれじゃあ、だめなんだ。僕はもう、君の元に帰るわけには行かないんだから。 


 なぜ君は僕を許すだなんて言ったのだろう? 僕自身が僕を許せないのに。



 君の優しさはいつだって残酷で僕を苦しめる。

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