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 その日の部活終わりに、鞠は透と一緒に、二人で三津坂西中学校から下校をした。

「中学校を卒業したら、私たち、遠距離恋愛になっちゃうね」

 なんとなく今まで触れないでいたことを、鞠は言った。

「そうですね」

 透は言う。

「でも、電話しますよ。それに手紙も書きます」

「うん」

 鞠は言う。

「なるべく先輩の音楽の勉強の邪魔をしたくないから、自分も音楽とか、学問とか、頑張りながら、ほどほどに連絡しますよ」

 最近、よく笑うようになった透が、鞠を見てそう言った。

「うーん、……うん」

 となんだか微妙な表情をして鞠は言った。

 鞠は音楽の道に進むと決めたのだから(それはプロを目指すということだ)、恋愛はなるべくほどほどにして、この先の人生の長い時間を、できるだけ音楽に集中しようと思っていた。

 その鞠の思いに透は理解を示してくれている。

 だけど、やっぱりそう簡単に気持ちを切り替えることは難しい。


 恋愛と夢の実現。

 両方を選択した私の決断は間違っていたのだろうか? と鞠は思う。でも、次の瞬間、「先輩。頑張ってください」と笑顔でそう自分に言ってくれる透の顔を見て、ああ、そうだ。私は吉木くんに支えられて、なんとかぎりぎり、今の場所に止まっていることが、できるようになったのだ、とそんなことを思い出して、今の自分の考えを頭の中から振り払った。

 ようは私は今も、吉木くんに甘えているだけなのだ。

「夏休みとか、お正月にはこの街に帰ってくるから、そしたらまた、そのときに会おうね」

 にっこりと笑って鞠は言う。

 それは鞠の強がりの笑顔だったのだけど、その鞠の思いを透は理解してくれているようで、「わかりました。約束します」と言って、その提案に納得をしてくれた。

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