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 まるで本当に、昨日の告白なんて、もしかしたら鞠が昨日の夜に見た恥ずかしい夢のように(……透にそっくりの王子様が鞠を迎えに来てくれる夢だ)、本当に空想の出来事であり、実際にはなかったことのようにすら、このとき鞠には思えていた。

 そう思えるくらいに、そこにはいつもの、日常の音楽室の風景があった。

「別にいいよ。でも、いつも真面目な三雲さんがピアノに集中できないなんて、珍しいな、とちょっとだけ思ってさ」と優しい顔でにっこりと笑いながら、並木先生がそう言った。

「ごめんなさい。次はもっと集中します」鞠は言った。

「よろしく」

 並木先生は言う。


 ……一呼吸の間。


 その言葉通りに、それから鞠は無心になって、本当に『ピアノを奏でることだけ』に、すごく集中した。すると、世界は急に無音になった。あれ? と鞠は思う。いつもとは違う感覚がそこにはあった。でも、鞠はそのままピアノの演奏を続けた。すると、急に鞠の演奏する『ピアノの音が、弾けた』。

 その音に数名の音楽部員と、それから並木先生が小さく反応する。

 鞠は自分の奏でる音に驚いていた。

 理由はよくわからないけど、なんだかいつも以上に、本当にピアノの音だけに神経を集中することができた。鞠は久しぶりにずっと探していた自分の音を(あるいは今まで以上の音を)取り戻すことに、いつの間にか無意識で成功した。

 その日の演奏は、鞠の人生の中でも、かなり上位の(あるいはもしかしたら最高かもしれないと言うくらいに)、とても良い演奏をすることができた。鞠の演奏が終わると、みんな鞠の演奏の素晴らしさに自然と拍手をしてくれた。

「……うん。いいね」

 その、鞠の演奏の途中で、珍しく並木先生がそう言った。

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