三雲 薄明かりの中で

雨世界

1 大好きな人ができました。

 三雲 薄明かりの中で

 

 登場人物


 三雲鞠 中学三年生 十五歳


 吉木透 中学二年生 十四歳


 小舟南 中学三年生 十五歳 


 大橋綾 中学三年生 十五歳


 プロローグ


 私はずっと、曇り空の中にいる。


 本編


 大好きな人ができました。


 音楽室の窓の外では雨が降っていた。

 三雲鞠はおんぼろな校舎には似合わない立派な黒いグランドピアノの椅子に座りながら、耳をすませて、そんな雨の降る音を聞いていた。

 鞠は、雨の降る音が好きだった。

 それはまるで、世界を包み込むような、そんな鞠の大好きなピアノの音のように、姿の見えない誰かが演奏する遠い世界の音楽のように思えた。

 静寂。雨の音。それ以外の音は、無音。

 すごく、贅沢な時間だ。

 少し沈黙。

 それから鞠は、目を開いて、ピアノの鍵盤をゆっくりと指で押して、演奏を始めた。

 課題曲。

 題名は『鳥のように自由に』。

 それほど難しい曲ではない。……はずなのだけど、どうしてもうまく弾くことができないでいた。

 今も、あまりうまく演奏することができていない。

 ……その原因は、間違いなく鞠本人の中にあった。

 演奏に迷いがある。

 それはつまり、鞠の心に迷いがあるのだ。


 十分の曲を終えて、鞠は手を止める。

 すると、ぱちぱちぱち、とどこからか拍手をする音が聞こえた。

 その音に、鞠は驚く。

 見ると、いつの間にか音楽室には一人の学生服を着た少年の姿があった。鞠はその少年の存在に(演奏の途中で、ひっそりと音楽室に入ってきたのだろう)全然、気がつくことができなかった。

「綺麗な音ですね」

 その少年が言った。

 それは嫌味ではない。本当の少年の鞠の演奏する曲を聴いた感想だった。

「……ありがとう」

 鞠は言った。

 それから鞠はその少年の姿をじっと見つめた。

 その少年は子供っぽい表情をして、にっこりと笑うと、それからゆっくりと鞠のいるグランドピアノの隣の場所まで移動した。

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