第3話 震える

 生前のお袋は、私と同じように霊能も霊感もないながら、信心深いというか、迷信深いというか、要は、神経質で、ちょっとしたことでも気になって眠れなくなるタイプの人でした。

 親父の方は、血液型A型を疑いたくなるような(あえてA型らしいといえば、どんなに酔っぱらっていても風呂にだけは入る、くらいか)マイペースの人で、お袋が気にするような案件は、ことごとく相手にしなかった人でした。


 そんなお袋が、「今日もまた、玄関で揺れたのよ。ガタガタガタって。他は揺れてないのに、玄関だけグラグラ揺れるの。玄関のドアのガラスもビリビリと震えていたし。これは、きっと玄関の前の井戸を埋めたからだわ。お父さん、お祓いして!」と、時にはまくしたてるように、時には考え込みながら言いました。


「そんなのは、迷信だ。揺れたり震えたりするのだって、どこかで工事している振動が伝わったものだ」

 

 親父の方は、お袋の進言に全く取り合うことなくそう返答していました。

 大体、玄関だけ揺れたり、玄関のドアのガラスだけ震えたりするなんてのは信じがたいものだったし、親父が言う「工事振動説」も、それはそれで現実的ではないと思っていました。


 お袋が亡くなって数年後のある土曜日のことです。仕事が休みだった私は2階の居間のソファに寝転がってテレビを観ていました。すると、ビリビリビリという音が聞こえ出したから、その音がする方向を見たら、居間と廊下を分けているドアのガラスがビリビリビリと音を出していることに気が付きました。

(もしや、これが…)

 私は、努めて冷静に部屋にあるすべての窓ガラスをチェックしました。しかし、ビリビリビリと音を出していたのは、そのガラス戸だけでした。

(やはり、これが…)

 私は、音を出すガラス戸に気付かれないようにゆっくりと近付いて至近距離からガラス戸を見ました。

 やはり、細かい振動がガラス戸を振わせて音を鳴らしていました。

 私は、いろいろ迷った挙句、おそるおそる手をガラスに近付けて、そして優しくガラスに触れると、音も振動も止まりました。


 お袋が言っていたことは間違ってなかったんだ、と思った後に、もしかして、お袋があの世から来たのかもな、って思った、という本当にあった不思議なお話、第三話でした。

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