お隣さんのお狐様
ビターラビット
玄関前の塊
都内のとある高級マンションのエレベーター内に、一人の青年の影が揺らめく。
青年の名前は七瀬 綾人。区役所公務員をしている23歳独身。ちなみに、16歳までバリバリにテレビに出演していた元子役で、変装の為に常に伊達メガネをしている真面目な好青年だ。そして、今彼が一人暮らしをしているこの高級マンションは、両親の所有する物件の一つだ。
ディスクワークで疲れが溜まった体を引きずりながら、綾人がエレベーターから降りて自分の部屋のドアの前まで行くと、ドアの前に本来ここにいるはずのない生き物が居座っている事に気がついた。
その金色で、サラサラした綺麗な毛並みの生き物は、まるでここが自分の定位置と言った感じで、堂々と決まった一定のリズムで呼吸をして眠っていた。そして綾人がその体を持ち上げると、一瞬半目を開けて綾人の頬に持ち上げた片手が触れたかと思うと、お腹をグーーッと鳴らして、またすやすやと寝てしまった。
「……取り敢えず、ご飯をあげるべきだよな?」
夜9時のキッチンに油がフライパンの上で弾ける音が響き渡る。そしてその鼻腔を擽る美味しそうな美臭と音に引き寄せられて、狐は耳をピクピクっと震わせて目を覚ました。
「あっ、目覚めたのか?あとちょっとでご飯できるから、いい子で待っていてな」
そう言って、綾人はパパっと今出来た炒め物をお皿に載せると、狐の前に差し出した。
狐は一瞬ビクッと反応して一歩下がったあと、やはりお腹が空いていたのかピクピクと鼻を可愛く動かした後、ご飯にがっついた。
ガツガツと食べながら、たまに喉に詰まらせてケホッケホッとしている姿が可愛くて、昔飼っていた柴犬の事を思い出しながら、綾人は頭を優しく撫でてみた。
狐はご飯に夢中で、もう綾人に興味ないと言った感じで尻尾をユサユサと動かしていて、それがまた愛らしかった。
綾人がお風呂から上がり、さっきまでご飯を食べてまたソファーで寝ていた狐を探してみると、図々しくも綾人の寝室のベットで堂々と真ん中を陣取って寝ていた。
その図々しい客人を起こそうと思ってツンツンと茂った鼻をつついてみると、お髭と耳をピクピク、尻尾をユサッと一回揺らして、トロンとした目をゆっくり開けたかと思うと、ハムっと綾人のパジャマの袖を引っ張ってまた寝てしまった。
綾人もその可愛さ根負けして、もう諦めてその狐を抱き枕にしながら寝る事にした。
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