グランギニョルを破る者
「お待ちしてましたよ、ええ。
坂田から恭しく、けれど一瞬たりとも警戒を解かず、少女を迎える。そこに崇敬や信頼はない。あるのは爆発物を扱うような丁寧さだけ。
「・・・・・・」
少女は何も語らなかった。
がらんどうの瞳は、坂田を認識しているとは言い難い。坂田はとくに気分を害した風もなく、部下に目配せをする。彼達は誘うように道をあけ、甲板を一望できる船室側の中央にすえた。
「まるで
そして
全てが配置につき、式の舞台が造り出される。
そして
「大変お待たせ致しました。つきましては皆々様に、ええ、ご報告があるのです」
右の口角が吊り上がっているのは、なにも縫い合わせのせいじゃない。
確かに
「先ほど日本政府に向けて、ええ、皆々様の
金という解決方法が提示され、人質の数人が
が、坂田の哄笑は家畜に向けるソレだった。
「金額は百兆円」
命は何よりも尊いから、国家予算と同額をふっかけた。
交渉がどんな結末を迎えるか、もはや火を見るように明らかだった。
「いやはや、こちらとしては
坂田は賢しらに笑う
「ですから教える必要がある。私達がたんなる人殺し集団だと。──おい」
ドスの効いた一言が合図なり、あのミノタウロスのような兵士がホルスターから拳銃を抜いた。人質は一斉に息を呑んだが、彼は引き金に指を掛けなかった。
「さきほどもお伝えしたように、命は何よりも尊いのです。ええ、ですからこうしましょう。そこのお嬢ちゃん、貴女が死ねば、目の前に居る二人を生かしますよ」
坂田はひとりの少女を指名し、残酷な判断を迫る。
目を真っ赤に
彼女は悪魔の化身のごとき男を凝視し、そして目の前に向き直る。
そこには彼女より一、二歳幼い少女達がいた。
今にも銃を落としそうな両手は、ゆっくりと自分のこめかみへ銃口をむけた。
「嗚呼、実に感動すべき光景ではないですか、ねえ。そう思いませんか、虚ろの姫よ」
恐怖の香りに
「これは貴女への
「・・・・・・・・・・・・」
「ご
そういうと、坂田は顔をあげた。
その眼光に憎悪と威圧を
「決して逃げられると思うなよ、化け物」
低い這うような声で、桜髪の少女を脅す。人を人とも思わず、非道の限りを尽くす坂田を以て、化け物といわしめる少女は、それでも
「やれ」
坂田は桜髪の少女を
兵士は
そして少女は涙で頬を濡らしながら、引き金に指を伸ばし──。
ダン、と。
人が甲板に転がった。
耳を澄ませていた坂田は、ゆっくりと拍手する。
ぱち、ぱと、と。
「こいつは、あれだね。デジャビュってやつかな」
甲板に、人が倒れる音はした。だが、銃声は鳴ってはいない。
「そういえば、ええ、忘れてましたよ。──貴方を」
坂田は悪魔めいた右頬を見せつけるように首を廻す。
「自己紹介がまだだったな、クソやろう」
そこには銃をおとし、悪夢から救われた女学生と。
その隣で伸びているミノタウロスのような巨躯の兵士と。
「
蹴り上げた右脚をそのままに、海風に着流しの
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