ラクディアント・ブギー

エリー.ファー

ラクディアント・ブギ―

 爆撃機の窓から見える街並みは星屑のロマンスだと先輩は言っていた。

 そう言えば、死んだらしい。

 戦争とかそういうのではなく、上官に殴り殺されたらしい。

 上官の妻にちょっかいを出したそうだ。どうしようもないと本当に思う。

 というか。

 そういうことをしないと、もう自分の中の感覚をまともに保つことすら危うくなっているということなのだろう。それだけ、戦争は文化を壊し、感覚を壊し、人と人とを壊した。

 当然、性欲というのはあるが。

 さすがに、そこは死に直結するというくらいは誰にだって理解できるはずだった。

 死ぬと分かっているからか。

 死んでしまうという運命が見えたためか。

 落とされる爆弾に自分の人生を、他人の哲学を、そしてこの国の行く末を込めてしまったからか。

 間もなく、この国は負けるそうだ。

 遠くからやって来た、魚たちに食い殺される。

 こうやって海から陸にやって来た魚たちの住む砂浜を爆撃したところで状況は変わらない。人間の数などたかがしれているとイソギンチャク提督が話していたが、まさにそういう事なのだと思う。

 人間はこの地球の支配者には似合わないし、そもそも、地球など支配できていなかった。

 海は偉大だった。 

 それだけだ。

 何人かの人間は海に何十時間も入り続けることによって尾ひれや、鱗、そしてえら呼吸ができる様になり、海側に寝返った。不思議なものでそれらの行為は人間だけに見られたわけではなく、山に住む野生のクマヤひいては烏などの鳥類にもみられる行動だった。

 交渉しようとしたこともあったのだ。

 余計な犠牲者は出すべきではないと人間側が海に語り掛けたのだ。

 実際、負けていたのは人間だったし、犠牲者の数も人間の方が圧倒的に多かったのだから、何故、上から目線でそのような交渉を行ったのかはよく分からない。

 簡単に言えば。

 交渉は決裂した。

 分かりきっていることであると言えば、分かりきっていることだったのだが。

 私は今日もそんなわけで。

 飛行機に乗る。

 魚たちが陸地に上がって作り上げた住宅街に向けて爆弾を落としていく。

 あの中でどれだけの魚が眠っていて、上空から死が降ってくるかもしれないと恐れているだろうか。

 安心。

 安全。

 安らぎ。

 その中に落とされる悲劇はきっと、水に浸されたところで消えてなくならないし、攫われることもない。

 これは。

 本当の意味で。

 人間が海に戦いを挑むのろしになるのだと思う。

 私は胸ポケットにしまっている写真を取り出し、見つめる。

 愛し合う私と婚約者。

 婚約者はヒトデだ。

 海に住む生き物の中で最も、奇々怪々と評されるヒトデだ。

 好きなのだからしょうがない。 

 愛しているのだ。

 ヒトデを。

 私は生まれた時から右足がなかったし、耳も聞こえない。

 それでもこうして軍人としての仕事にありつけて、最後には相手側にではあるが愛する存在も見つけられた。

 死ぬべき日、死ぬべき時間、死ぬべき状況というのはこういうことを言うのだろう。

 良かった。

 本当に良かった。

 私は少しだけ爆弾を落とすためのスイッチに指を乗せる。

 乗せて。

 息を吐き。

 そして力を入れるためにスイッチを睨み。

 息を吐き。

 そして。

 泣く。

 

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