第23話 ノート page22

 ところが、2、3日して会社の同僚から愕くことを聞かされたのです。

「この間あなたの彼、別れたはずの彼女と愉しそうに車に乗ってたわよ。私この目で見ちゃったんだから。気をつけたほうがいいわよ……」

 それを聞いたとたん、全身の血液が頭に逆流したようになり、どうやって家まで帰ったのか覚えがないくらいでした。

 その晩電話で彼に問い糺しました。

 最初彼は根も葉もないと否定しましたが、泣きながらしつこく訊くと、とうとう彼は本当のことを話しました。

 結局、私と付き合っていた1年間に、昔の恋人と縒りが戻ったということでした。

 私が1年間、湖の底に沈むマリモのように大切に育ててきたものは一体なんだったのでしょう。

 2人の愛じゃなかったのでしょうか。

 いや、確かに私にとってそれは愛に違いないものでした。

 だから私はいまでも彼を憎んではいません。

 私と会っているときは、いつも優しくてとても思い遣りのある彼でした。

 私に生命がある限り、彼はいつまでも私の胸の中で微笑み続けるでしょう。


 パパ、ママ、心配しないでください。

 私がこの家を出るのは、失恋したとか、家が面白くないからとかではなくて、考えるといままでの私は何かにつけて角張っていました。

 最近になってやっとそれに気づき、自己中心的で、強情で、短気で、融通のきかない私。

 そんな自分がつくづく嫌になりました。

 しばらくの間、自分自身を見つめ直す意味でこの家から離れることにしました。


 パパ、ママ、亜由珂の最後のわがままをどうか許してください。

 ママ、いままで本当にごめんなさい。

 パパ、躰に気をつけてお仕事頑張ってね!


                          亜由珂


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