第21話 ノート page20

 結婚するのは私なの、私がよければそれでいい、

 そう自分に言い聞かせて家に戻り、もう一度ママに自分の考えを伝えました。

 するとママはこう言いました。

「……あなたは、結婚と言うものは2人だけでするものだと思っているようだけど、そうじゃないのよ。

 結婚するって言うことは、先方さんと親戚関係になる訳だから、それ相当のお付き合いもしなければならないでしょ。

 相手の方は長男じゃないの?」

「そうよ」

「じゃあ、養子と言う訳には行かないわね」

「養子に来てくれたら、結婚してもいいのね?

 だったら私、彼に訊いてみるわ」

「――ママもまだ相手の方とお会いしたことがないし、

 一度夕食にでもお誘いしたら? パパにも会ってもらわなければいけないし……」

「わかったわ、そうする」

 そのとき私は瞳に一筋の光を見たような気がしました。

 やはり喧嘩腰で話すのではなく、ちゃんと話をすればママだって聞いてくれるんだわ、とつくづくそう思いました。

 その晩私はベッドの中に潜り込んでも、自然に笑みが込み上げてくるのでした。


 あくる日、会社が退けてから待合せ場所であるいつもの喫茶店に急ぎます。

 彼のほうは約束を30分過ぎて現れ、悪びれた様子もなく私の前に腰掛けました。

 そんな彼に少々腹が立ったのですが、昨夜のことを早く話したかったので我慢をしました。

 彼は私の話を冴えない顔で聞いていました。

 話終えた私は、いつもと違う様子の彼に、

「どうかしたの? 体調でも悪いの?」と訊くと、

「いや、ちょっと仕事のことが気になってたんだ」

 彼はぬるくなったコーヒーを口に搬びながら言いました。

 そのとき、私の話(2人の結婚について)と仕事とどっちが大切なのか訊いて見ようと思いましたが、どうせ返って来る返事は決まってるのだからと思い直して口にするのを止めました。

 来たときといい、話の途中といい、私が訊ねたこと答えるときといい、まるで別人と話してるようでした。

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