第19話 ノート page18
私は誰にも気兼ねすることなく、両手を拡げるような気持で彼との交際をしつづけました。
憧憬から意識、意識から嫉妬、嫉妬から愛へと移って行った私の心を理解しつつ優しく包んでくれた彼。
私はその彼に迷わず私のすべてを捧げました。
ところが、彼を信頼していた私の心にも時折炎が弱くなることがありました。
そんなとき、知らず知らずのうちに彼の気持に対して猜疑の冷ややかな気持を投げかけていました。
しかしそれもほんのいっときのことで、心の中で烈々と燃え盛る炎が衰えるということはありませんでした。
彼と私が結婚の約束を交わしたのは、知り合ってから1年後でした。
それは勝手に2人が決めただけのことで、お互いの両親に話したのはもっと先でした。
誓い合ってからの私たちは、会えば結婚生活への憧れと希望ばかりを話題にしているので、2人がすでに夫婦であるかのような錯覚に陥ることもしばしばでした。
そんな話をしていると愉しくて時間の経つのを忘れて家に帰るのがついつい遅くなってしまうのでした。
「亜由珂、最近嫌に帰りが遅いけど、何してるの」
ママは気がついているくせに、わざと私に訊ねます。
「別にィ……。何もしてないわよ」
「何もしてないってことないでしょ。とにかくここに坐んなさい」
座敷机を2、3度軽く叩いて言いました。
私は早くシャワーを浴びたい気分だったのですが、ママのすごい剣幕にそれどころではありませんでした。
「ちゃんと説明しなさい。あなたのしてること」
「なんでいちいち説明しなきゃいけないの? ほっといてよ、私のことなんか」
彼との甘い余韻を大切にしながら帰ってきたのに、ママのそのひと言でそれが泡のように飛び散ってしまった腹立たしさからそんな言い方をしてしまったのです。
「どこの人なの、お付き合いしてる人」
ママは眉を寄せ、そっけない言い方で私に訊ねました。
「ママには関係ないわ」
そう言ってから少し後悔をしました。
本当はもっときちんと話そうと思ったのですが、あんまりな言い方に拗(ねじ)けてしまったのです。
「関係ないことないでしょ。ママやパパにあまり心配かけさせないでよ」
「心配なんかかけてないわよ。ママが勝手にそう思っているだけじゃない」
「――」
ママはそれ以上何も言いませんでした。
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