第5話 ノート page4

 泣きながらママのところへ行ってトカゲの箱のことを話しました。

 するとママは、

「あんな気持の悪いもの飼ってはいけません。ママが逃したわよ」

 と顔をしかめながら言いました。

 大事にしていた私にとってなんであれが気持の悪い生き物か理解できませんでした。

 私に意地悪をしているとしか思えませんでした。

 その頃の私は鬱憤を晴らす方法として、オモチャにやつあたりするか、靴を蹴飛ばして玄関の外に放り出すくらいしか知らなかったのですが、このときばかりは悔しくて悔しくてどうしようもなくなり、思わず外に跳び出してしまいました。


 次の日もその次の日も箱の傍にしゃがみ込み、長い時間そこから離れずにいました。

 なんだかその内にトカゲが戻って来るような気がしてならなかったのです。

 ……いま、あのお兄ちゃんはどうしているのでしょう。

 そして何をしているのでしょう。

 ひょっとしてもう結婚しているかも知れません。

 できれば、一度会ってあのときのことを話したいと思っています。

 これまで書いてきたことは必ずしも自分の記憶だけを辿ったわけではありません。

 むしろ、パパやママに話してもらった幼い私のほうが多いかも知れません。

 しかし、脳裡に浮かぶ映像は、私の想い出に違いないのです。

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