【14】兎とイチャコラする日々

「薫、最近雰囲気変わったよね」と親友の美季。


 午後の体育の授業が終わり、女子更衣室で着替えていると、先に着替えを終えた美季が唐突に話しかけてきた。


「そうかな」

「なんというか……角が取れたってカンジ?」

「はあ? 意味わかんない」

「またまた~。何かあったんでしょ~」


 美季がニヤニヤしながら肘で小突いてくる。

 周りで着替えているクラスメートも、興味がないふりして思いっきり聞き耳を立ててるのが分かる。むっちゃダンボになってますよ! って。


「何かってなによ。別になにも……」

「隠さなくたっていーじゃん。分かってんだから」


 あんたに何が分かるってのよ、と薫は内心毒づいた。

 そもそも、雪宮ファンクラブなんてもののせいで、自分はご法難とやらに遭っているわけで、これ以上面倒事に巻き込まれたくはなかった。



                  ☆


「お疲れ」

 体育館脇、更衣室のある別棟から出るとすぐ、李斗が待ち構えていた。授業はこれで終わりだから、そのまま下校しようってことなんだろうけど……。


「出待ちとかやめてって言ったでしょ? どこで人が見てるかわかんないじゃない」

「ほら、薫ちゃんの荷物持ってきたよ~」

「それはいいんだけど……」

 李斗の気持ちも分かるけど、ちょっとは自分の立場も考えて欲しい。何度言ってもわかってくれない李斗に、少々イラっとくる。

「でね~、ちょっときて~」

 李斗が腕を引っぱって、校舎の裏に連れていこうとする。

「だから~、ちょっとはガマンできないの? 見られたらどうするのよ」

「ガマンしたよ~! 朝からずっと、いや昨日の夜からずっとガマンしてるのに~」

「のに~、じゃないでしょ、ったくしょうがないなあ……」


 周囲を伺いつつ、李斗と薫は、こそこそと校舎と倉庫の間に入っていく。

 外からは見えない死角に入った途端、兎神は襲いかかってきた。


「ちょ、ああ、だめぇ、ん、まって、ま……」


 李斗は薫を倉庫の壁に押しつけ、一心不乱に彼女の唇を貪り、体をまさぐっている。彼女の言葉は全く耳に届いていない。

 李斗の荒い呼吸と、薫の甘い吐息が狭い空間を埋めていく。

「ごめん……ごめんね……薫ちゃん」

「わか……っ……てるから、ちょっとだよ……?」

「ごめ……ん」

 八年も李斗を置き去りにしたこと、罪悪感がないわけじゃない。

 もろもろ含めて彼を受け入れた。でも――

 薫は全力で李斗を引きはがした。

「も、もういいでしょ! せめて家につくまで頑張ってよっ! 誰か来たらどうすんのよ、もう本気で怒るから!」

「うう~~~~~……わかったよう……」

 紅い顔をした李斗は、しょぼくれた様子で、足下に放り出した荷物を拾い始めた。


 このあいだ、李斗の自宅で一線を越えてからこちら、彼はずっとこの調子だった。

 人目のない場所を探しては、四六時中唇やらを求めてくる。まさに盛りの付いた兎。

 自分にも責任がないわけじゃないし、彼のことも好きだし、だからそういうことはイヤではないけど、さすがに薫にも限度がある。


 確かに見た目や振る舞いは中学生ぐらいの少年なのだけど、実際は数千年も生きている神サマだから、自分より大人どころのさわぎじゃあない。おまけに精力の強い兎の神サマときているから、非常に始末が悪い。


「ごめん、ホントごめん、お願いだから見捨てないで~」

 半泣きで薫の後ろをついてくる李斗。

 学校の最寄り駅のホームで騒ぎを起こすのは、ホントに本気でナシにして欲しい。

「わかってるっつってんでしょ! うっとおしい!」

「ああああ~ん、ごめんなさいいいい~~~~~」

「だあああっ! いいかげんにしないと殴るよ!」

「はひぃ……ごめんなしゃい……」

 

 李斗が必死に自制してるのは分かるけど、これっていつまで続くんだろう?

 彼が落ち着くまでに、彼のことを嫌いになっていそうな予感がする。

 自分にも李斗にもどうしようもないので、ホントに困ってしまう。

 ホントに本気で困ってしまう。

 別に安全な場所で好き勝手されるぶんには文句はないのだけど、(限度はあるものの)ガマンできないからって屋外で始められるのはとても困るわけで……。

 イヤだと言ってるわけじゃなくて、TPOをわきまえて欲しいって言ってるだけなのに、まあ当人も分かっちゃいるんだろうけどリビドーを抑えきれないのでどうしようも……ということで……。


 な に か あ っ て か ら じ ゃ お そ い ん で す っ !

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