詫び石の亡者どもは近寄るな!

ちびまるフォイ

詫び石のただしい使い方

「なんだこれ?」


ふと歩いていると足元にこぶし大の石が落ちいてた。

石の表面には「詫」と書かれている。


「……へび?」


「君、こんな夜遅くになにやっているんだ!」


「うわっ、びっくりした」


「びっくりするなんて貴様怪しいな。

 さては飯テロリストだろう。逮捕する」


「ちょっ……待ってくださいよ!」


見た目で誤解されることが多いがこんなにも話が早いことはなかった。

掴まれた手を振りほどこうとすると拾った石が手からこぼれた。


「あっ!」


石は宙に舞い、職務質問の警官の頭を直撃した。

これはまずいと青ざめたが警官は涼しい顔で戻っていった。


「これからは気をつけるんだぞ」


「え、いいんですか?」

「なにが?」


「さっきあんなに強引だったのに急におとなしくなったら」


「詫び石もらったからな」


警官は嬉しそうに石をポンポンと手の上で遊びながら去っていった。

取り残された俺はぽかんとするばかりだった。


「詫び石……」


それからは毎日詫び石探しを続けるようになった。

河川敷などよりも、人通りの多いスクランブル交差点なんかでよく見つかる。


「あっ、すみません」

「いいえこちらこそ」


お互いに肩をぶつかってしまうリーマンの後ろをぬって足元を見回す。


「あった!」


『詫』と書かれている石を拾った。

その足でコンビニに行くと駄菓子をカゴいっぱいに詰めたまま自動ドアへと向かった。

万引きGメンもあっけにとられるようなエクストリーム万引きを敢行する。


「ちょ、ちょっとあんた何やってるんですか!!」


カラーボールを構えた店員がレジカウンターを超えてやってきた。

俺はカラーボールの代わりに詫び石をぶつけた。


「痛っ……まったく、しょうがないなぁ」


詫び石をぶつけられた店員はさっきの必死の形相を落としてしまったかのように

穏やかな顔でレジに戻っていった。


「すごい! 詫び石さえあれば何でも許されちゃうんだ!!」


どんなに頑固で怒りっぽいカミナリオヤジでも、

ヒステリックにまくしたてるモンスターペアレントでも。

詫び石をぶつければあっという間に許してしまう。


世界で自分だけが身勝手な振る舞いを許されたような気分になる。


「しっかし、詫び石落ちてないなぁ……」


今日も猫背で地面の詫び石を探していた。

一度、川の中にあった詫び石を拾いに行って溺れかけたこともあり

最近ではもっぱら地面ばかりを探している。


けれど見つからない。

見つかりはするが俺の求めている量には程遠い。


「くそっ、どこかに詫び石工場でもあればいいのに!!」


ふてくされていると、目の前に待ち合わせしたカップルがやってきた。


「もうおそーーい、ずっと待ってたんだよ」

「ごめんごめん」


ぽろっと、遅刻した男の体からかけらが落ちたように見えた。

スマホのカメラで拡大すると、「詫」とカケラだった。


赤ちゃんと詫び石はどこからくるのか。

世界最大の謎のうちの1つがやっと解き明かされた。


「そうか! 詫び石は謝ったときに生まれるんだ!!」


思えば人通りが多い場所に詫び石が多かったのも、

ぶつかって謝ったことで詫び石が生まれていたのだろう。


試しに自分で必死に謝っても詫び石は出てこなかった。

詫び石が生まれるには必ず「相手」と「理由」が必要らしい。


「謝るのか……嫌だなぁ……」


自分でトラブルを起こして謝ることでしか詫び石は生まれないなら

それこそ当たり屋みたいに体をはるしかない。


そんなことは自分の人生でほこりのように積もったプライドが許さない。

だったら、相手に謝らせればいい。


「なんで俺がきたときに、肉まんがおいてないんだよ!!」


「いや、まだ準備中ですし……」

「そんなこと言って、本当は俺が食べれないように先回りしたんだろ!」


「お客様にそんなこと……」

「証拠はあるのか!」

「ないですけど……」


「じゃあ謝れ!!」


「ええ……?」


「チキン置いてなくてすみませんでしたって謝れ!!

 謝ればすべて許して、お会計して、快くこの店のリピーターになる!!!!」


「お客様はなにがしたいんですかぁ!」


「謝罪しろ!! はやく!!」


言っていることは支離滅裂で謝る理由なんてチリほどもない。

それでもこの面倒な客をさっさと片付けたいと店員は謝った。


すると、詫び石が出てきた。


「やった、これなら効率よく集められるぞ!!」


詫び石を背中の袋に入れる。気分は山菜採り。

さまざまな店に入っては理不尽なクレームで騒ぎまくる。


いかに相手が正しくとも、とにかくデカい声で騒ぎまくり

自分の主張を繰り返していればいずれは相手が折れて謝ってくれる。


背中の袋がサンタクロースをも詰めるほど大きくなった。

袋の口を開けばぎっしりと「詫」の文字がひしめいていた。


「だいぶ集まったなぁ。ふふふ、さーーて、何に使おうかな」


どこかのリゾートに行くか。

美味しいものを好きなだけ食べるか。

エッチなことをしてもきっと許されるだろう。


こっちには詫び石があるのだから。


「……ん?」


詫び石の使いみちを考えるためにスマホで検索していて気づかなかった。

俺の近くには物乞いのように大量の人だかりができていた。


「な、なんだよお前ら! いつの間に!?」


「それだけ詫び石があるんだから、これから謝罪するんですよね!」

「それともなにかひどい失敗でもやらかすんでしょう?!」

「はやく詫びてくれよ! こっちは詫び石がほしいんだ!!」


ゾンビのように俺の袋に手を伸ばしてくる。


「ふざけんな! この詫び石は俺のものだ!!

 俺は誰にも謝ったり、ミスしたり、怒られるようなことはしない!!

 詫び石をお前らに配ってたまるか!!」


「くばって~~くばって~~」

「わびいしぃぃ~~ほしいぃぃ~~」

「はやくあやまれよぉ~~わびいしぃぃ」


「話せこの石の亡者どもっ! 乞食にやる詫び石はねぇんだよ!!」


這い寄る人間たちから袋を振りほどいた。

石が詰められた袋を振り回した反動で後ろによろめいた。



体半身が道路に出たとき、目の前にはフロントガラスが迫ってきていた。


 ・

 ・

 ・


「ぐすっ……ぐすっ……」


開かれた葬式は重い空気が満ちていた。

車を運転していた運転手は大きな袋を残された両親に渡した。


「この度は……言葉もありません。これはほんの詫び石です……」


両親には息子が溜め込んでいた大量の詫び石が送られた。



「こんなもので……あの子が戻ってくるわけないでしょう!!」


両親は泣いて訴えると、葬式会場の横に併設された子供ガチャに詫び石を突っ込んだ。



「ああ、今度はもっと親孝行してくれる子供をください!!」

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