ラッキースケベを男がみんな喜ぶと思ったら大間違いだ
翌朝、目を覚ましたラフィンは隣の寝台を見て飛び起きた。
昨夜、確かに眠る前に隣の寝台に寝かせたアルマがいなかったのだ。
身支度もほどほどに客間を飛び出すと、近場にあった部屋の扉を数回ノックしてから大慌てで開く。
そこは昨夜、客間まで案内してくれたプリムの部屋だ。「ここにおるから、なんかあったら言って」と、彼女はそう言ってくれた。
「――おい! アルマがいないんだけど来てないか!?」
「な……!?」
だが、扉を開いて駆け込んだ先。
そこには驚愕に目を見開いて固まっているプリムがいた。なぜ彼女が固まっているのかというと――
「こんの、どスケベがああぁッ! レディの部屋をいきなり開けるやつがあるか、アホ――ッ!!」
「ああ悪い、それより」
「それよりってなんやねん! レディのおっぱい見てなんなんその反応!? 真っ赤になって慌てふためくとかもっとかわええ反応せーや!!」
ラフィンの視界には確かに大きな――本当にとても大きなお山がふたつ。
昨夜ラフィンと街中で乱闘騒ぎを起こした際、惜しげもなく揺れて野次馬の視線を釘づけにしていたほどだ、彼女の胸はアルマとは真逆で非常に大きい。
今まさに着ようと思っていたシャツを頭からかぶり、プリムは怒りと羞恥で顔を真っ赤に染め上げながら両手を振り上げる。
「女の着替え覗くなんてサイテーや! 一発股間でも蹴らせんかい!」
「股間以外ならどこ蹴ってもいいけど取り敢えずアルマは」
「アルマアルマアルマって、バカのひとつ覚えかいなドアホ! って……アルマちゃん? おらんの?」
そこでようやくプリムの思考も落ち着いてきたらしい、ラフィンの言葉の意味を脳が理解し始めると目を丸くさせて数度瞬きを打った。キョトン、とした様子で。
* * *
「アルマさんがいない?」
「まあ……その人、昨夜私たちを治してくれた人よね? あなた、お探しして。心配だわ」
「ああ、もちろん。ラフィン君、アルマさんが行きそうな場所とか心当たりはないかな?」
プリムの部屋でのひと騒動を終えてから、ラフィンは彼女と共に居間に足を運んだ。
その先ではプリムの父レーグルと、すっかり元気を取り戻した母エレナがいた。エレナは身体が快復したことが嬉しいらしく、満面の笑みを浮かべながら朝食の支度をしている。
だが、アルマがいないとなると両親二人の顔には心配の色が滲んだ。
「アルマが行きそうなところ……って言っても、俺たち昨日初めてこの街に来たばっかりで。あいつ、よくわからない場所では勝手に動き回ったりする性格もしてないし……」
「なんと、そうだったのか。では街の中を探してみるしかなさそうだな……」
アルマは人見知りが激しい部分がある。そんな彼が右も左もよくわからない場所を一人で歩き回るはずがないのだ。
一体どこに行ってしまったのか、ラフィンはそれを考えると思わず片手の平で顔面を覆って項垂れる。
だが、そこでふと――気になったことがあった。
「……なぁ、プリム。ひとつ聞いていいか?」
「ん? ええで、なんや?」
「例のあのカバン、中に何が入ってたんだ?」
アルマが持っていたカバンだ、大切なものが入っていると言っていたのをラフィンは確かに記憶している。その中身が気になった。
するとプリムは怪訝そうな面持ちで緩く首を捻る。だが、特に口やかましいことは言わず、人差し指を己の顎辺りに添えて間延びした声を洩らした。
「んーと……ほんまにただのガラクタやったで、確かペンダントや。オモチャのロケットペンダント」
「オモチャの、ロケットペンダント……?」
プリムから返る言葉を復唱すると、ラフィンはひとつ引っかかりを感じた。
オモチャのロケットペンダント――覚えがあるような気がしたのだ。あれはなんだったか、そう思案しながら真剣な面持ちで眉を寄せる。
だが、次の瞬間――紅の双眸を見開くと弾かれたように椅子から立ち上がり、居間を飛び出した。
「ちょ、ちょお待ちぃや! ラフィン!」
プリムは突然駆け出したラフィンに驚いたように声をかけた末に、父と顔を見合わせて共に立ち上がった。大慌てでその後に続き、全速力で後を追いかける。
「ラ、ラフィン、どないしたんや!」
「おい、昨日言ってた池ってどこにあるんだ!?」
「池? あ、ああ、あれか。街の外や、ブランシュとこのアーブルを繋ぐ街道のちょっと脇に……」
「サンキュ!」
プリムの答えを聞くや否や、ラフィンは再び駆け出した。今度は迷いもなく全速力で。
彼女が言ったのだ、中身がガラクタだったから池にカバンを投げたと。だが、ラフィンがそれをハッキリと口にしないのは、やはりレーグルがいるからだろう。
プリムとて、父親の前で暴露されたくはないはずだ。盗みを働いたことに激怒していた父だというのに、その盗品――しかも恩人の大切なものを池に捨てたとなれば、お怒りはどれほどのものになるか。
しかし、それでもやはり放ってはおけないとプリムは小さく頭を振り、わずかな躊躇の末にラフィンの後を追って駆け出した。
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