大好きなゲームに、取り込まれました。で、どっちに進めばいいですか?

工藤 流優空

序章

VRではなくて、自分・イン・ゲーム世界

 五十嵐茜いがらしあかねは、困惑していた。周りを見渡す。大きな噴水は、二足歩行のオオカミを模ったもの。辺りを行き交う通行人は、異世界で言う獣人族のような、二足歩行の獣たち。彼らは立ち止まって楽し気に会話をしたり、どこかへ急ぐように歩いて行く。


 茜は、両目をこする。そして頬をつねった。どちらも効果はない。彼女は首をかしげた。しかし、何かを思いついたようにぽんっと手を打つ。


「そっか、今度のゲームはVRゲームなんだな。すごいなぁ。本物みたい」


 彼女は、実際にVRゲームに手を出したことがないため、詳しいことは知らない。けれど、ついついそんなことを口走った。


 道行く獣人たちは、独り言を話す彼女を不審なまなざしで眺めながら通り過ぎていく。そんな周りの様子を気にも留めず、彼女は続ける。


「ゲームの世界に連れ込まれる小説とかって、ちゃんと読んだことないけどさ、自分のステータスとかだいたい見られるようになってるよね」


 ここで言葉を切る。そして少し考え込んだ後、恥ずかしそうに小声で言った。


「ステータス、展開ッ」


 ……しかし、何も起きなかったようだ。茜は、がっくりと肩を落とす。それから、噴水に近づいた。水に映る自分の姿を確認して、彼女はほっと一息をつく。


「なーんだ、自分の見た目には変化なしっと。……えっ、変化なしっ!?」


 一瞬納得して噴水から距離をとろうとした彼女は再び、噴水の水に自分の姿を映し出す。そこには普段と変わらぬ姿……――、小さめの身長、肩あたりまで伸ばした少し取れかかったパーマの髪をした女性の顔が映る。個性的なピン止めと、俗にいう少しゴシック風な茶色と黒のベストにヒラヒラレースのスカートも、彼女が好んで着るファッションスタイルだ。


「……いやいやいや、一時間くらいかけて完成させた、私のキャラクリエイトは、どうなったのよっ!?」


 そして、周りをもう一度見渡す。そして、声に出すのも恐ろしそうに言った。


「……えーっと。……これって、まずい展開? もしかして、ゲームの世界に転移させられたっていうヤツかな?」


 RPGが好きで、ライトノベルをよく読む彼女は、ゲームに取り込まれるような小説は、あまりよく知らない。けれども世界に取り込まれてわずか数分で、ことの次第を、少しだけ理解したのだった。

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