大好きなゲームに、取り込まれました。で、どっちに進めばいいですか?
工藤 流優空
序章
VRではなくて、自分・イン・ゲーム世界
茜は、両目をこする。そして頬をつねった。どちらも効果はない。彼女は首をかしげた。しかし、何かを思いついたようにぽんっと手を打つ。
「そっか、今度のゲームはVRゲームなんだな。すごいなぁ。本物みたい」
彼女は、実際にVRゲームに手を出したことがないため、詳しいことは知らない。けれど、ついついそんなことを口走った。
道行く獣人たちは、独り言を話す彼女を不審なまなざしで眺めながら通り過ぎていく。そんな周りの様子を気にも留めず、彼女は続ける。
「ゲームの世界に連れ込まれる小説とかって、ちゃんと読んだことないけどさ、自分のステータスとかだいたい見られるようになってるよね」
ここで言葉を切る。そして少し考え込んだ後、恥ずかしそうに小声で言った。
「ステータス、展開ッ」
……しかし、何も起きなかったようだ。茜は、がっくりと肩を落とす。それから、噴水に近づいた。水に映る自分の姿を確認して、彼女はほっと一息をつく。
「なーんだ、自分の見た目には変化なしっと。……えっ、変化なしっ!?」
一瞬納得して噴水から距離をとろうとした彼女は再び、噴水の水に自分の姿を映し出す。そこには普段と変わらぬ姿……――、小さめの身長、肩あたりまで伸ばした少し取れかかったパーマの髪をした女性の顔が映る。個性的なピン止めと、俗にいう少しゴシック風な茶色と黒のベストにヒラヒラレースのスカートも、彼女が好んで着るファッションスタイルだ。
「……いやいやいや、一時間くらいかけて完成させた、私のキャラクリエイトは、どうなったのよっ!?」
そして、周りをもう一度見渡す。そして、声に出すのも恐ろしそうに言った。
「……えーっと。……これって、まずい展開? もしかして、ゲームの世界に転移させられたっていうヤツかな?」
RPGが好きで、ライトノベルをよく読む彼女は、ゲームに取り込まれるような小説は、あまりよく知らない。けれども世界に取り込まれてわずか数分で、ことの次第を、少しだけ理解したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます