第15話 村人たちの救世主
(アハハハハ…バーカ、バーカ)
(君は本当に出来損ないですね。だからそんな目に合うんですよ)
(お前が生まれたせいで息子は死んだんだ!)
(あんたが死ねばよかったのよ)
幻影のように掠れた人々の心無い言葉がシノアの心を突き刺す。
生まれてから苛まれてきた苦痛に顔を歪める。
なぜ自分がこんな目に?
いくら考えても答えの出ない命題はシノアを苦しめ続ける。夢の中でも。
「おい、また魘されてるぞ」
「ほんとだな。いったいどんだけの悪夢なんだか…」
「おい、顔の切地かえてやるぞ」
シノアの顔に触れていた布が離れ、再び布が置かれる。
冷たい布の感触に思わず声をあげるシノア。
「ぅ…ぁう…」
シノアがうめき声をあげると周りの男たちはざわめきだす。
「お、おい!起きたぞ!」
「村長呼んで来い!」
「女神さまもだろうが!」
二人はどたばたと部屋から出ていき、一人はシノアの具合を見る。
「恩人様、大丈夫か?ちゃんと記憶あるか?自分のことわかるか?」
そう言いながら頭に置かれた布をとり、顔をのぞき込む村人。
「う…あの、ここは…」
自分が見ていた悪夢を振り払いながら村人に尋ねる。
「覚えていないのか?まぁ、無理はないだろう。三日前に―」
村人の話をまとめると、こうだ
。
シノアが謎の闇に支配されかけたあの時、村人たちは穴の中で聞こえてくる剣劇と爆音におびえていた。そして、突然光が見えたかと思ったら穴をふさいでいた結界がなくなり、協力して恐る恐る穴の外へ出たがそこには魔物たちの姿はなく、倒れたシノアとフィリアを見つけたのだ。服の汚れや、点々とする血に二人が魔物を退治してくれたのだと考えた村人たちは、二人を村に連れ帰り看病をしてくれたのだった。
「そうですか…助けてくださって、ありがとうございます」
助けてくれたことに対して礼を言うシノア。
「いやいや、恩人様なんだから当然だ。それであの日のことなんだが―」
手を右左させながら照れたように礼を受け取り、どうやって魔物を倒したのかを聞きたげな村人だったが横やりが入ってしまい、会話は中断された。
「おい、村長呼んできたぞ」
村長を呼びに行った村人が戻ってきて、村長がシノアの具合をたずねる。
「シノア様、大丈夫ですか?ご気分はどうですかな?」
「はい、大丈夫です。それで―」
魔物に攫われた人々の無事を確かめようとしたのだが、それはかなわなかった。
部屋に突然入ってきた乱入者に押し倒されたからだ。
「シノア…よかった…心配、したよ?」
目に涙を浮かべ、シノアをのぞき込む絶世のという言葉がぴったりの女性はフィリアだ。シノアのために近くに生えている薬草を採取しに離れた時以外は付きっ切りで看病しており、三日三晩寝ずだったほどだ。
「ふ、フィリアさん、すみません。ご心配をおかけしました」
三か月の間、寝食を共にしてきたことである程度慣れてはいたが、至近距離で密着し見つめ合うことなど数える程度だったため、シノアはかなり緊張していた。
ちなみに村長含む、村人たちは空気を読んで退散済みだ。
「ううん、大丈夫。ただ、背中を取られたかと思ったら気を失って…目を覚ましたら村にいてシノアが昏睡してたから動揺しちゃっただけ。三日も眠ってたんだよ?」
シノアに急接近したままフィリアが事情を説明する。
「すみません…まさか三日も眠っていたなんて思わなくて…ご心配をおかけしました」
フィリアはシノアに大きな傷や心的外傷後ストレス障害がないことを確認し、身体を放す。しかし、目線はしっかりとシノアに添えられたままで、わずかに潤んだ瞳がシノアの心拍数を上昇させる。
「とりあえず、あの日のこと、詳しく教えてくれる?」
「そ、そうですね、わかりました。実は―」
シノアはフィリアにあの日、フィリアが魔物に背後を取られ傷付き倒れた後のことを話した。語りかけてきた謎の声や体を包んだ闇、それらからシノアを救ってくれたペンダントなど包み隠さず、全てを話した。
全てを話し終え、シノアはフィリアの反応を見る。フィリアは手を口元に置き、考え込んでいるようだ。
「どう、ですかね?フィリアさんなら何か知っているかと思ったんですが…」
「うーん、わからないな。外的な要因で体を乗っ取られかけたとは考えずらいし…内面に潜むなにか…?シノア、心当たりある?」
フィリアの問いに当時の状況をよく思い出しながらシノアは答える。
「わかりません。ただ、あの声に導かれるままに魔法の詠唱をしたらすごく楽に発動できました。たぶん、最上級レベルの魔法だったと思うんですけど中級を発動するときよりも魔法の制御は楽でした」
「そう…シノアの保有魔力量と魔法制御能力から考えるとそれだけの魔法を魔法陣も無しに10以下の詠唱句で発動できるとは思えないし…その謎の声の補助って考えるのが自然なんだけど…」
「はい、それだけの補助が可能と考えると…憑依系の魔物、でしょうか?」
「そう考えるのが自然だけど一瞬で身体の主導権を奪って力を付与する、なんてことができそうなのは相当高位の悪魔ぐらいなんだよね」
「そういえば、身体の主導権を奪われかけた時に神聖属性の波動を感じましたけど…」
「それって聖、なわけないよね。冥?」
「おそらく…闇に似た感じでしたけど、闇よりも、もっとこう…禍々しい感じがしました」
「うーん、それなら悪魔はないってことか。どういうことなんだろ…」
そこで思い出したようにシノアがペンダントを取り出す。
「あの、そういえば身体を完全に乗っ取られかけた時にこのペンダントが光って、そしたらだんだん意識がはっきりしてきて…」
シノアが差し出したペンダントを受け取り、観察するフィリア。
「うーん、そんな効果があるのかなこのペンダント…」
「これってどうやって手に入れたものなんですか?」
シノアが持っていたペンダントはもとはフィリアのものだ。旅を始めて一月ほど経ったときに“お守り”として渡されてものだった。
「結構前に孤児院をやっているおばあさんからもらったものなんだけど…魔除けだー、とか言ってた気がする。魔導具でもないし、あんまり信じてなかったんだけど…ほんとだったみたい」
そういうとシノアにペンダントを返す。そして立ち上がると―
「わからないことを考えてたってしょうがないよ。ともかく、村長さんたちの所へ行こ?誤解されたままだと居た堪れなくなっちゃうよ」
悪戯な笑みを浮かべ部屋から出て行った。
謎の声の正体やペンダントなど、釈然としないシノアだったが考えてもしょうがないと思い、フィリアの後を追っていった。
その後、大事をとって1週間ほど村に滞在することになったのだが、その間シノアは村人たちの好奇の視線を浴びる事となる。シノアが眠っていた間のフィリアの態度と一つ屋根の下で寝泊まりしていることを踏まえると仕方ないともいえるのだが…娯楽の少ない小さな村にとって格好の
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