第3話 王都の街並み
王都へ向かう馬車の中で一行は興奮しっぱなしだった。
なにせいきなり魔法や剣が当たり前の異世界に召喚され、自分たちは強大な力を持った、いわば勇者のような存在だといわれたのだ。中学2年生という好奇心満載のキッズには刺激が強すぎるというものだろう。
「なぁ、独眼竜。お前もう武器決めた?」
「フッ、当然だろう。俺は右手に刀を持ち、左手で魔法を放つ!ピンチの時には刀を持ち替え、右手に封印されし暗黒邪神を―」
「おー、すげーなー。ところで、委員長は決めた?」
さらりとかなりの重症患者をスルーし、話題をリーダー的存在の
彼と会話していた重症患者こと
「浮かれすぎだろ、お前ら…まぁ気持ちはわかるがな。俺は特に決めていない。普通に騎士みたいな剣になると思うがな。黒瀬はどうだ?」
気持ちが浮ついていることを注意しながらも榊原自身も普通ではありえない状況に興奮気味だった。
さらにヒートアップしそうになる気持ちを落ち着かせる意味も込めて隣に座っている
「俺は、そうだな。槍とかあったら使ってみたいんだよな。俺、小さい頃ばあちゃんから薙刀教えてもらってたからさ」
「まじー?!初知りなんだけどそれ!海翔が薙刀とか意外過ぎてウケるんですけど」
思いがけない告白に隣で足を組み黒瀬の腕に抱き着いていた
「たしかに黒瀬が薙刀とは意外だったな。君はどうなんだ?奈々」
水無瀬の凶器にくぎ付けになりそうなのをこらえて榊原が聞く。決して外面にはそういった態度は出していないが。
「ウチはあれかなー、動くのだるいし、魔法でドーン!みたいな?」
「はははっ、水無瀬らしいな」
「まーね★そいや、ゆっきーは決めた?」
水無瀬奈々の若干侮蔑の感情を含んだ問いかけにビクッと肩を震わせる
「わ、私はそういうの怖いから…後ろのほうで回復役とかできたらいいな」
少々笑顔を震わせながら答える今井有紀。彼女は入学して間もない頃から水無瀬に目を付けられ、いじめられていた。そのため、かなり水無瀬に対して苦手意識を持っている。もはや恐れているといってもいい。
「ふーん、つまんな。ま、いいや。そいやシズシズはどうすんの?」
水無瀬の辛辣な言葉に表情に影を落とす今井。だが、誰も慰めようともしない。中学生にして絶対的なカーストには逆らえないようだった。
「私は…そうだね、短剣を二刀流とかやってみたいかな。できれば魔法も使ってみたいけど」
水無瀬と今井のやり取りを気にも留めず、
九重への問いかけの中にとげのようなものは含まれておらず、カーストにおいては水無瀬と九重が同列であることがうかがえた。
そして水無瀬が今井にしたときとは比べ物にならないほどの侮蔑と嘲りを込めていじめの対象であった
「そういえば、無能君はどうな―」
「はいはーい!僕はやっぱり魔導書!やっぱこれはずせないよねぇ~」
聞かれてもいないのに高らかに宣言したのはある意味神愛以上に煙たがられている存在、
本人は気づいていないが周りからはとてつもなく嫌われていた。神愛以上と言っていいかもしれない。神愛という存在がいるからこそ
「ふ、ふーん、そうなんだ。それは置いといて無能君はどうなの?」
九重が心底鬱陶しそうに話を逸らす。
「ぼ、僕は、体力とかもないし動けないから後ろから援護出来たらいいかな」
若干しどろもどろになりながらも神愛が答える。
それを揶揄するように黒瀬が―
「バーカ、何に関しても無能なお前が魔法使えるかよ」
そこで多少神愛をかばう田中。
「おいおい、黒瀬言いすぎだろ。少しぐらいは使えるんじゃねーの?」
「はい、でたー正義のミカタ、田中政くぅーん」
どうやら8人の中にもシノアの味方(?)はいたようだ。それによってある程度弊害もあるようだが。
傍から見れば和気あいあいとしているように見えなくもない会話を交わしている一行だったが、馬車が停止するのを感じ外を見た。どうやら王都入り口の門についたようだ。
「皆様お待たせいたしました。ここからは徒歩となりますのでお降りください」
馬車の扉をあけながらメリギトスが外へと促す。
「あ、はい。そういえばどこが目的地なんですか?」
一行が思っているであろう疑問を代表して榊原が聞く。
「あのお城でございますぞ。あそこにて皆様の魔法適性やステータスなどをチェックさせていただきますのでな」
「え、お城ってあのお城のことですか?」
「いや、こっから歩きとか無理じゃね?」
榊原たちが下りた地点は王都の入り口付近の門である。ここから城までは少なく見積もっても5キロはある。
「ご安心くだされ。ここから歩いてすぐの地点に神殿があるのですじゃ。そこに王都へとつながる転移紋がございますのであともう少しの辛抱ですぞ」
さすがは異世界。移動からしてファンタジーだ。
言葉通りに歩いて数分もしないうちに周りの建物とは雰囲気の異なった建物が見えてきた。石造りの建物で古代ローマ調の美しい彫刻がなされている。入り口付近には全身を鎧で覆った兵士が立っている。
「〇▽□▲◆●△■」
「神聖王国騎士団、第二師団団長メリギトス・アルベリヒ・ユルゲンだ。召喚されたものたちを王都へ案内するところだ」
兵士の問いかけに堂々と答えるメリギトス。だが一同には兵士たちの話している言葉が分からなかった。
「さて、参りましょ――どうかなさいましたかな?」
一同が、そういえば異世界なのにどうして今まで普通に会話できていたんだろう、と疑問に思う。
「いえ、いまさっき話してらした兵士さんの言葉が分からなかったので少々疑問に思っただけです」
一同を代表して九重が問う。
「おお、失念しておりました。我々はこの“語らいの指輪”がありますので皆様とも自然に会話できるのですじゃ」
なるほどと納得する一同。
「ささ、こちらへ。日が暮れる前に王都へ向かいましょうぞ」
メリギトスに促されて神殿に入り、その内装のあまりの豪華さに一同は息を呑んだ。
小型のロタンダの壁は驚くべきことにすべて大理石だった。そこには壁画が描かれており見るものを圧倒する。さらに入り口には見事な彫像が2体。雄々しく佇む男と胸に手を当て祈るような姿の女の彫像だ。そして天井には現代技術をもってしても不可能なのではと思えるほど荘厳なシャンデリアがあった。光を当てているわけでもないのに煌びやかに輝いている。
思わず、我を忘れて眺める一同に嬉しそうにメリギトスは声をかける。
「気に入ってもらえたようで安心しました。ささ、中央の魔法陣へ」
まだ眺めていたい一同だったが、待たせるわけにもいかないので言うとおりに中央に描かれた魔法陣へと歩を進めた。
「では、お気をつけて。我等は馬車にて王都へ向かいます」
「うむ、儂は先に召喚された皆様の鑑定などを行っておく」
「はっ、それでは失礼いたします」
メリギトスを除く神官たちは馬車へと戻っていった。
「あの、どうして魔法陣で移動しないんですか?」
率直な疑問を神愛が口にする。
「いえ、魔法陣は制御が難しくてですな。神官たちも魔法陣を使うとなると正しく機能するかわからないのですじゃ」
魔法陣は国家創成から引き継がれているいわば伝説上の代物だという。一種の魔導具のようなものだが、使用するのはかなり難しいのだという。
「それでは行きますぞ。“我、ここに道を開かん、
一同は再び光に包まれた。
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