ひめごと!②
「分かったよ、ルーシェ……これで良いか?」
「う、うむ……」
ただ名前を呼んだだけ、しかしそれだけで何処か俺達の距離が縮んだ気がするのはきっと気の所為では無いだろう――。
「「……」」
俯くルーシェを見て何故か自分も言葉を発せられずにいる。
そんな少しばかりの静寂に包まれている中、それを破ったのはリリムだった。
「で? ル・ー・シ・ェ・よ、結局お主の言う頼みとやらは話何なのだ?」
「え? あ、す、すまない、そうだな……ゴホンっ!」
何故か不満気な様子で軌道修正を測るリリムの言葉で我を取り戻したルーシェが態とらしく咳をする。
「実はアルス殿、貴殿に救って欲しい人がいるのだ」
「救って欲しい人?」
「あぁ……私の父親、ヴァルシャ帝国現皇帝、ヨハンス・アマデウス・レーゼンベルグを救って欲しいのだ――!」
それから彼女は沈痛な面影で話した。
曰く、1年前、彼女の父親である皇帝が突如何の前触れもなく倒れたそうだ。
容態は酷く、まるでミイラかの如く身体は日に日に痩せ細っているのにも関わらず、彼の表情はまるで苦しんでる様子は無く、寧ろ何事もないかのような、普段と変わらない終始穏やかな表情をしていたらしい。
その奇妙で不気味な症状は帝国一の医者でも分からず仕舞いと前例の無いモノ。つまるところ原因不明の病だと判断されこの先の回復の見込みは望み薄だそうだ。
流石にこの件をありのまま民衆に伝えてしまったら混乱を招きかねないと判断した上層部の者達により、今は緘口令を引いて情報の拡散を抑えているらしいがさておき、そこで一つ問題が起きた。それは"次の皇帝は誰になるのか"と言うモノ――本来ならその権利は現皇帝にあるのだが、当の本人が意識不明の寝たきり状態。
聞けば、そもそも現皇帝が王に就任してから15年程度しか経っておらず、定年に至るのも、次期皇帝候補を決めるのも当然ながら当分先の話だった。
そんな中で起きた今回の出来事。事情を知る一部の貴族達は薄情の如く、次の皇帝を誰が良いのかと、自らの望む存在を王位の地位に引き上げ、おこぼれを与ろうとして、腹の探り合いなど。正に異世界モノ定番の派閥争い的な事が始まろうとしているらしい。
まぁ正直、政治とか全く詳しく無いし、ほんと昔から勉強において社会科科目だけは超の付くほど苦手で、テストなんかは記号で答える以外の問題は全て空欄だったレベル故に、彼女から世事の話を聞いたところで7:3いや6:4? くらいの割合でしか理解出来てないし、「世界がやばい……! じゃなくて、お父様がやばい! でも治ればオールオケ?」ぐらいの感想しか出てこないが、それよりも――
「原因不明の病、か……」
「それがどうかしたのか?」
本当にそうだろうか?
物事が起きるには当然、原因がある。
例えば地震は、ズレた地盤が元に戻ろうと迫り上がった際に生じる振動によるものであり、津波はその地盤のズレが海中、又は海岸付近で起きた場合に起こり、雨が降るのは空に登っていく水蒸気が冷やされ氷の粒となり、それが次第に大きくなり重たくなると雨として地に落ちる。つまりは我慢出来なくなった雲さんの放尿であり、登山家が山へ登るのはそこに山があるからなどなど――そう言ったものは病気にもあり、基本的に病気と言うのは、細胞ウィルスの変異によって引き起こるとされている。
当然ながら歳をとれば取るほどに体内にある何かしら免疫力が低下し、病気にかかりやすくなる。しかし聞けば彼女の父親齢37と比較的まだ若い部類だ。
勿論、それが一概であるとは言えず、若くして病気にかかる者も少なからず居るが、それでもそう言ったもの達は、普段から体調が優れなかったりとか、何かしらの予兆というものを見せる。
加えて彼女ルーシェ曰く、王としての政治の才能だけでなく武の才能にも長けていたらしく、普段からよく身体を動かす人だった様だ。
そんな絵に描いたような健康人が何も前触れなく倒れ、その原因が病気だと言う事があるのだろうか? 少なくとも俺にはとてもそうは思えない。
「いや、何でもない……」
それに王というのは、慕われると同時に恨まれる存在でもある。
あまりマイナスな考えはしたく無いが、最悪の場合もある。
「話分かった。用はルーシェの父親さえ何とかすれば、よく分からん派閥争いが無くなるわけだな?」
「恐らくは……」
「悪いが政治に手を出すつもりはないぞ?」
「それは当然だ。最初に言ったようにアルス殿に頼みたいのは父の件でだ。その後の事は我々が為すべき事。だから――」
俺たちしか居ない、静かで薄暗いこの空間が、そして空気がそうさせているのだろうか、彼女の表情はまるで緊張してるかの様に頬が強張っていた。
それでもこちらを見つめる眼差しは真剣そのもので――
「改めて、貴殿の力を見込んでどうか……どうか父上を救って欲しい!」
その表情を隠すかの様にして彼女ルーシェは俺達に頭を下げた。
「……」
「主人あるじ……」
さて、どうしたものか……と言いたいところだが、既に自分の中で答えは出ている。
流石に彼女の父親の容態を確認もしないで、「大丈夫」だとか「何とかなる」精神を和らげる一時凌ぎの言葉を言えないが、かと言って、こうして王女としての誇りを捨て、目下の存在に頭を下げてまでいる彼女の想いを果たして無碍に出来るだろうか。答えは否。だから――
「わかった。治せる補償は出来ないが、出来る限りのことはしよう(それに知り合ったばかりとは言え、ここで見捨てたらなんか目覚めも悪いしな……)」
「良かったなルーシェよ。勿論、妾も協力するのだ!」
「あぁ! 2人とも有難う……!」
顔を上げ、感謝を述べる彼女の表情には、先程までの重暗い様子は無くどこか付きものが取れた様な、そんな感じの笑みを浮かべていた。
後書き
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