vs黒い怪物④


お知らせ


今話から


人同士の会話は「」


リリムとの念話は『』


魔物の鳴き声は『』


と分ける様にします




 この世に生きとし生けるものであれば、必ず一つは弱点と言うものを持っている。


 弱点とは、種全体または個、特有が持つ己が欠点であり――この世に完璧な存在がいないと言う裏付けでもある。


 例えば人間であれば耳が弱い、くすぐりに弱いなど、海に生息する生き物であれば電気に弱いなど例を挙げればきりがない。


 そんな個によって様々な弱点を持つ中、その誰しもが共通して持っている弱点がある。それは弱点よりも弱点であり、俗に急所と呼ばれている場所――そう股間もしくは孔門なのだ。


 少し話を変えよう――ポケッ○○ンスター、通称ポケ○ンと呼ばれる子供から大人までが遊ぶ大人気ゲームがある。このゲームは捕まえたモンスター同士を戦わせたりするのだが、その中でこんな文章を目にした事は無いだろうか――「急所に当たった!」――急所などとオブラートに包んでいるが要は、股間または肛門に当たりました! と言っているのである。そんな大事な部分に当たれば体力が通常より大きく持っていかれるのは当然と言えよう。


 ところでなんで急にこんな話をしたかって? ――別に何となくだ。何となく弱点について話してたらふと頭に浮かんできたから言ったに過ぎない。他意など無い。

 そもそも俺はいったい誰に話しかけているんだ? ――まったく、如何やら一人になると独り言が増えると言うのは本当のようだ。


 まぁ兎に角、奴には股間の痛みというのを味わってもらおう。


 と言う事で孔門にしろ股間にしろ、そこを狙うには一度背後に回り、懐に入る必要がある。その為にはあの尻尾が邪魔になる。


「奥義【炎舞】!」


 奥義【炎舞】は刀に炎の付与と《技能》【空絶】での斬撃設置をせずに発動状態を維持したままにする事によって出来る技であり、刀跡が炎を纏いまるで演舞の様に舞、敵を穿つ事からつけた名である。

 因みに【炎舞】意外にも、水を纏った【蒼舞】、風を纏った【翁舞】と刀に付与する属性の種類だけ数がある。


 尻尾での攻撃を失敗したと悟った黒い怪物は再びこちらに向き直り攻撃してくる。


 俺の意図を察したのかそうで無いか知らないが、先程までの愚直な突進はせず、一定の距離を取り、黒炎を次々と吐いてくる。


 正面から向かって来たものは障壁を展開し防ぎ、起動変化して横から来たものは《孤月・偽》で切り防いで、再び奴の背後を取る。


 するとこれまた再び尻尾で叩き潰さんとした勢いで攻撃してくる。


 それを俺は【技能】《空歩》で空中へと駆け上り回避する。


 何度目かの《空歩》を使用した後、今度は自分の足元ではなく上空に《空歩》で足場を設置した後に踏み込んで疾駆――一気に黒い怪物との距離を詰める。


 その際、巨人を討伐せんとする何処ぞの兵長かの様に身体を回転させ勢いをつける。


炎舞火炎車!」


 振り下ろされた刀は回転した時の遠心力も加わり、あっさり胴体と尻尾を切り離す。


 しかしここで俺の攻撃は終わらない。


「蛇の尻尾を持つ魔物……何となくお前の正体が見えてきた気がするよ」


 視界の端に切り離された尻尾から黒い靄が晴れていき、その正体は蛇であったがそれは後で――既に俺は次の行動を始めていた。


 地面に着地し、《瞬歩》で一気に黒い怪物の股下へと潜り込む。

 それと同時に【炎舞】を解除した後にすかさず刀先に魔力を込める。そして――


「奥義【砕牙】!」


 奥義【砕牙】は刀先一点に魔力を集中させ放つ突き技あり、現時点での俺が持ちうる奥義の中でも上位に値する威力を持つ。その威力は大きな鉄塊すらも簡単に砕いてしまう程である。


【砕牙】の一撃を受けた黒い怪物は、一度ビクンッ! と大きく反応すると、まるでその場から逃げる様に前方に跳躍してこちらに向き直る。


 どうだ!? 効果抜群か!? それとも今ひとつか!? どちらにせよ確実に股間に当たったのは間違いない――。


『……』


……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あれ? もしかして効いてない?


 黒い怪物はまるで何とも無いかの様にその場に立ち尽くし微動だにしておらず、黒い靄から覗かせるクリッとした紅い粒らな瞳は唯ジッと俺の事を見つめている。


 いくら声が出ないとは言え、流石に股間スマッシュされたなら、のたうち回る位の大きな反応を見せてくれると思ったのに、相変わらずの無反応というか感情の無さに少し、ほんの少しだがショックを覚える。


 まぁいい、股間がダメという事は、そこに大事な物がついていない――要は雌だったのかもしれない。ならば次はもう一つの急所である孔門を狙おう――そう思い駆け出そうとした次の瞬間――


 ドシーン!!


 黒い怪物は事が切れたかの様に綺麗に横に倒れた。


 如何やら漫画とかでよく見る反応が遅れてやって来る「お前はもう死んでいる!」パターンだった様だ。

 だが流石に股間に一撃加えただけでやられるとは思えない。何せ相手は災害級なのだから――俺は何が起きてもいい様に警戒を緩める事なく黒い怪物を見守る。


「……」


 しかしそれから数秒経っても黒い怪物は起き上がる事は無かった。


「……」


 え? もしかして今のでやっちゃった? 本当に股間からやっちゃったの俺……。


「……と、取り敢えず見てみるか……」


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 #@&?(魔物) Lv99


  【体力】0/ 9999


  【魔力】7854/ 9999



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「……」


 ご覧ください――あれだけ体力と魔力が有り余りすぎて、活きいきと、否、元気溌剌と言った感じに暴れ回っていた黒い怪物が、なんと言う事でしょう! ――たった一発、股間をスマッシュされただけで、「ウソみたいだろ、死んでるんだぜ」と、ついつい言いたくなってしまう程に呆気なく息の根を止めてしまいました。これには匠も驚きです。


「……」


 ……ほんとさっきまであれこれ考えてた自分が馬鹿らしく思えるくらいに呆気なく死にましたはい。


「……あ、そう言えば《弱点突破》で効果が倍になってるんだった……いや、だとしても本当に股間から死ぬなんて。あんなの言ってみただけなのに……しっかりしてくれよ災害級……」


 股間スマッシュの威力スゲェ……これからも時より使って行こう――そう胸に決意した時であった――。

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