vs黒い怪物③

 と言う事で本題に戻ろう。議題は勿論、《第三階位魔術》に頼らず黒い怪物をどう倒すかである。


「……」


 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………


「……」


 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………


「……スゥー」


 なんか考えるのがめんどくさくなってきた……。


 カオスネグロとの戦いで見せた《第三階位魔術》の魅力に囚われていたせいか思考が偏ってしまっていたが、別に奴を倒す手段は一つだけではない。以前より強くなった今の俺ならその方法は多様にある。


 と言う事でここはゴリ押しで行こう――だからもう何処に攻撃が当たるとか、いちいち考える必要はない。どうせ数打てば当たる――某有名RPGゲームで言い換えるとすれば「ガンガン行こうぜ!」ってやつだ!


 それにせっかくの機会だ。今まで使ってこなかった勇者時代に身に付けた技をここで披露しようではないか……まぁ、観客は0人、誰も見てないんだけどね……そもそも邪魔だと言って追い払ったのは俺だし仕方ないか……でもちょっと自慢したかったなあ……。


 とにかく、そうと決まれば後は行動あるのみ――地を蹴りこちらに向かって跳んでくる黒い怪物の前に障壁を展開する。一度放ってしまえば、その行動を終えるまで曲がる事が出来ない。ただ愚直までに一方通行を貫き通すロケットかの如く、空中に居た奴は咄嗟の回避行動が取れずに、障壁に向かって衝突する。


 その隙に俺は再び奴の背後にまわる。勿論その間に気休め程度でしかならないが、魔術で攻撃るすことを忘れない。何せ攻撃さえ当たれば僅かであれども体力は減るのだから――。


「――――――」


 人や魔物、痛覚を持つあるあらゆる生き物は自分が想像し得ない痛みに対して、それなりの苦痛の叫びと言うものを挙げるものだ。例えば、学校の体育の授業でソフトボールをやった際に自分のところに飛んで来たボールがイレギュラーで思いっきり股間に当たった時のあの、何かが腹の内に登ってくる様な猛烈な痛みには、叫ばずには居られないだろう。勿論ソースは俺である。


 しかし奴はその様な様子を一切見せ無い、思いっきり顔面ダイブしたのにも関わらずだ。もしかして奴には痛覚がないのか? ――いや、そもそも痛覚が無い魔物なんて聞いた事がない。魚型の魔物ですら痛覚はあるのだ。(魚には痛覚が無いらしい。痛覚があると言う説も出てるらしいが、そんなものは知らん! )――もしかしてあの黒い靄には痛みを感じさせない何かがあるのか? まぁ、それならそれでも別に構わない。寧ろ煩くないので有り難いくらいだ。


 障壁に向かって顔面ダイブした黒い怪物は、その場で少し蹌踉めくも直ぐに体制を立て直すと、俺の事を探してか辺りをキョロキョロしだす。だが、俺は背後にいるので奴の視界に映ることはない。勿論、その際に先の失敗を繰り返さないためにも今度はきちんと気配を抑えている。


 しかし――


「うわっ!?」


 黒い靄の中からこれまた靄を纏った、細長い何かが生えて来た。身体の位置的に恐らく尻尾だろう――それはまるで、それ自体が一匹の生物であるかの様にウネウネと蛇動し、その先端が俺のことを捉えると、数秒と間をおかずに、蛇が獲物を捕らえるときの様な勢いのある突進を仕掛けて来た。


 俺はそれを後ろへと跳び、回避する。

 すると一人歩きし出した尻尾は突進し出した勢いを殺せず、急停止する事叶わぬまま、虚しくも誰もいなくなった地面へと衝突し、その衝撃で土煙が宙に舞う。


「ビックリしたなぁ……」


 もしかしたら最初俺の位置に気付いたのは、気配を察したからでは無くて、あの尻尾が原因なのでは無いのだろうか――もしそうだとしたら黒い怪物は前後に周囲を見渡す眼を持っていると言うことになる。

 そしてそれは誠に――


「ウザいな……」


 それから暫くして煙が晴れると、先ほどまで俺がいた所の地面は深くえぐれていた。


「うわぁ、こんなの喰らったら一溜りも無いな」


 正直、尻尾の攻撃威力には驚かされた。

 本来、物理系と特殊系でその効果の差を比べる様なものではないが、恐らく、いや確実にそれは迷宮の九十階層にいたヨルムンガンドが繰り出す光線よりも威力は上回っている。

 それは改めてこの黒い怪物が災害級――正真正銘の怪物ばけものであると実感した瞬間だった。

 だが何も悲観する事はない。眼、つまり顔、そして脚と尻尾の面が割れた事で、それを繋ぐ胴体まで――黒い怪物の全長をおおよそだが把握できた。


 これから俺が仕掛ける攻撃ならそれで位で充分――と言う事で、本格的に反撃開始だ――奴には股間から死んでもらおう――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る