これからの事

「なぁ主人よ…」

「ん?どうした?」

「もしかして《六勇者》ってのは皆んなこいつみたいな奴なのか?」


 そう尋ねるリリムは、どこか不満そうな表情をしていた。


「さ、さぁどうだろ……それよりどうしたんだ?そんな顔をして?」

「うーむ、妾に報酬がない事は、分かっていたつもりでいたのだが、実際に貰えないと少し不満になるのだ」

「それは、しょうがないとしか言いようがないなぁ……じゃあ地上に戻ったら、リリムの好きなのを食べに行こうぜ」

「ハンバーグがいいのだ!」

「お、おう分かったよ」


 毎回思うが、やはりちょろいな、チョロインさんだなぁ。お兄さん心配だよ…。






 ♢






 さて、手紙も読んで報酬も無事受け取った事だし、これからの目標とか何やらを少し整理してみるか。


 まず俺が最も果たしたい―――いや、果たすべき事は、ティアとの約束、それすなわち、神界ではなくこの地で再会することだ。

 しかしその約束を果たすには、レベルが足りていない。

 カオスネグロを倒した事で多少なりとレベルが上がったがそれでもまだ足りない。少なくとも、右手に宿る【悪魔紋】が《十枚羽》に進化出来る程には、強くならなければならないだろう。


 それと自称創造神やこの世界の事情については、今は深く考える必要はないだろう。というのも、奴はまだ俺が記憶を取り戻した事に気付いていないからだ。きっと奴が気付いたならば、この世界の事情を知る者として排除しにかかるだろう。迷宮に籠っている事もあるが、今はそう言った傾向は一切感じられない。

 だが、奴が気付くのも時間の問題だ。だからそれまでに自分のすべき事をする必要がある。


 よって最も優先すべき事は、自身の強化だ。


「リリム、地上に出たら一度王都に戻って旅の準備をするぞ」

「うむ、分かったのだ…だが主人よ、良いのか?学園には戻らなくて…きっとあ奴らも心配してるのだ…」

「分かってる……でも、今学園に戻ってのんびり過ごす訳にはいかないんだ…この世界の現状について前に説明したのを覚えてるか?」

「主人の前世の記憶についてと一緒に聞いたから覚えてるのだ…確か、四柱だった神のうちの一柱が裏切り、自然の女神を倒し、その力を取り込む事によって、この世界の八割近くがその裏切り者の手の内にあり、その結果都合のいい様に常識を改変されているんだったのだ。そして、その裏切り者こそ、この世界の創造神としての崇められている自称創造神のフォーリアなのだ。その自称創造神こそが主人を異世界から召喚して、使いつぶした後に殺した張本人なのだ」

「あぁ、そして奴は俺が転生した事に気付いていて自分に刃向かわない様にか、俺から記憶を奪った。でも一度死んだ衝撃で、こうして俺は記憶を取り戻した。もし奴がそれに気付いたら、今度こそ消しにかかって来るだろう。だからその時が来た時に対応できるように強くなる必要があるんだ」

「うむ、成る程……して本音は?」

「早く強くなってティアに会いたい!」

「はぁ〜、何となくそんな気がしてたのだ……それに、なんだろう。主人が嬉しそうに女神の話をする度に胸の辺りがチクチクと痛むのだ…」

「なんか言ったか?」

「いや、なんでもないのだ……それより、旅をするのは良いのだが目的地はあるのか?」

「あぁ、目的地は東の大陸にある勇者が建国した国だ!そこでこの刀…孤月の本物を受け取りに行く!」



 勇者として召喚された時は、何の疑問も持たずそういうものだと、言われるがままに魔族と戦った。しかしその先に待っていたのは、自称創造神による死の啓示だった。

 だから二度目の今回は、ちゃんと自分の意思を持ち、言われるがままに事を成す、YESマンにはならないようにしよう。

 そして強くなろう。すべては、ティアと再会を果たし、自由を手に入れるために。









 迷宮攻略編 完

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