双剣の勇者

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 救世主へ


 先ずは、迷宮攻略おめでとう。


 この手紙を読んでるって事は、最後の試練である、十問クイズを見事全問正解したと言う事だね。解いてみて分かっていると思うけどあの問題は、アルテンシアの人間には絶対に答えられない内容になっている。

 つまり君が女神様の言っていた俺たちと同じ地球からやって来た《初代勇者》であってるかな?あっ!でも転生して今は、別人なんだっけ?まぁでも中身は同じだよね!


 ―――と言う事で初めましてかな?

 百階層で俺が残したアナウンスを聞いている筈だから、もう俺が誰なのか知ってると思うけど、一応もう一度自己紹介させてくれ―――。

 俺の名前は、織田真司。

 アルテンシアに転移する前は、《エタニティ・オルガン》と言う、大手有名ゲーム会社の社畜をしていた二十九歳独身だ―――。もう一度言う、二十九歳独身だ!

 そして彼女募集中です!……と言うのは嘘です。ちゃんと結婚出来ました。でもアルテンシアに来るまではマジで独り身でしたはい。


 ……さて、本題に入る前に、少しだけ俺の身の上話をしても良いかい?


 俺がここアルテンシアへやってきた経緯は、そう、あれは確か夏を知らせるセミたちが鳴いている八月の気温が35度を超える、夏真っ只中の頃だった。その日は丁度給料日で、そのお金でいつもの様にDVDショップにある、とある条件をクリアした選ばれた者達だけが脚を踏み入れることが出来る、魅惑の華園――――つまり、18禁コーナーに入った瞬間だった。一般コーナーと18禁コーナーの境界線である暖簾を上げて中に入れば、裸の美女達が俺を待っている―――その筈だったのに、眼を開けてみればそこは、森だった。

 その森からは美女達は愚か、生き物一匹の気配さえ感じなかった。

 朝のルーティンや夜のルーティンと言うのがあるように俺には、給料日のルーティンと言うのがあって、それがDVDショップの18禁コーナーに通ってひと時の幸せを掴む事なのだが、まさか会社にバレたのか!? 

 それでこの仕打ちですか!? 新手のドッキリですか? 

 それともアレですか? 「カップ麺片手にコンビニを出たら異世界に居ました」みたいな展開ですか? 冗談じゃないですよ! まだ心の準備が出来てないですけど!? そう言うのはお互いの承諾を得てからするべきではないですかね!? て言うか、あと少しで心のオアシスと御対面だったのに、次の瞬間にはこんな何も無い森に居ましたとかマジやめて欲しいんですけど!? 俺のこの昂った性欲はどうすればいいんですか!? もっと、労働者を労ってよ! これは余りにも酷い! 横暴! 鬼畜! 人でなし! 黒い、黒すぎるよ! 異世界転移はブラックすぎるよ! てか、そろそろ看板持ってきてネタバラシしてもいいんじゃないですか? てか、そろそろ看板持ってきてネタバラシしてもいいんじゃないですか?

 まぁ、そんな感じで、急な出来事に混乱してたら、脳内に女神と名乗る女性が直接話しかけてきたわけよ。なんか声が可愛かったから、きっと見た目も可愛いんだろうなぁと思って告白してみたんだけど、まぁ丁寧にお断りされましたね!なんでも既に好きな人が居るとか……はぁ?誰だよ!女神に好かれる男とか!ふざけるなよ!?一発顔面殴らせろや!こちとら二十九年間ずっと独り身なんだぞ!

 そしてそんな俺を無視して女神様は話を続けてるから、取り敢えず話だけでも聞いておこうと思ったわけよ。そしたらなに?この世界結構ヤバくない!?自称創造神が好き勝手やってるとかもう、オワコンじゃん!

 俺そういうの望んでないんですけど!?

 異世界ってもっと楽しいモノだと思ってたよ!

 例えば、魔王軍の幹部なるものが現れても、そいつの頭で冒険者仲間とサッカーが出来るくらいは平和だと思ったよ!

 この世界全然素晴らしくないよ!

 それと、せめてジャージ着てる時にこっちに来たかったよ!だってそうじゃん?

 最近の異世界モノは、ジャージが定番じゃん?

 君もそう思わないかい?

 これじゃあ、ジャージから始める異世界生活できないじゃん!ジャージに祝福できないじゃん!


 とまぁ、何やかんや言いましたが、女神様からは頭の片隅においておく程度で後は自由に過ごして良いと言われたから、同じ地球からの転移者と仲良くなって好き勝手に過ごしまくって、その勢いで国を建国しちゃったりしちゃいましたテヘペロ!


 そして、気付いたら《六勇者》なんて呼ばれるようになったわけだけど、その勇者って言葉で思い出したんだ。

 この世界割とマジでヤバかったんだったって。


 おっと、少しだけど言いながら結構長々と話し込んでしまったね。と言うわけで、そろそろ本題に入ろうか。


 改めて迷宮攻略おめでとう。


 もう気付いていると思うけど、迷宮を突破した君に二つの報酬を用意させて貰ったよ。


 一つ目は、マネキンに着せてある、黒いトレンチコートだ。実はそれただのコートでは無く、魔力を流すことによって障壁が生まれて、自身の身を多少なりと守ってくれる魔道具なんだ。ただし、一度の発動で生成される障壁の数は一枚だからそこら辺気をつけて使ってね。


 そして二つ目は、マネキンにの横に立て掛けてある黒い刀だ。

 どう?カッコよくないかい?因みにその黒刀の名は、《孤月・偽こげつ・レプリカ》だ。

 名前にある通りにその刀は、偽物で本物のレプリカなんだ。すまないが本物は、此処では渡すことが出来ない。

 ―――というのも、万が一にもあり得ないがもし、君ではない誰かがこの地に到達して、いい奴ならば兎も角、悪い奴でそいつがもし、本物を手に入れてしまったら非常に面倒だからね。レプリカ程度だったら何とかなると思ったからだ。

 まぁそれでもそのレプリカ、ミスリルで出来ているから並の武器よりは強力だよ。


 だから君が本物を手にする事を望むなら、東の大陸にある俺が建国した国に行くと良い、そこに本物は、眠っている筈だから。因みに入国する際は、そのコートを着てくと良い、俺の言い伝えが守られているのならばパスポート代わりとして、きっと役に立つ筈だ………多分。


 そう言えば、俺と同じ地球からの転移者で《六勇者》の一人でもある、ジャックも君に何かを残したと言っていたな。確か本だったかな。もしかしたら魔道書とかかもね。やったね!

 彼もまた、俺と同じく国のようなモノを建国したから気になるならば脚を運んでみると良い。あ、でも入国には、条件があったような、まぁそこは自力で頑張ってくれ!


 本当は、直接渡したかったんだけど、君が転生する頃には、俺が生きているかどうか、わからないからね。


 だからこの迷宮を造ることにした。

 救世主と言うからには、それなりに強いと思って、強い魔物を配置して、これを突破し、予防線として用意した最終試練をも突破出来たものに渡そうと思ったんだ。


 この手紙を読んで、どうするかは君の自由だ。


 世界の命運なんてほっといて、俺たちと同様に自由に生きるのも良し、世界を救っちゃって可愛い美女達に囲まれながらのハーレム生活を目指すのも良し。


 因みに俺はハーレムルート目指そうとしたけど失敗したよ。まぁ、それでも可愛い嫁さんと結婚出来たから良かったんだけどね。


 という事で話は以上だ。

 もう、俺の伝えたい事は全部伝えたから、この先君がどうするかは、先も言ったように君次第だ。

 だが、もし叶うなら、これらの報酬が君の旅に役立つ事を俺は願う。



  織田真司より


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